Skream! | 邦楽ロック・洋楽ロック ポータルサイト

MENU

FEATURE

Overseas

THE FRATELLIS

2013年10月号掲載

THE FRATELLIS

Writer 山口 智男

"このバンドが単に恥知らずなロックンロール・バンドであることを端的に伝えるレコードを作りたかった。それと、これから何年も俺たちが演奏したいと思えるような曲が欲しかったんだ"とJon Fratelli(Vo/Gt)が言うようにTHE FRATELLISの再結成は、高額のギャラと引き換えに自分たちの魂を売り渡した一夜限りの再結成とは全然違うものだ。彼らは再びメンバー全員がFratelli姓を名乗り、ブラッド・ブラザーとしてロックンロールを演奏していこうと誓い合ったのである。そう、誰も一夜限りの再結成など望んではいない。僕らファンが望むのはその後の活躍と新しい作品だ。


Jon、Barry(Ba)、Mince(Dr)からなるグラスゴー出身の3人組、THE FRATELLIS。2006年にデビューした彼らはあっという間にスターダムに昇りつめた。きっかけは「Flathead(気取りやフラッツ)」がiPodのCMに使われたことだった。THE FRATELLISの存在は知らないという読者でもきっと"バラ・バッ・バラ・ラーラーラー"というサビはどこかで1回ぐらいは耳にしたことがあるはずだ。その「Flathead」の大ヒットによって、彼らは世界的な人気を確かなものにしたのだった。もちろん、日本でも彼らの人気は急上昇。全英2位を記録したデビュー・アルバム『Costello Music』は20万枚の大ヒットを記録。2度目の来日となった2007年のSUMMER SONICでは彼らを見ようと集まったファンでスタジアムが超満員になってしまった。THE FRATELLISは"2007年、最も成功した洋楽グループ"と謳われた。


その後も彼らの快進撃は続いた。しかし、2009年7月、彼らは突然、無期限の活動休止を発表。理由はメンバー間のちょっとしたボタンの掛けちがいらしいが、デビュー以来、ノンストップで走りつづけてきた彼らには休息が必要だったのだろう。


その後、それぞれに音楽活動を続けていた3人が再び顔を合わせたのが2012年6月。とあるチャリティー・ライヴに出演した時だった。


"3人が一緒にプレイした時のケミストリーを思い出したんだ。俺たち3人の演奏スタイルは、やっぱり3ピース・バンドにぴったりなんだよ"Jonはその時のことをそんなふうに振り返る。本格的な活動再開を発表した3人はイギリスでウォームアップ的なショート・ツアーを行うと、2012年の暮れ、3週間足らずでアルバムを完成させてしまった。それが今回、前作『Here We Stand』から5年4ヶ月ぶりにリリースする3作目のアルバム『We Need Medicine』。プレイ・ボタンを押したとたん聴こえてくるElvis Presleyの「Heartbreak Hotel」っぽいイントロに思わずニヤリ。それはTHE CLASHがかつて『London Calling』のジャケットでやったように偉大なるロックンロールのパイオニアへの敬意の表れだ。彼らは復活作となるこのアルバムの冒頭で今一度、自分たちがトラディショナルなルーツを持ったロックンロール・バンドであることを宣言しているのだ。


その他、モータウン調のリズムがゴキゲンな「Seven Nights Seven Days」をはじめ、ピアノやホーンも使い、前作に負けないくらい多彩な表現に挑みながら、全体のイメージはシンプルなロックンロールと言えるものになっている。ロカビリーの影響も窺えた1作目とTHE ROLLING STONESやTHE CLASHの影響を反映させつつ70年代調にアプローチした2作目の延長上で、彼らが今回、辿りついたこのアルバムは、活動休止という形で一度、シーンの喧騒や「Flathead」の第2弾を求められるプレッシャーから離れたからこそ作ることができた等身大かつ自分たちに1番、忠実な作品と言えるかもしれない。そこには威勢がよすぎたり逆に頭でっかちになりすぎたりしていた前2作にはない成熟が感じられる。正統派のブリティッシュ・ロック・バンドらしい風格も漂いはじめた。THE FRATELLISは最も理想的な形でロック・シーンに帰ってきた。

  • 1