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Japanese

Cocco

2011年09月号掲載

Cocco

Writer 花塚 寿美礼

こころの痛みを吐き出しながらも真正面から生と向き合い、もっと本能的に歌を奏でる歌姫・Cocco。
彼女は“歌は排泄物のようなもの”と公言していたが、歌を歌う、生み出すという行為はごく自然なことで、きっと生み出すというよりは出てしまう感覚に近いんだろう。そうして吐き出した排泄物は自然に還り、また新しい花を咲かせる。

気づけば前回のベスト・アルバム『ベスト+裏ベスト+未発表曲集』からもう10年の月日が経っていた。そして殺気さえ感じる情念の込もった歌詞世界にヘヴィなサウンドが衝撃的だった「カウントダウン」での鮮烈なデビューから、来年で満15年を迎える。
15周年キック・オフ・アイテムの第2弾として8月15日に15年の間に紡がれた歌が詰まった2枚組みベスト・アルバム『ザ・ベスト盤』がリリースとなった。Cocco名義で今まで出したシングル曲がすべて収録されたコンプリート・アルバムにして、alanに楽曲提供した「群青の谷」、ライヴで一度だけ披露された「花柄」なども新たに収録。収録曲はほぼリリース順。ディスク1はデビュー曲「カウントダウン」に始まり初期に発表した楽曲が収められた。2ndシングル「強く儚い者たち」がヒットし日本武道館公演も成功させ順風満帆に思えた活動の中、突如Coccoはアルバム『サングローズ』を最後に活動中止を宣言した。この出来事は驚きであったが、今思えば音楽に、ファンに、正直に真っ直ぐ向き合う彼女は自分を取り巻く環境にバランスがとれなくなっていたのかもしれない。
ディスク2はCocco名義では5年ぶりのシングルとなり第2章を幕明けにふさわしい疾走感のあるナンバー「音速パンチ」からスタートする。くるり・岸田繁らと結成したSINGER SONGERなどでその歌声を聴かせてくれていたが、本格的な音楽活動の再開はここから。「ニライカナイ」「ジュゴンの見える丘」などを発表した時期から、故郷・沖縄への想いが更に強く楽曲に現れるようになったように思う。このベスト盤収録の「絹ずれ」ではないが、アルバム『エメラルド』には沖縄の島言葉で歌われる「絹ずれ~島言葉~」が収録されている。
こちらもぜひ聴き比べて欲しい。改めて沖縄への想いが込められたCoccoの澄んだ声は悲しみを浄化していくようでもある。

初回限定盤にはディスク2の最後に「Heaven's hell」のライヴ音源が収録されている。これは2003年8月15日に行われたCocco発案による「沖縄─ゴミのない美ら島」を目指し立ち上げたプロジェクト「ゴミゼロ大作戦」のミニ演奏会の模様を収録。優雅に歌い終えると歓喜の叫びをあげる様子も収められている。この曲の一節“あぁ 会いたいな  本当だよ 届くかな キスを込めて”がCoccoから我々への手紙のようにも感じた。初回限定盤は売上から1セットにつき100円相当が東日本大震災の義援金として寄付される。そして震災後に自ら描いたというジャケット。明るく美しい色使いに心が動かされる。自然が猛威を振るおうと、どんなに世の中が混乱しようとこのジャケットには希望を感じる。世界は美しいと。

沖縄など温かい地域に生息する花、ブーゲンビリア。苞(ほう)と呼ばれるつぼみを包む葉がマゼンタ、紫、赤、黄色、白……と様々な色の花を咲かせ“魂の花”とも呼ばれている。Coccoの歌はときには黒い感情もときには喜びを湧き上がる感情をそのままに儚くも美しい刹那な時を全身全霊に歌として届ける――。
このベスト盤に収録されている曲たちは15年の間に優しく、気高く、甘く咲き誇った魂の歌、美しいブーゲンビリアのようだ。

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