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INTERVIEW

Japanese

篠塚将行

2024年12月号掲載

篠塚将行

Interviewer:石角 友香

"歌うこと"って、すごく一方的じゃないですか


-核心はどういうところで得ていたんですか?

核心かは分からないですけど、単純に呪いとか、執念じゃないですかね。この歌が届かなかったとしても、あの子や、あの人や、過去の自分に似た人がどこかにいるなら、やっぱ俺まだ言いたいことあるなっていうのがまず1個あったし。どこかで"なんて自分は情けない人間なんだろう、なんで自分は人のことを傷つけてしまうんだろう"とか、"なんで僕は嫌われるんだろう"とか、"どうして僕は人を不快にさせるんだろう"みたいなことをずっと悔いてたんですね。人を責められなくて自分を責めてたんです。もういいから死のうとかももちろん僕も思ってましたし、今でもたまになっちゃうときもあって。でも、どっかに僕みたいな人がいるんだと思うんです。僕は自分を凡人、というか劣等生だと思ってるんですけど、凡人の僕が考えてることって、どっかの誰かも同じように考えてるんじゃないかと思ってるんですね。だから僕みたいに今どっかで"なんて情けない人間なんだ"、"なんで完璧じゃないんだ"って自分を責めて、今日にでも死のうと思ってる人は、たぶんこれを読んでる人の中にもいると考えていて。それを想像したら"リリースの予定が飛んだからもう歌わない"とか、"言いたいことなくなっちゃった"とか思わないなっていう。過去の僕に似た誰かに向かって歌うって想像したら、完璧なテイクを目指そうとかミスをしたからもう1回録り直そうとか、本当に何もかもどうでも良くなって。むしろ、ミュージシャンが自分は誰より優れていて完璧でミスなんかしないとか、完璧ですアピールし続けるから、どこかの誰かがずっと救われなくて、"やっぱり完璧じゃないものは人前に出しちゃいけないんだ"、"ちゃんとしてないと生きてちゃいけないんだ"ってなるんじゃないかと思っちゃいまして。

-そこまで思うんですか。

まぁ言葉にすると極端だとは思うんですけどね。"歌うこと"って、すごく一方的じゃないですか。あくまで自分基準というか、自分の音楽の信念や創作意欲みたいなライトな話ですけど、僕が完璧なものを作って、これが完璧だろうと思って見せることは、過去の自分が傷つく行為だと思ったんですよ。だからもうミスろうが失敗しようが歌詞が間違ってようがどう思われてもいい、もうそれが全てだと思って、曲が"できた"と思ったらその場で録音して、作った日のそのままの状態を出そう、"完璧を目指さないアルバム"を作ろうっていうのが自分の中にあったんです。常識を疑うというか完璧でいることをやめるというか。そしたら、誰かは僕のことバカにするかもしれないけど、僕みたいな誰かには、この歌詞が歌詞じゃなくて言葉だと信用してもらえるかもしれない、っていう。要は、僕が相手よりも恥ずかしいことをしてないと向こうも心を開いて聴いたり話したりしてくれないと思ったんですよね。

-篠塚さんが音楽を作ることを止めない、今を聴けるっていうところもあると思うんですけど、バンドの活動について全く知らない人でも、これはすごく聴けるアルバムなんじゃないかなとも思ったんですよね。それは篠塚さんとしては本意ではないかもしれないですけど。

本意ではないですね。小さなバンドの一員であることにずっとこだわってきたので。でも、弾き語りも聴きたいからソロの活動をちゃんとやってほしいっていうのは、何年も前からメジャーのレーベルにもずっと言われてたんですよ。当時は、そういう人もいるんだなと思ってたくらいなんですけど、僕はメンバーが好きだし、メンバーのことを考えたら僕が1人で活動しちゃうとメンバーが暇になっちゃうので。なんていうか、友達を置き去りにはできないなってので、"できないです"とずっとレコード会社にも何年も言い続けてきたんです。でも、今回バンドがお休みするってなったときに、むしろメンバーに言われたんですよね。"もし篠(篠塚)君が歌うのを続ける気だったら、ソロもやってみなよ"って。でも、そもそもバンドでも弾き語りの曲って入れてるから、僕にとってはメンバーがお休みしてる間、今までもアルバムに入れてた弾き語りの曲をたくさん録音すればいいのかっていう、バンド延長でやってる感覚もあるので、実際やってみたら、あんまりソロって感じしないなとも思ってて。これって、ちゃんとそれでも世界が続くならの続きというか、僕の人生の続きだなと思えてるんで、あんまり別れてる感じはしてないんですけどね。昨日もちょっとギターの菅澤(智史)と話したんですけど、"ソロって感じしないね"って。で、ベースの(琢磨)章悟からも昨日電話が来て、めちゃくちゃ久しぶりに話したんです。"元気してるの"とか言って(笑)。要は、一緒に演奏はしてないですけど僕の人生にはちゃんとメンバーが友達として隣にいて、僕の心には、それでも世界が続くならや、それでも世界が続くならを好きだった人がいるんで、あんまり変わった感じがしなかったし、そんなにバンドだからとかソロだからって感覚はないですね。

-メンバーが"、やったら?"って言ってくれる人間関係があるからこそできるわけですね。

そうですね。本当にいい友達ですよ。友達とバンド組めたことが自分にとっての数少ない財産です。バンドって一緒に楽器を鳴らすものなんですけど、僕は友達がいなかったし、ただ好きな人と一緒に何かをしたいってところに本質があったんだと思います。それでも世界が続くならってバンドは、残酷な世界とはかけ離れた、例えば愛情とか友情とか、そういう存在を目指してたんだと思います。お互い不器用だしポンコツだし人を傷つけちゃうことを言うようなこともあるし、人間関係もコミュニケーションもうまくはない人間だけど、本当の友達が欲しいってところが大きかったと思うんで。そこから始まったバンドですからね。こうやってバンドがお休みになっても、そこは変わんないし、変えたくないですね、僕は。

-そう考えると、これはバンドが築いてきたものの一つの道の上にあるものだから、バンドの作品と変わらないのかもしれないですね。

そうですね。本当っすね。それでも世界が続くならってバンドって、友達でいようとか、なりたい自分になろうとか、音楽は人の心のためにあるから音楽よりも心を大事にしようとか、ある意味バンドらしくないバンドだからこそ、活動休止も含めて、その副産物的に生まれたアルバムだと思います。僕1人じゃ作らなかっただろうし、バンドがなかったら生まれなかったでしょうし。音を鳴らさないことを休符っていうんですけど、メンバーが傍にいてもずっと休符を演奏してるような気持ちでいましたね。実際CDの発注とか、僕が全然できない機械のこととかを、メンバーが手伝ってくれたり後押ししてくれたりしてくれましたし。みんながいなかったら僕は作れてなかったと思う。あくまで僕の音楽は、人生の地続きというか、これが"それでも世界が続くならだ"って言う気はないけど、もしも誰かに聞かれたら"これはそれでも世界が続くならの続きの話だよ"って僕は言えてしまいますね。変な話ですけど。

-このアルバムで"俺はこう思ってるんだよ"って言ってくれてる感じがあって、ここから会話が始まる気がします。それはもちろんバンドもそうですけども。

で、その次に、この音楽を聴いてくれた君の話を聞かせてもらって完成する、というか。音楽は一方的だけど、僕は一方的なままでいいと思ってないし、平気じゃないし、嫌なんで、会話でありたいですね。ファンレターとか貰うんですけど、そういうのを読んだときに初めて会話が成立した感じがしていて。僕は......今回は、音楽をやめなかったですけど、いつかやめるときが来るともずっと考えていて。ずっと"この曲が最後になるかもしれない"とイメージしながらやっているので、だから、"次はお前の番だ"って言いたいです。"お前が聴いて、聴くだけじゃなくて返事してくれて、初めて完成するんだぞ、会話も俺の歌も"って思ってます。

-そう考えると手紙を送り続けてるわけですよね。

そうですね。僕の歌は、ボトルレターですから。遭難した無人島からボトルに入れた手紙を海に流してるだけです。誰に届くか分からないですけど。

-最後に今後の活動で現状分かっていることがあったら教えていただければ。

12月15日の日曜日のお昼なんですけど、渋谷のSpotify O-Crestで入場無料のワンマン・ライヴ("それでも世界が続くなら結成13周年 / YouSpica設立2周年記念 篠塚将行+菅澤智史 入場無料ONEMAN-LIVE「水色脱兎緊急避難所2024」")を、僕とギターの菅澤の2人でやります。(※取材は11月中旬)それでも世界が続くならが13周年で、毎年、年に1回だけ、過去の自分たちに似た誰かの居場所になれるように、無料でワンマン・ライヴをやるって決めていて。バンドは活動休止中なので出ないから、一見おかしいんですけど、感謝を返す日なのにやらないのはもっとおかしいだろ、と思ってからやることにしたので。『DEMO』も、発売前だけどちょっとだけ持って行くと思います。苦しかったり、どこにも居場所がなかったり、暇だったりしたら、無料なので暇つぶしに来てほしいですね。