Japanese
フレデリック
Skream! マガジン 2014年12月号掲載
2014.11.02 @渋谷WWW
Writer 蜂須賀 ちなみ
アンコール。結成当初はMC代わりにこんなことをしていたのだと前置きしてから、三原健司(Vo/Gt)が紙芝居を始める。「人魚のはなし」の曲紹介として読まれたその物語が、メジャー・デビューに対するフレデリックなりの意思表明のように聞こえた。自分の住む海が最も美しいと思っていた人魚が、魚に"もっと外の世界を知ったほうがいい"と説かれ海の上を見に行く話。普通ならば"ほら、井の中の蛙だったでしょ?"的な展開になりそうだけど、人魚はやっぱりこの海が1番美しいと思い、その素晴らしさを外へ広める方法をあれこれ考える。"井の中から出るのではなく、井をどんどん大きくして周りを巻き込んでいけばいいんだ"、と。
ミニ・アルバム『oddloop』の発売に伴う"踊ってない夜が気に入らNIGHTツアー"。東名阪でのワンマン・ライヴ編の1本目、渋谷WWW公演。記念すべき東京初ワンマン、会場は超満員。SE「パパマーチ」での手拍子の音量もいつになく大きい。そんなホームといえる状況の中、4人は"今のフレデリックのありったけ"を見せ続けた。ステージの幕が上がるとその向こう側にはピクリとも動かない4人の姿。kaz.(Dr)、三原康司(Ba/Cho)、赤頭隆児(Gt)の順に一時停止の魔法が解けていき、音を重ね始める。健司が"関西から来ましたフレデリックです、よろしく"と挨拶してライヴの始まりだ。1曲目「SPAM生活」からオーディエンスたちは大きく体を動かし、メンバーの一挙一動に歓声を上げる。そのまま「ディスコプール」「秘密のお花畑」「bunca bunca」と曲を連投していき、熱気を冷まさせる隙を与えない構成。さらに「砂利道」~「峠の幽霊」では抑揚の効いたグルーヴを見せ、底の見えないフレデリック・ワールドへと深く深く誘っていく。そんな自己紹介代わりの序盤に対して、中盤では"昔々......"から始まる朗読風の曲紹介やアコースティック・セッション(康司はアコースティック・ギター、kaz.はカホンを演奏)といったアプローチで、普段とはまた違った角度から楽曲の魅力を伝えていく。MCはまるでリビングで談笑しているかのようなリラックスした雰囲気で繰り広げられ、"あなたの未来を笑顔に変える、三原天使こと三原健司です""夢は渋谷に庭付き一戸建て、赤頭隆児です""(アコースティック・ギターの弾き語りで)三原康司です。ベースやってます。作詞作曲もやってます。三原康司です♪"と各々の個性を存分に発揮した自己紹介も披露した(kaz.だけ真面目な挨拶をしていて健司に"顧問の先生みたい"とツッコまれていたのもまたよかった)。
スタンダードな状態も、普段とは違うちょっぴり特別な演出も、メンバーのキャラクターも、昔やっていたことの再現も。あの手この手で"今のフレデリックのありったけ"を見せ続ける姿が、先の人魚の物語とくっきり重なった。"井"の中の素晴らしさ――つまり、フレデリックというバンドの素晴らしさを4人は信じている。そして、だからこそ、そこに惹かれて集まってきた人々のことも信頼している。例えば、例の紙芝居をする前に健司がポロっと言った"フレデリックの音楽はもうみんなのものでもあるから、昔のことも知ってほしいねん"という言葉。嬉しさや楽しさを隠しきれていない赤頭&康司の表情。"なんか話題ない?"と半ば無理やりにMCを続け(笑)、フロアとの距離を縮めようとする様子。終演後3分と経たないうちに物販に立ってお客さんとコミュニケーションをとる姿、など。ステージの幕が下がるその瞬間まで工夫に富んだ劇場型のライヴにも関わらず、人対人の温かさを感じる場面が印象に残った。きっとそれは、"井"の中を大切にしているからこそだろう。彼らは、本当に大切なことは側にあるのだということに気づいている。そして、その大切さを誰よりも信じている。
アッパー・チューンが続いた終盤、そのラストを飾った「オドループ」にハッとさせられた。グッとヴォルテージを上げていくバンドの演奏、いつもの調子とは違ってほぼ叫んでいる形の健司の歌、飛び跳ねまくりのオーディエンス。凄まじい熱量に"井"の中は沸騰状態。珍しくテンポは前へと転び、アンサンブルも粗く、単純な演奏技術でいえば他の曲より劣っていたかもしれないが、そんなことよりももっと大事な何かが漲っていた。メジャー・デビューするということは、多くの人々に自身の音楽を届けられる可能性が増えるということ。そのスタート地点で見せた、自分たちを信じる気持ち。"僕らなら絶対に大丈夫だ"という意思。そんな想いをバンドとオーディエンスがリアルに共有したのだと実感できた、いいライヴだった。
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