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THE CRIBS

THE CRIBS

Writer 佐々木 健治

ロックンロール・リヴァイヴァルによって、多くの若手バンドが脚光を浴びる中、そうした周囲の喧騒を意に介さず、独自のペースとスタイルで活動を続けてきたTHE CRIBS。
UKロックの兄貴分的存在として、ファンだけでなく、多くのバンドからもリスペクトを集める彼らがが、4枚目のアルバム『Ignore The Ignorant』を完成させた。

アルバム製作を前にした2008年、THE CRIBSはJohnny Marrの加入というビッグ・サプライズを発表する。伝説のバンドTHE SMITHSのギタリストでもあり、その後もTHE THEに参加、NEW ORDERのBernard SumnerとELECTRONICを結成、さらにはアメリカのMODEST MOUSEに加入したりと、渡り鳥のように自由な活動を続けるこのギター・ヒーローの加入は、Jarman3兄弟にとってとても大きな転機となったはずだ。

もともと、瑞々しいメロディを持つアグレッシブなガレージ・ロックンロールを鳴らし続けるTHE CRIBSだが、あらゆる音色を独自のスタイルで弾き出すことができる繊細なギタリストであるJohnny Marrの加入によって、今作で大きな変貌を遂げた。

アルバムの冒頭を飾る「We Were Aborted」は、まさにTHE CRIBS印とも言うべき、跳ねるようなメロディとコーラス、鋭い切れ味のギターが高揚感を煽るロックンロール。そして、続く「Cheat On Me」「We Share The Same Skies」は、広がりと厚みのある壮大なギターとシンガロング・タイプのメロディが美しい融合を見せる、ツイン・ギターになった武器を最大限に発揮したナンバーだ。
これまで以上にスケールの大きなサウンドを手に入れ、あらゆるスタイルに対応できるバンドに成長したことを示す序盤だけでも、このアルバムが充実したものであることがはっきりと分かるはずだ。

タイトル・トラックの「Ignore The Ignorant」や「Victim Of Mass Production」のまるでデビューしたばかりの若者のようなフレッシュなポップネスには、Johnny Marrの加入が新たな刺激となり、彼らが新鮮な気持ちでロックンロールと向き合っていることが現れている。
そして、このアルバムで特徴的なのは、空間的な広がりを獲得しながらも、荒々しい音になっていることだ。

今回のレコーディングは、YEAH YEAH YEAHS、ARCAID FIREなどを手がけるベテラン・プロデューサーNick Launayとともに、基本的にはライヴ録音で行われていったという。サウンドを磨き上げ、丹念に磨き上げるのではなく、敢えて荒々しく、ザラザラした手触りを残しているところに、THE CRIBSのロックンロールに対する信念が表れている。
まさにそこでTHE CRIBSが演奏しているかのような、粗野でエネルギッシュなダイナミズムがこのアルバムには詰まっている。

ステップ・アップしていこうとする過程で、そういうロックンロールの原初的なエネルギーよりも、聴きやすさや分かりやすさを選んでしまう(その結果、毒にも薬にもならない作品に陥ってしまう)バンドが多い中、THE CRIBSは新たなステージに突入しようというこの作品でも、徹底的に生身の音で挑むことを選択した。そうした姿勢にこそ、彼らが愛される理由がある。

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