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ASH

2010年10月号掲載

ASH

Writer 伊藤 洋輔

無謀な挑戦と思った?または単なる話題作りに過ぎないと感じただろうか?しかし、彼らは成し遂げた。その1曲1曲に込められたありったけの情熱と野心、そして恐れを知らぬ勇気には、15年以上のキャリアを誇るバンドとは思えないフレッシュな輝きを感じ、今現在の彼らはバンド史上最も勢いある充実期に突入しているようだ。一体、何が彼らをこうまで突き動かしたのか?

ことの発端は07年、5枚目のアルバム『Twilight Of The Innocents』をリリース後、「もうアルバムをリリースしない」という宣言から始まる。当時は9年も共に活動してきたCharlotte Hatherley脱退の余波があり、ダークな側面をみせ大胆に変貌した『Twilight Of The Innocents』のチャート・アクションも振るわず、巷では解散説が流れるほど、どこかネガティヴな空気がバンドを包んでいた。フロントマンTim Wheelerは振り返り、「5枚目の作業を終えた後、単純に6枚目のアルバムの作業に取り掛かろうという考えには面白さややりがいがないように思ったんだ。新しいアプローチを見つけるべき時機だとね」と語っている。そこで彼らは90年代初め、THE WEDDING PRESENTが行った1年で12枚のシングルをリリースしたプロジェクトをヒントに、2週間に1度、それぞれアルファベットの頭文字で区切られた、MP3 と1000枚限定の7インチで26曲を1年間でシングル・リリースするという前代未聞のプロジェクト“The A-Z Series”を発表する。ちなみにこのプロジェクト、元々ベースのMark Hamiltonは1週間に1曲という構想を提案したそうだが、それでは楽曲のクオリティを維持するのは難しいという判断から2週間で1曲となったそうだ。そうして09年末からスタートしたシリーズは今年4月、“A”から“M”をコンパイルした『A-Z Vol.1』としてCDでのリリースも行う。位置付けとしては通算6枚目のアルバムだが、その形式に捉われない全曲シングルのバラエティに彩られた1枚となり、オリコン洋楽チャートでは1位を獲得した。アルバム発売記念として行われた一夜限りの来日公演も即日ソールド・アウトの後、大盛況を博す。また、この日はサポート・ギタリストとしてBLOC PARTYのRussell Lissack加入のお披露目ともなり、新生ASHを印象付ける一夜となった。夏にはFUJIROCKで今年2度目の来日。GREEN STAGEで惜し気もなく数々のヒット・ソングを繰り出し、オーディエンスを熱狂の渦に巻き込む素晴らしいパフォーマンスを披露してくれた。そして、その余韻冷めやらぬうちに届いた『A-Z Vol.2』。そう、The A-Z Seriesがいよいよ完結するのだ。

アルファベットで“N”から“Z”を収めた『A-Z Vol.2』だが、ギター・サウンドを100本重ねたという「Dare To Dream」、A-Z Series最大のヒット作となった「Binary」、名曲「Shining Light」を彷彿する珠玉のバラード「Carnal Love」など、前作同様、多角的に楽しめるバラエティに富んだASH節が炸裂する。改めて、極上のメロディ・メイカーとしてのASHを痛感するが、このThe A-Z Seriesが完結できたことにも驚きを禁じ得ない。ネットによるダウンロードが主流になりつつある現代。リスナーがアルバム単位で音楽を聴かない状況に呼応するかのような動きは、時代と真正面から向き合い、そしてファンとダイレクトに音楽の幸福を共有したい、という一途な想いが結んだのだろう。恐らく、多くのアーティストが同様の想いを抱いていると思うが、あらゆる業界のシステムに囚われてしまうのも事実。ASHは情熱と野心と勇気を持って有言実行を果たした。言うまでもなくこの動きは、不況で閉塞したシステムに風穴を開ける大きな意義を持つものだ。21世紀の傑作とは、こんな新たな方法論で生まれるものかもしれない。

ASHは止まらない。なんと11月にはJAPAN TOURとして今年3度目の来日も決定した。「Ichiban」や「Kamakura」など日本への愛情で作られた楽曲まで持つ彼らは親日家と呼んで過言ではない。ぼくらはThe A-Z Series完結の祝祭とともに、全曲熱唱で迎えようじゃないか!爆発したような勢いに乗る今現在のASHを見逃す手はないぞ!

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