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INTERVIEW

Japanese

ギリシャラブ

2019年04月号掲載

ギリシャラブ

Member:天川 悠雅(Vo)

Interviewer:TAISHI IWAMI

-「おれは死体」は作品中でも異色のトラップがベースなんで特にわかりやすいですが、どの曲もリズムの個性が立っていて、流れとしてメリハリがあることも今作の特徴のひとつだと思います。

リズムは常にこだわってるポイントなんですけど、正直なことを言うと「薔薇の洪水」は、今これをやる意味はなんなんだろうって。

-まさにそのことを聞こうと思ってたんです。はっきりとサビを引き立てる日本のポップスにおける常套。もう少し派手にビルドアップすればEDMになる。時代感的には「おれは死体」より少し前ですし。

これはアルバムの中でも後半にできた曲で、そのこともわかっていました。だから最初はこういう曲も必要だと思って手をつけたんです。

-それは言ってしまうと日本人の好みに合わせたのでしょうか?

いえ。参考にしたのはちょっと前のPHOENIXです。

-「Entertainment」(2013年リリースの『Bankrupt!』収録曲)がヒットしたころですね。

はい。詳しいことは忘れたんでいい加減なことは言えないんですけど、ある記事を見たんです。アメリカで同時期に観たPHOENIXのライヴと、R&B系だったかヒップホップだったか黒人音楽のライヴを比べての感想みたいな内容の。それで、客層がまったく違ったらしいんです。簡単に言うとPHOENIXは白人の裕福そうな若者がほとんどでみんな落ち着いて観ていた。かたや黒人音楽の方は人種とか関係なくいろんな人がいて、熱量もまったく違ってそこに確かな熱狂があった。今はそういう時代なんだって。

-そういう傾向はあると思います。

黒人音楽は人気だけじゃなくて力があるのは誰が見ても明白だし、僕も好きです。日本でもその要素を取り入れるのはトレンドと言ってもいい。

-はい。

黒人音楽の力と隆盛には思想的な話もあると思うんですけど、それは抜きにしてPHOENIXだってすごくいいバンドだし、そういう記事を見ると単純に逆をやりたくなっちゃうんです。もし自分のライヴで客層が大人しくてもダメなことだとは思わない。リズムで言うとファンクの16分音符とロックの8分音符のどっちがいいとか、そこには優劣なんてないんです。四つ打ちだってそう。日本のロックのことはあまり詳しくないんで間違ってるかもしれないですけど、今海外の音楽をリファレンスしているミュージシャンやそれを中心に追ってる人たちって、日本によくいる速い四つ打ちのロック・バンドに批判的な目線の人が多いじゃないですか。

-私もそうですね。

それはよくわかるし僕も同意見なんですけど、四つ打ちそのものを追求する余地はまだ十分にあると考えているから、ヒップホップやR&Bの要素とか、"〇〇こそが2019年にやるべきことだ"という流れに沿う必要はないと思うんです。

-国内のロックにおける速い四つ打ち批判は、それを軸にした構造のテンプレート化ですよね。フェス・ビジネスが巨大化して自分たちを始めて観るお客さんへの即効性を競うがあまりの。そこに対する抵抗はありませんか?

なるほど。そこまでは考えたことなかったですし、抵抗しようとしたことはないですね。むしろ海外のインディー・ロック的な、自分たちがずっと好きな音楽に対するリアクションはあります。僕らは国内の"インディー・ロック勢"みたいな範疇に入りたくない。海外のインディー・ロックが好きでそれをやるってことと、日本のインディー・ロックの間には何かしら隔たりがあると思ってるから。"インディペンデント"とはなんなのか。日本だとたぶんメジャー・レーベルに所属していないとかなのかなと思うんですけど、それって本当の意味でインディペンデントではないような気がします。そこには島や派閥めいた、"どういう感じのものをいいと思ってるのか"みたいなことで括られるムードがあると感じていて。だからどこにも入りたくないし、括られたイメージは持ちたくないんです。

-日本での"メジャー予備軍"を指す"インディー"に抵抗があるのはわかります。では、そうではないインディペンデントやオルタナティヴを突き詰めるバンドやアーティストが、結果として閉ざされて浮上しにくい状況についてはどうでしょう。そこで、時代に一石を投じようと近い音楽性や思いを持ったバンド同士が結束するのも、また外の人間がそれを特定のシーンや呼称で括るのも、必ずしも悪いことではないし、自然なことでもある。またバンド側からしても、その方が多くの人に知ってもらうきっかけを掴みやすいとも言えませんか?

そうかもしれません。簡単に言うと、じゃあギリシャラブはお洒落かお洒落じゃないか、そこに本質なんてないじゃないですか。そういう話が苦手なんです。まぁどっちにしても僕らはどこにも括られないような気がしますが。

-たしかに括りにくいです。次は「薔薇の洪水」と同じく予想外な曲調とオリジナリティの関係性において共通項のある「悪夢へようこそ」について。JETやAC/DCを思わせる原始的なハード・ロックの要素が見えました。ここまでベタなロックはルーツにあってもやらなさそうだと思ったんですけど、いかがでしょう。

やらなさそうですよね。みなさんにどう受け取られるのか興味のある曲です。完成した経緯は、特に何を参考にしたわけでもなく、なんとなくやったらできました。僕は結果的にリフがT. REXの「20th Century Boy」かなって思ったんですけど、たしかにハード・ロックみたいだって話にもなりましたし、みんなもちょっと笑ってたし、冗談めいた雰囲気もありつつ、最終的にいい感じだってなりましたね。

-「愛の季節」はパキッとした機械的なエレクトロ・サウンドと、歌にある詩的で人間的な哀愁のマッチが印象的でした。

この曲は、歌詞やサウンド、あらゆる面でフランスの音楽や文学からの影響があります。

-Charlotte Gainsbourgが2017年に出したアルバム『Rest』が重なったんです。あの作品は、フレンチ・エレクトロの機械的な強さに、フランス語の性質による譜割や、Charlotteの囁くような歌が生む独特の湿度や色気のあるメロディが重なった、新しい感覚がありました。

AIRはよく聴いてたような覚えがあります。今、日本である程度多くの人に聴かせる目的でシンセのディスコ・ビートを使う場合は、コードに対してきれいなメロディや泣けるメロディを乗せることが多いように思うんですけど、そこで普通に喋ってもいいし、リーディングをしていてもいい。「愛の季節」は別に喋ってませんけど、そういう感覚はフレンチ・ポップからきてますね。結局メロディの良し悪しは感じる人によりますし、いいメロディを書くことよりその曲が何を求めているかに神経を研ぎ澄ましています。

-「薔薇の洪水」も「悪夢へようこそ」も他の曲もそれぞれタイプは異なりますが、近いことが言えると思うんです。演奏を拾うとダンスでありポップでありロックでありキャラクターがはっきりしている。そこに移ろいや悲しみや優しさのような、ある意味曖昧な感情を持ったメロディが乗る。実体のあるものと解釈の幅があるものの組み合わせが面白いアルバムだと思いました。

おっしゃったようなカチッとした演奏は自分たちの特徴だと思ってます。例えばD'ANGELOのような、ニュアンスを拡大している感じからは最も遠い。

-D'ANGELOとはスタイルもサウンドの質感も異なりますが、もともとはその"ニュアンス"を大切にしてましたよね?

はい。『イッツ・オンリー・ア・ジョーク』のころも今もどこで音を鳴らさないかに注力している点では同じですけど、ニュアンスをどう出すかが、人間が演奏している良さだと思っていたことにおいては、今は違うような気がします。機械的とは思ってないですけど、堅さみたいなところが特徴になってきました。80年代はそういうバンドが多かったし、70年代後半ですけど、JOY DIVISIONもそうじゃないですか。でも僕らとJOY DIVISIONは決して似てない。彼らは歌も含めてJOY DIVISIONだから、それ以外の何者でもなくて。僕らの音楽もそうあればいいなって思います。