Overseas
jónsi
Writer 伊藤 洋輔
どこまでも、どこまでもどこまでも……幸福のイマジネーションが押しよせる。透徹のファルセット・ヴォイス、流麗なストリングス、躍動的なパーカッション、幽玄なエレクトロニカと、ひとつひとつのエレメンツが星屑のように煌めき、いつしか目映い光となり目の前の情景を一変させてしまう。それはエスケーピズムが夢見たファンタジーか、はたまた力強い生命力を称えた賛美歌か。いずれにせよ、聴き手を容赦なく「ここではないどこか」のユートピアへ誘う。素晴らしい、美しい、ただただ呆然としてしまう。臆面なく言うと、何度も涙腺が決壊してしまった。いつもそうだ、アルバムを聴き終えた後は、この上ないポジティヴな何かにありったけ満たされているんだ。
心を揺さぶる音魂――想えば、この男はデビュー時から常にそうだった。脳内イメージを極限まで突き詰め具現化するような音響構築は、聴き手個々の解釈に委ねられたユートピアを与えてくれる。それはどれだけ時が経とうとも色褪せず、人種や文化を超越して響き渡る、普遍的な幸福感に彩られた崇高な音楽なのだ。新作を発表するたびに、この才能に圧倒されてしまう。男の名はJónsi Birgsson。言わずと知れたアイスランドを代表する音響集団、SIGUR ROSのフロントマンだ。
jónsi 名義で初のソロ・アルバムがリリースされる。昨年はボーイフレンドのAlex Sommersと組んだJónsi&Alexでの活動も記憶に新しいが、本作は純然たるソロ・プロジェクトだ。とはいえ、Alexはこのプロジェクトでも大きく関係しているようだ。彼の助言を得て素材となる曲を25 から11 に絞り込んだというエピソードや、プロデューサーにもINTERPOLやMICE PARADEなどを手掛けたPeter Katisやjónsiと共にクレジットされている。また、アレンジを手掛けたのは、ミニマル・ミュージックの開祖的存在Philip Glass やBjörk、ANTONY&THE JOHNSONSなどのコラボレーションで有名なNico Muhlyがすべてを担い、ドラマーにはMUMやKLUSTER で知られる奇才Samuli Kosminen が担当している。この豪華なコラボレートによってjónsi の世界観はさらなる飛躍に成功したと言えよう。
無邪気なまでに音と戯れ紡ぎ出すような楽しさが随所にみられ、結果これまで以上にカラフルな作風となっている。そして英語で歌われた楽曲が大半を占めているのにも注目したい。初期は独自のホープランド語を用い極端にメッセージ性を嫌ってきたjónsiだが、SIGUR ROSの4thアルバム『TAKK…』以降からその傾向は明確に薄らいでいった。独自の造語や耳慣れないアイスランド語だからこそ広がるイマジネーションの効果はあったが、世界共通な英語を用い“伝える”という意識の強まりも飛躍の一因だろう。初期の神秘的な佇まいから、聴き手に寄り添うように、だんだんと人間臭さを宿しているかのようだ。本作のテーマに「人生いかなるときも恐怖心に支配されないことの大切さ」があるようだが、最近の活発な動きを見ているとそんなテーマも納得だ。変化を恐れず、不安を拭い、あらゆることに挑戦する。それを象徴するかのようなアルバム・タイトル、『GO』だ。
内省的なベクトルから、解放へ――バンドという束縛もなく爆発したひとつの才能は、大空にどこまでも突き抜けるようなパワーを持っている。冒頭のアップリフティングな「Go Do」が描き出す世界観には、『残響』に収められた「Gobbledigook」の世界をさらに進めた先にある地上の楽園が浮かび上がった。そこは暖かい光に満ち、すべての人間が歓喜の笑顔で溢れるような祝祭感に包まれた場所……そんな妄想が膨らみ続けていたら、驚きのニュースが飛び込んできた!なんとjónsiとして今夏SUMMER SONICに出演決定!もしかすると、妄想は実現するかもしれない。あぁ、夏が待ち切れない!
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