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INTERVIEW

Japanese

mekakushe

2019年08月号掲載

mekakushe

Interviewer:石角 友香

-それは面白い。「heavenly」を聴かせていただいたんですが、究極、子守唄のようですごく楽になります。じっくり音楽を聴くだけで深呼吸できるんだなと。

ありがとうございます。

-どういう気持ちで作られたんですか?

表題曲の「heavenly」に関しては、天国っていうのがテーマで。天国って見たことも触ったこともないけど、例えば美術館とか演奏会とかに行くと、なんか天国っぽいなって感覚があって。淡いものなんですけど。"天国っていいなぁ"ってずっと思ってて、救済の意味も込めて、天国を表現してみたいなっていうのがずっとテーマとしてあったので、今回、曲として作ったんです。天国って勝手なイメージなんですけど、ただ美しいだけじゃなくて、残酷なものとか悲しいものとか、そういうものもパワー・バランスを保って存在してると思うんです。「heavenly」自体も、"悲しみのない世界は 地球の反対側"とか、全然ポジティヴでもない、でも諦めてもないみたいな感じのことを歌ってるんですね。アレンジも野澤翔太さんっていう、ヒロネちゃん時代からやっていただいてる方にお願いしました。クラシカルな楽器に加えて、無機質なガチャガチャって音を入れたりして、そのバランスをすごく大事にして。あとは聖歌隊を入れたりして、自分の天国を表現する気持ちで作りました。芸術を作る気持ちで作ったというか。

-なるほど。それがmekakusheさんならではの天国感?

あと、合唱曲もそうですね。有名なところで言うとウィーン少年合唱団とかもそうだし、男声合唱もそうだし。高校生のときも音楽の学校だったので、合唱のカリキュラムが大きくあって、そこですごい感動しちゃって。周りはそうでもないかもしれないけど、中で歌ってても聴いてても、人間の声が"わっ"てなると、"生きてる!"って感じになっ ちゃって。そこは天国だなぁと思いました(笑)。ホールとかの音響でも変わったりするじゃないですか。男声合唱とかすごい低い音だと振動が感じられて、そういうところでも合唱は天国だなと思ってたので、今回の「heavenly」でも合唱をコーラス的に入れてみました。

-「熱」という曲はヴォーカルにオートチューンがかかってるじゃないですか。あれはなぜですか?

初めてやってみたんですが、オートチューンをかけてあるところとかけてないところがあるのがポイントで、やりすぎるのも違うなと思って。生声と、へろってなるとこのバランスみたいなのを大事にしたんです。最初、かけてない状態でミックスが上がってきたんですけど、きれいすぎたんですよね。私が表現したい天国っていうのはきれいと悲しみとか、対極の気持ちが混在してるものだったのでオートチューンを使うと、ちょっと無機質な感じが出て、生歌と無機質が同時に存在することで、自分の思う天国っぽいサウンドになるなと思ったからやりました。

-俯瞰で世の中を見てるわけじゃなくて、自分と相対する人がちゃんといる歌詞ですね。

そうなんですよね、なぜか(笑)。君と僕みたいな関係性の中と、あとは想像もし得ない宇宙みたいなものとの関係性で書いてるなって思います。

-そういう歌詞を書こうとしてると言うより、書いてみて結果的にこういう歌詞になったなということですか?

そうです。俯瞰して書けないですね。自分のことでもないんですけど。

-言葉のチョイスや設定が描きすぎていないのがいいですね。「オフライン」はしっくりきました。

「オフライン」は初めて自分のパーソナルなことを書きました。書いたのがめちゃめちゃつらい時期だったんです。たぶんコドモメンタルINC.に入るちょっと前ぐらいに書いたんですけど、"音楽をずっと続けていけるのか"みたいな気持ちになったとき、完全に心が折れちゃってて。曲も何ヶ月も作れなくて、"どうしよう?"ってなったんですけど、"こういうときだからこそどういう曲が生まれるんだろう?"と思って書いてみたんですよ。「オフライン」って構成として弾き語りだと聴くに耐えないんですよ、同じことの繰り返しなんで。つまらない曲なんですよ、弾き語りでやっちゃうと(笑)。私は「熱」も「heavenly」もそうですけど、弾き語りでやったときに成立する音楽っていうのがメロディ的にも美しくて素晴らしい曲って思ってたので、弾き語りでやってつまんない曲っていうのはどうなんだろう? って思ってしまったような曲だったんですね。「オフライン」は正直な気持ちで書くとメロディを楽しい気持ちで書けないんですよ、跳躍できないし。でもアレンジャーの野澤さんに渡したら、そこは4年間ずっとアレンジをしていただいている関係性だったので、"この曲は任せて"って言っていただけて。アレンジで私が想像もつかないようなものになったので、結果としては書いて良かったなと思いました。

-よりフラットでより近さを感じる曲になってると思います。淡々とした曲って言葉の説得力で聴けるところがあるので。

そう。私はそこが好きで。自分がオンラインじゃなくてオフラインの状態だったので、そういう自分の内側にある"死んだ"みたいな感じを音楽にするとこんなフラットなものができるんだなと。面白かったです。

―聴いてるほうも自分の内側を見つめることになるというか。

そういう音楽になりたいですね。明るい気持ちを歌うことも大事だし、それで救われる人がたくさんいるのもわかってるんですけど、だからってみんながみんな真似してそれをやる必要もない。前は悩んでたんですよ。明るい曲書けないなって。寂しいとか悲しいを明るい歌で上塗りして隠すっていうのも、精神を保つものだと思うんですけど、悲しいことを悲しい、寂しいことを寂しいって認めていいんだよっていう音楽に、私はあまり出会ってないなと思ったんです。例えばラヴェルの曲やドビュッシーの曲も、言葉はないけどすごい静かな曲で、寄り添ってくれてたから、そういう穏やかな、静かな曲をmekakusheでやりたいと思いました。

-いわゆるシンガー・ソングライターの王道の作り方じゃなくて、基盤にクラシックがあるから全然違う発想で曲が書けるのが面白いですね。

シンガー・ソングライターっていう気持ちはmekakusheになってから、正直なくて。ヒロネちゃんのときは"私はシンガー・ソングライター女子なんだな"と思ってたし、界隈のイベントにも出ていたし、"私はシンガー・ソングライターなんだ"と思わされてたって部分もちょっとあって。でもmekakusheになってからは、名前に匿名性があるのもそうですけど、やっぱり自分が弾き語りだけで成立する音源作りをしていなくて。アレンジをつけてもらったり、オートチューンをつけてみたりとか。それこそ私は歌詞だけ書いて、ピアノ曲を提供していただくとか、ヒロネちゃんではしてなかったことをすごくしているので、作って歌うだけじゃない気持ちが強くなっています。

-ライヴではこれらの曲をどう表現していこうと考えていますか?

ライヴは今のところ弾き語りっていうのを大事にしてるんですけど、それはなぜかと言うとライヴだと弾き語りという状態のほうが、純度が高いと思っていて。ライヴは音源とは別のものとして考えてるし、何より再現できないような音源作りをもうしてしまってるので。シンガー・ソングライター女子なら再現するためにライヴにギターもドラムも入れてって考えてやってると思うし、私もヒロネちゃんまではそうだったんですけど、今回の作品はそんなんじゃ表現できない音も入ってるし。でもそれは弾き語りとかけ離れたものではなくて、むしろブラッシュアップしたものが音源になっていると思ってるんですね。なので、ライヴではいろいろ挑戦はしていきたいんですけど、やるとしたら音源とはまったく違うアレンジでやると思います。