Japanese
the HIATUS
Skream! マガジン 2013年09月号掲載
2013.08.13 @Zepp Tokyo
Writer 山口 智男
Zepp Tokyoというライヴハウスとしては、かなり大きめのハコにも関わらず、バンドと観客の距離が近く感じられた、とても親密なライヴだった。各地の夏フェスに出演しながら、the HIATUSが最新シングル『Horse Riding EP』をひっさげ、全国4ヶ所計6公演を行う“Horse Riding Tour 2013”。その東京公演の初日。
オーケストラとともに全国のホールを回った前回の“The Afterglow Tour”は入念に作り上げたパフォーマンスを緊張感とともに見せるというものだったが、今回はそれとは打って変わって、5人編成のバンドの姿をざっくばらんに楽しませるものだった。マイクを通してしまうと、ステージにいるアーティストと客席にいるファンという図式になってしまうと思ったのか、この夜、何度も直接、客席に語りかけた細美武士(Vo/Gt)は“サラリーマン時代、いつか立ちたいとずっと思っていた”というエピソードを披露しながらZepp Tokyoのステージに立てる感謝の気持ちを伝え、ファンとのやりとりを楽しんだ。
僕ら音楽ファンの喜びはもちろんいろいろあると思うが、それが大好きなミュージシャンがステージで心底、楽しんでいる姿を見ることだとしたら、この日のライヴほどファン冥利に尽きるものはなかったかもしれない。この日、細美は無邪気という言葉が思い浮かぶほどライヴを楽しんでいるだけではなく、何かから解き放たれているように見えた。
“楽しい!”
曲間、言わずにはいられないというように細美が何度も言ったこの言葉がとても印象的だった。
この日のセットリストを振り返ってみると、「Insomnia」といったエモーショナルかつアンセミックな激しいロック・ナンバーも演奏して、観客を大暴れさせたものの、個人的に印象に残っているのは細美がアコースティック・ギターをプレイした『A World Of Pandemonium』と『Horse Riding EP』からの曲だった。そんな選曲はアコースティックな質感のサウンドとポスト・ロック的とも言える音の響かせ方を取り入れ、エモーショナルなギター・ロックからの脱皮を遂げた『A World Of Pandemonium』の延長上でバンドが前進を続けていることを印象づけるものだった。
大音量のサウンドで圧倒するわけでも、終盤、怒涛の勢いでたたみかけた曲のようにアンセミックなメロディを歌い上げ、シンガロングを誘うわけでもないけれど、5人のミュージシャンがストイックなまでに火花を散らす演奏は、音の1つ1つになって表れる熱度とともにバンドの成熟をはっきりと伝えていた。中でも「Horse Riding」が鮮烈だった。バンドの成熟を、キャッチーなソングライティングに落としこむことに成功したことを思わせるこの曲は今後、彼らの代表曲の1つに数えられるに違いない。また、『A World Of Pandemonium』からの「Shimmer」は、『A World Of Pandemonium』を作り上げる中でバンドが物にした洗練と、彼らが元々持っていた激情が絶妙に混ざり合い、『A World Of Pandemonium』から『Horse Riding EP』、そしてさらにその先へと続いていくthe HIATUSの新たなキャリアをアピールするという意味で、「Horse Riding」とともにこの日のハイライトだったと言ってもいい。
終盤はまるでラスト・スパートをかけるように激情を迸らせ、それに応えるファンの大合唱が会場を包んだ。そんな盛り上がりに“みんなが汗をかける新曲を作る”と答えた細美は今年中にアルバムを作って、アルバム・リリース後、“もっと長いツアーをやる”と宣言。
そして、アンコールでも今一度、観客と一緒に歌い、会場に溢れる歓喜とともに2時間におよぶステージを締めくくった。
ステージに立つ喜びとこの5人で演奏する意義を改めて噛みしめながら、さらなる進化を遂げようとしているバンドの姿を印象づけたライヴを見たら、彼らがこれから作るというアルバムがますます楽しみになってきた。
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