Skream! | 邦楽ロック・洋楽ロック ポータルサイト

MENU

INTERVIEW

Japanese

MASH

2016年11月号掲載

MASH

Interviewer:荒金 良介

-話を聞くと、今作の内容に合点がいくことばかりです。

恥ずかしいことや、言えなくなった言葉をどれだけ臆することなく、感じたままに歌えるかなと。それが作品のテーマでした。恥ずかしいことをしなくなると、平均的になるというか。恥をかくかもしれないけど、あのころみたいに今の自分でも表現できるんじゃないかと。恥をちゃんと歌にすることで、聴いた人の心も裸になってくれるかなと思うんです。前回のベスト盤が100人に聴いてほしい作品だとするなら、今作はたったひとりに届けばいいんですよ。

-ベスト盤以降、そこまで心境が変わった理由は?

変わったというか、10年かけて取り戻した感じでしょうか。

-今作に「1979」(Track.3)という曲があり、これはMASHさんが生まれた年を曲名にしていますけど、それも今までの話と繋がるところも?

1979年に僕はこの世に生まれて、それ以前のことは本や誰かの言葉で知ることになるわけじゃないですか。だけど、まず自分が生まれた年や場所のことさえもよく知らないなと。この街が生まれる前はどんなことがあったんだろうとか。そしたら都市化計画があって、山を削って街を作ることになったという。それを知ると、人の営みもわかりますからね。あと、"1979"という数字を見ただけで、平成生まれの子は何があったんだろうと思うだろうし、37歳だからこそ書けた曲ですね。

-「1979」は曲調にもヒップホップ的なニュアンスを取り入れてますよね?

たしかに、ワンループ感やサビでメロディを歌わないところとかはそうですね。"強さは暴力だけじゃない"という歌詞が出てきたときに、この曲が完成したんですよ。人の心を動かすレベル・ミュージックを信じてて、"強さは暴力だけじゃない"という言葉を先人たちが言い方を変えて歌い続けてきたことだなと。僕もようやく1行で伝えられるまでになったなぁと、勝手に喜んでます。

-"強さは暴力だけじゃない 音楽はいつだって歌ってる"の歌詞にはそういう意味が込められていたんですね。よくわかりました。

そうなんです。僕が好きな音楽はそこをずっと歌っていたんだなと。

-あと、MASHさんは他人を知るにはまず自分を知ることが大事だとインタビューでも言ってましたよね。今作はより聴き手に届けたいからこそ、まず先に自分が丸裸になるというか。"黄金の季節=MASHです"という内容になったと思うんですけど、いかがですか?

自分を知れば知るほど他人に近づけると思うので、それを実行しました。まさにそういう作品ですね。

-今後アーティスト活動を続けていくうえでも、ターニング・ポイントと言える作品ですね。

自分の中を開拓した感じがあるし、「(after the gold rush)」(Track.10)は開拓が終わったみたいな意味合いがあるんですよ。僕はどこから来て、どこに行くという気持ちを1枚にできたと思います。

-今作の中でも、Track.4「誰かが僕を悪く言っても」はかなり赤裸々なラヴ・ソングですね(笑)。

パーソナルになればなるほど、"あぁ、わかる!"と頷いてくれる人が多いんじゃないかと。人間は家を出る瞬間にある意味"自分"という仮面を被って、世の中に出ていく部分があると思うから。本当のことを全部言ってしまうと、世の中はとんでもなくなると感じることもあって。自分も言葉を選んで歌詞を書いていることに気づいた瞬間があったんですよ。それなら、どれだけ自分の仮面を外して、ラヴ・ソングが歌えるかなと。そこに音楽や言葉の価値があるような気がしたんです。

-この曲もすごく共感できます。あと、Track.6「朔望」の中に"誰かを幸せにすることは 嘘をつくことに似てるよな"というドキッとする歌詞もありますが、ここにはどんな思いを込めてるんでしょうか?

さっきの話に通じるけど、誰かと会話するときに最初から相手を傷つけようとして会話を始める人は滅多にいないだろうし、誰かに会った瞬間に人は優しくなろうとするんですよ。"その優しさってなんだろう?"と考えたときに、自分の利益や得のためにつく嘘は良くないけど、誰かを幸せにしたいと思ってつく嘘は悪や罪ではないんじゃないかなと。ドキドキしながらも、その歌詞を書きました。

-曲調は今作の中でも一番シンプルですね。

ここ最近、BON IVERの『For Emma, Forever Ago』(2007年リリース)というアルバムを1,000回ぐらい聴いているんですよ(笑)。なので、今作のアレンジに関してはフォークなのにゴスペルみたいなハモリを再現したいと思い、サビはそういう感じになりました。

-今作は人肌感もありつつ、壮大なスケールの作風に仕上がりましたね。

ミクロを突き詰めれば、マクロに到達するんだなと。目に見えないところまで見ようとすると、実はそれが全体に繋がるんですよね。なので、今回はアレンジ、ミックス、音の質感にこだわりました。さっき言ったBON IVERのアルバム以外に、僕が今一番聴いているのがTHE LUMINEERSの『Cleopatra』(2016年4月リリース)というアルバムで。フォーキーだけど、やってることが新しいんです。ピアノにリヴァーブはかかってないけど、ヴォーカルや他の楽器は空間的なアレンジがされて、実験的なんですよ。その2枚から古き良きものとアヴァンギャルドな部分を感じたから。全部ではないけど、その影響が出た曲もありますね。

-その音質も今回の作風にマッチしていたと?

自分が10代のころに聴いていた音楽の質感に近いんですよね。親の影響で吉田拓郎とかも聴いてましたから。フォーキーでありながら、2016年の匂いもする。そこを目指しました。

-では、今後の予定を教えてもらえますか?

このアルバムは、ここ数年ずっとライヴも一緒にやっているバンド・メンバーを集めてゼロから作り上げた作品です。そのメンバーといろんな場所でライヴができたらと思っています。例えば芝居小屋だったり、コンセプチュアルなことにも挑戦したい。そして曲順もそのままで、ライヴでアルバムを再現してみたいです。MCナシの45分一本勝負みたいな。