Japanese
mekakushe
2019年08月号掲載
Interviewer:石角 友香
シンガー・ソングライター"ヒロネちゃん"として、ピアノの弾き語りで活動してきた彼女がmekakushe(メカクシー)に改名し、初の全国流通ミニ・アルバム『heavenly』をリリースする。おとぎ話のような不思議な世界観や、ひとりで内面に向き合うような歌、普遍的な君と僕の世界など、テーマは深遠だが、穏やかな気持ちで聴けるミニマルな音像が心地よい。メロディを吟味したピアノと歌のメロディ、消え入りそうで芯は強くずっと灯っているような声。これまでの彼女を知る人もこの作品で出会う人も、きっと心がざわついているとき、ひとときでも耳を傾ければ自分に戻れるのではないだろうか。本誌初インタビューで人となりを探る。
クラシックのフランス音楽を勉強していると、和声感にポップスとの共通点を見つけたりして自分の曲作りに相乗効果が生まれてます
-3歳のころからクラシック・ピアノをやってらしたそうですね。自分の意志で?
ではなく、お母さんがピアノの先生で、姉も今、ウィーンでオペラ歌手をしているんですが、そういう流れで私もピアノをやらせてもらいました。
-姉妹で全然違う方向性に行ったんですね。
同じ歌でも、ジャンルは全然違いますね。でも、高校までは姉も私もピアノ科を専攻していて、私は今、大学院でクラシック・ピアノを専攻してるので、基礎はクラシックでずっとやってるものなんです。なのでそんな違うことをしてる気持ちではないですね。
-院の実技以外の内容ってどんな感じなんですか?
大学まではカリキュラムみたいなのが組まれていて、クラシック、バロック時代を弾いて、古典を弾いて、で試験が組まれてるんですけど、大学院はもっと研究対象を絞っていくんです。私はフランス音楽を専攻してるんですけど、それの研究論文も出さなきゃいけなくて。フランス音楽の作曲家の中からセレクトして40分間の演奏をするのに加えて、作曲者の論文を提出したりしています。
-フランスの作曲家というとラヴェル(モーリス・ラヴェル)とか?
はい。ラヴェルとかプーランク(フランシス・プーランク)を今、研究対象にしてやってます。
-じゃあフランスという国の背景などの勉強も?
そうですね。音楽と歴史の結びつきとか、あと、どういう人と親交があってそうなったのかとかいう、パーソナルなところを掘り下げる分析もしているんですけど、面白いです。
-フランスの音楽家が好きな理由はありますか?
ラヴェルがもともと好きで、もちろんドイツのものとかもいろいろとやってきたんですけど、フランスの和声感とかが一番肌に合うなと思って。自分の演奏にも取り入れてます。まだ模索中ですが。なんかドイツの音楽はガシッとした感じなんですけど、自分のふわっとした音楽とフランスの上で漂ってる和声感がなんとなく私と合っていて。私もそういう音楽をやりたいと思っていたので、インスピレーションとか共通項を感じて好きになりました。
-じゃあクラシック・ピアノやフランス音楽が原体験として大きいんですね。
そうですね。一番の基盤にはなってますね。
-そして、初めてライヴをやられたのは高校生のときでしたっけ?
高校3年生のギリギリの冬、高校生のうちになんか歌を歌うっていう経験をしたいと思って、ライヴハウスに電話しました。高円寺のめっちゃやばいライヴハウスなんですけど(笑)。
-すごい行動力。話を戻すと、ご自分で曲を作ったり歌ったりするようになったきっかけは?
きっかけは高校3年生の、それこそライヴに出演する1ヶ月前までは、弾き語りとか音楽をやろうって、一度も思ってなくて。でも突然スイッチが入って――別に自分は歌が優れてうまいとか、弾き語りが趣味だったとかそういうことは一切なかったんですけど、そのころ気持ちがすごく鬱々としていたんです。クラシック・ピアノを中学生から専門でやってきていたんですが、みんなと同じようにやってきて比べられて、コンクールに出ての繰り返しで。"オリジナリティみたいなものを出すとダメ、模範的なものをしっかりやる"、そういうのがつまらなくなってきちゃって。そのときにちょうど大森靖子さんが高円寺で弾き語りをやっていたのを見て、"こういうやり方もあるんだな"と思ったんです。それで弾き語りをしてみようかな、というか、人生変えないとマジで死んだほうがいいんじゃないかってぐらい、すごい追い詰められてて。なんかわからないんですけど。"変わらなきゃ"みたいな気持ちでいました。
-彼女がまだインディーズのころですね。登場当時、衝撃もあったけど歌の表現力やテクニックもある新しい存在感を放っていて。
それで大森さんが高円寺でフリー・マーケットをやっていたので、それに行って"活動しようと思ってるんです、靖子ちゃんに憧れて"みたいな感じで言って(笑)。曲も何もないのに、相談したら"若いからなんでもできるよ"みたいに言っていただいたので、"あ、じゃあ、ちょっとやってみようかな"と思って始めました。
-アカデミックな音楽教育に対する息苦しさの中で自由にやってる人に出会ったと。
その通りですね。
-彼女の何に惹かれましたか?
ひとりの女性が戦ってる姿というか、ブログの文章も含めて、彼女の生き様みたいなところにすごく惹かれました。もちろんライヴ・パフォーマンスや曲も好きなんですけど、生き方みたいなところにすごい救われたっていうのがあります。ただ、活動を始めてからは曲が似てるとか、パクリとか、すごい言われて苦しんでいた時期も2~3年前にあったんですよね。今はもうないんですけど。
-そういう存在に出会うか出会わないかで自分でやるかどうかの岐路になりますね。
岐路ですね。やっぱりその19歳のときに一番変わったなと思います。
-特に学校生活は外の世界が見えなかったりするから。
たしかに私も大森さんに出会って、初めてそういう世界があるんだって知ったし、学校はクラシックって頭が凝り固まってる人が多いっていうのも事実で、"クラシック以外音楽じゃない"とか平気で言う人がたくさんいるんですよ。でもそうじゃなくて、姉もそうだけど、いろんなジャンルで人を救ったり、救われたりしてるのは間違いなく音楽がしていることなので、なんでだろう? ってすごい引っかかってて。"クラシック至上主義みたいになってるわ、この人たち"ってなってたんですけど、そうやって疑問を持ってたからこそアンサーが見つかったという感じでした。
-立派なのは今も院に行ってらっしゃることです。
(笑)今の大学の恩師との出会いがすごく大きくて。日本大学芸術学部の教授にずっと指導していただいてるんですけど、その人が大貫妙子さんとかが好きで、一緒にライヴに行ったり、私のライヴに来てくださったりしているんです。それまでポップスにも理解のある先生に出会ったことがなかったので。
-その先生も学生を就職させるための指導だけじゃなくて、ご自分にも研究対象がおありでしょうし。
先生はフランス音楽を研究されていて、大学からそのまま院もその先生にお願いしたんです。フランス音楽の面白いところは歴史的に近代に近くて、例えばユーミン(松任谷由実)もフランス音楽の和声感を取り入れてたりするんですよ。"このプーランクの曲のここ、めっちゃユーミンの進行だな"とか思って。そういうのもかけ離れたものではなくて、院に行ってからはわりと相乗効果で自分の作品も良くなるように学べている気がします。
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