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INTERVIEW

Japanese

ENTHRALLS

2016年11月号掲載

ENTHRALLS

Member:井上 佳子(Vo) 中井 傑(Ba) 青木 康介(Key)

Interviewer:沖 さやこ

-Track.3「センセーショナル」は広くてゆったりしたスケール感のある音像が心地いいと思いました。でも、歌詞はこのアルバムの中で一番ネガ要素が強いという。

中井:僕は今回のアルバムの中でこの曲が一番好きなんですけど、初のフル・アルバムの曲で、サビで"伝えたいことなんて無い"と書けるのはすごいなと思って(笑)。この歌詞は絶対に聴いてほしいなと思ったから余計なことはせず、素材の旨味を存分に味わってくれ! と思ってシンプルにして、今の形に落ち着きました。

青木:アルバムで一番音数が少ないし、目立つフレーズがあるわけでもないので、今まで音を詰め込んで作ってきたぶん、この曲のアレンジはちょっと怖かったんですよ。でも、完成してみて"これだけ音抜いてええんやな"と思いました。ドラムは普通じゃないフレージングにして、音は広がりがある洋楽的な録り方をして。バスドラムとちっちゃいドラムを繋げたりしてるんです。そうすると図太い音が出るんですよね。

井上:同じやり方のコーラスは使わないようにしたし、同じ音は使わないようにしたんです。「センセーショナル」はこれだけシンプルなアレンジなので、イントロから引き込むために"ヤバい音出そう!"という話になりました。この曲は歌詞とアレンジの対比が生まれて、救いようのない人が主人公の歌詞にこういうアレンジが加わるのは、(歌詞が)救われるような感覚があるので、良かったなと思います。

-ポジティヴな曲が揃うなかで、救いようがない人のことを歌った理由とは?

井上:今作の裏テーマに、ちょっと盛り立てたり飾り立てて見せようとしたりしてしまって、見失いがちな"本来の自分"について考える、というのがあって。そういう部分は私にもたぶんあるだろうし、私以外の人にもあるだろうし。飾り立てすぎて"自分、ほんまは何もないのにな"と思うようになってしまうのかな、と......。それが「センセーショナル」の主人公なんですよね。"自分には何もない"ということに気づくだけで幸せになれるかどうかが決まるんやなと思うんです。自分には何もないことに気づかないまま飾り立て続けると、すごく楽しい人生を送れると思うんですけど、気づいてしまうとそれは無理やなって。この主人公は気づいてしまった。そういう悲劇を書きました。

-それもENTHRALLSの掲げる"劇場型ピアノ・ロック"なのでしょうか?

井上:映画や演劇を観ているとき、感情移入して"これ自分のことかな"と思って泣けたりする感じが私たちにとっての"劇場型"の解釈です。私が歌詞で情けない人のことを書いたりすることで、そういう人にこう思ってもらえるのかな......と考えながら書いてるので、どの曲でも嘘はつかないでおこうと思っているんです。

-今回のアルバムも様々なシチュエーションの様々な心情が切り取られていますが、それもすべて井上さんが持っている要素ということですね。Track.8「誓いのとき」の"すばらしいものだけで創れない未来を下さい"など、ポジティヴなだけでは生まれないポジティヴなラインがすごく生々しく響いてきます。

井上:この曲は綺麗事だけではないものにしたかったんですよね。友達が結婚式で歌ってほしいと言ってくれたので作った曲で、自分が結婚する男の人だとしたら......ということを考えたので、この曲は新郎から新婦に向けたイメージの曲なんです。結婚は将来を約束するものだから、いつかどちらかが先に死んでしまう。そういうことを歌った結婚ソングはあまりないなと思ったので――"遺体"という言葉を入れてしまって大丈夫だろうか? とちょっと悩んだんですけど、この曲は絶対にこの言葉がないとダメだと思ったんですよ。"そういうときがきっと来るだろうけど......"、"ひとりでいたくないためにあなたといるわけではないんです"という気持ちを込めました。実際、結婚式で演奏するのにこの曲でええんかな? とは思ったんですけど、軽くない曲にしたかったんです。

-Track.10「あたらしい女の子」は"ENTHRALLS史上初の応援歌+呪い"という(笑)。

井上:"いやがらせしてやりたい/死ぬまでずっと忘れられないような"と歌ってたり、ラストに高笑いの声が入ってたりしますけど(笑)、この曲はこのアルバムの中で一番ポジティヴかなと思います。女の怨念も入っているので、メンバーからは"ホラーや"と言われました(笑)。

青木:ほんま怖いです(笑)。

中井:制作中は楽しい曲やなーと思ってたんですけど、レコーディング中に歌録りを聞いて"あれ? この曲ちょっと、捉え方によっちゃ怖いんちゃうか?"と思いました(笑)。

井上:"あたらしい女の子"という言葉も人によって受け取り方は違うと思いますけど、執着地点は応援歌です(笑)。今作の中では喜劇のイメージの曲ですね。

-独特の癖もありながら(笑)、肩の力が抜けたユーモラスな曲だと思います。こういう曲が終盤にあるから、序盤にあった「センセーショナル」のような悲劇の曲も、受け取り方が変わって。アルバム1枚でひとつの物語を描いているような気がしました。

井上:あぁ、ありがとうございます。そういうことがしたかったんです。最後の「レプリカ」(Track.11)で"空気人形"がゴミになるシーンや、手塚治虫さんの"火の鳥"でムーピーのタマミと現実逃避をするシーンが頭に浮かんでいる状態で作った曲なのもあって、すごく沈んでいくイメージがあって――2ndミニ・アルバムもそういう終わり方だったんですよね。でも今回は前向きなCDにしたかったし、"ちゃんと生きているんだ"という意味を持たせたくて、シークレット・トラックに「糧」という弾き語りの曲を入れました。"生きていかなくちゃ"という言葉でこのアルバムを終わらせたかったんです。

-本当に新しいことができたアルバムになったんですね。

井上:歌詞の面でも音の面でも、縛りがなくなって。いろんなものを脱ぎ捨てられたというか......いろいろ脱ぎ捨てたかった。ひと皮剥けた姿を見せたい気持ちが表れたアルバムになったと思います。

-井上さんは長い髪の毛もばっさり切りましたしね。

井上:そうですね。金髪にもしました(笑)。

中井:"脱ぎ捨てる"という言葉に通じるのかもしれないですけど、音もどんどんシンプルになっていって。シンプルな方が届きやすいし、響きやすい。1枚目や2枚目を作っていたころには想像できなかったサウンドになりました。

青木:今作を作って、今までは"ピアノ・ロック・バンド"という言葉にすごくとらわれてたんやなと思いました。ヴォーカルと同じくらいピアノを弾きたくらなければいけないという強迫観念が時間を追うごとに減っていって、僕らとしての"劇場型ピアノ・ロック"がだんだん見えてきたというか。だからより素の状態が出たのかなと思います。今回はいろんな曲を作ることができて、自分たちはいろんなことができるんやなということもわかったし。もっと変な方向に行ってみても面白いし(笑)、自分たちでもバンドのこれからが楽しみでもあるんです。

中井:いい意味でこれからも先を見据えすぎない。そのときそのときに思ったことをちゃんと曲にして、次も作っていきたいと思います。