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AIRSHIP

2011年11月号掲載

AIRSHIP

Writer 中里 友

もはや今更書くことでもないが、YouTubeやMyspaceなどといったサイトから、日常、私たちは容易に音楽を受容、または発信できる環境なものだから、そこから日々、アップされる新人アーティストを個人で全てを追いかけることにも限界がある。これまたPCさえあれば簡単に音楽も作れる世の中になってしまったことから、話題先行のコピーが躍るウェルメイドな音楽に半ば食傷気味にもなっていることもまた確かだ。

そんな言い訳に同調してもらいたい訳ではないが、とにもかくにも今回日本デビューするAIRSHIPの『Stuck In This Ocean』、冒頭を飾る「Algebra」を聴いてもらいたい。広大なサウンドスケープは澄みきった海や空を感じさせ、力強いメロディが突き抜け、一気に打ち鳴らされる。それはアルバムの始まりを告げるファンファーレとして、また、言い換えるならば、これから始まる壮大な物語を予感させる、これ以上ないものだ。

驚くべきことは、これを奏でる音楽都市マンチェスター出身のロック・バンドが、未だ平均年齢22歳の若者から成る!ということなのだが、年齢云々で若さを持てはやす意味に重要性もさして見つけられないし、ましてやマンチェスターなのだから音楽的に早熟なのは当たり前だろと思って資料を見たところ、AIRSHIPの前身なるバンドASTOROBOYは、彼らが16歳の頃結成、メンバーのElliot Williams(Vo,Gt&Key)、Tom Dyball(Ba)、Marcus Wheeldon(Gt)は全員が大学進学ではなく音楽の道を志したという。楽曲制作もジャム・セッションから作り上げるとのことで(作詞はElliot)、音楽に対する真摯な姿勢とその熱意とバンドとしての結託力に、同郷のELBOWを思い出させる。ASTOROBOYのサポートだったSteven Griffiths(Dr)が加わり、2008年にAIRSHIPとしての活動を始めるや否や、地元マンチェスターで火が点き、EDITORSやBIFFY CLYROのサポートに抜擢され、自主リリースした2枚のEPも好評価。多くのメジャー・レーベルから声が掛かるも、彼らはそれらを撥ね退け、自分たちの音楽にしっかり、じっくりと取り掛かった。そうした周囲のバズに振り回されることなく、彼らはようやく自分たちのサウンドを見つけたという。

彼らの音楽、端的に言うならそれは――ギターの残響音の中、流麗で瑞々しいピアノ、脈を打つようなドラムに満ち足りたエネルギーを感じ、解放のカタルシスには健康な精神が宿っている。それが心地よさを生み、聴いた後には何とも言えない清涼感が残る。BIFFY CLYROなどとツアーを経験したというのも頷ける、アリーナ規模でのライヴを意識したサウンド作りで、ライヴで映えるグルーヴとエモーショナルさを備えている。歌詞には外出恐怖症が題材の「Test」をはじめダークなイメージを連想させるものが目立つが、音になった瞬間、それらは闇の中の光―希望を鳴らすかの如く、外へ開いた強度を見せる。時期を見誤って破滅してしまう新人も多くいる。だが彼らにはそんなこととは無縁なクレバーさと、確固たる信念がある。デビュー作とするには不釣り合いな完成度のアルバム『Stuck In This Ocean』がそれを確信させてくれる。

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