Japanese
Siip
Writer 石角 友香
2020年12月24日に突如「Cuz I」を配信した、詳細不明のシンガー・ソング・クリエイター Siipが「2」、「πανσπερμία」に続き、10月27日に初のCD作品となる1stアルバム『Siip』をリリースした。
まず「Cuz I」が配信された際、歌い出しの、脳に直接声と言葉とメロディの情報が伝達されるような音像処理に驚き、意味を反芻していくと自分を知る人に囲まれる居心地の悪さが際立ってくる。成功すれば搾取され、発信者は自分をもてはやす対象に辛辣な言葉を投げ掛ける――だが、歌詞の内容と相反して音像は有機的になり、サックスのモジュラー音源なのだろうか。チルなムードさえあるサウンドスケープに舵を切っていく。断罪されているのか許されているのか判別しかねるのだ。加えて、福岡のDJやアーティストを擁するコレクティヴ、BOATの制作したMVでは、まるで流刑地のような何もない廃墟で若い男女が粗末な食事をしている。しかし食べているのがりんごであることでこのふたりが最初の人類であるようにも思える。また、無機物なのに胎内にミルクのような液体だけが増減する羊に見える硝子の何かは、「Cuz I」のみならず、Siipというアーティストの化身のようにも見えた。
年が明け2021年2月12日には「2」を配信。歌い出しは高低差のある声をミックスしたことから複数の人格が窺え、「Cuz I」同様ダイレクトに脳に刺さる音像から始まり、打ち込みではありつつ、エディットされたドラムやベースが加わり、いわゆるバンド・アンサンブルにも聴こえるアレンジに変化する。後半にはビートがバグを起こしたかのようなドラムンベースが挟まれ、ジャンルに縛られることのないアレンジが意図されているようだ。また、"自分を知る 濁りが目立つ"という歌詞は、Siipが少なくとも神ではなく人間である証左に思えるし、"僕を飲み干せる 誰かが欲しい"と続く部分は平たく言えば、ありのままの自分を認めてほしいということになるのだろう。ただ、そういう平たい受け止めにならない言葉選びや、どういう視点に立った存在なのか謎を深めるMVのせいで、この曲の奥行きは増した印象だ。羊の頭蓋骨と角が印象的なオブジェのようなヘッドピースを被ったその人はSiipなのか? それとも手の表情からして女性なのか? 青く燃えた街は人間同士の争いで消失してしまったのか。Siipは人類の行き先を知っているのか、もしくは地球に残された孤独な存在なのか――歌いだしの二重性に始まり"2"が象徴する対極、対立、あらゆる反対のものは確かに存在する。だが、"僕を飲み干せる 誰かが欲しい"と希求するのがSiipなのだと知る。
さらに6月25日には生命起源論のひとつであるパンスペルミア仮説をタイトルに冠した「πανσπερμια」を配信。これまでの2曲の唐突に狭い空間で突きつけられる歌いだしに比べ、メロディそのものが豊かでポピュラリティがあることが大きく違う。だが、そこには過ちを繰り返す人間であるがゆえに、今生を初めてのフリをしようと歌うのだ。そして前半では不安定な生命を"美しい"と呼ぶことで救われるかもしれないという、多少シニカルな表現であったものが、1曲の中で人類の歴史を疾走してきたように、終盤では不安定な命たちが生きる世界を"美しさ"と呼ばずにいられないと歌う。まるで神の視座だ。そしてMVにはSiipと同類の種と思しき女性が登場する。これは逆にSiipも人間であることを逆説的に表現しているように思える。水中の超スロー映像は人類創世を想起させると同時に、人間の一生のようでもある。パンスペルミア説は生命の起源は天上の世界から撒かれた種とする、信仰としての仮説なので、映像は水中であることよりも人の動作や神秘性を現す手段なのかもしれない。
シリアスなテーマだからこそ耳に飛び込む歌の普遍性――ポップ・ミュージックであることへのこだわり
こうして振り返ると、現代社会の軋轢からグッと俯瞰で見た地球レベルの軋轢、さらには人類創世へと、まるで地上から宇宙へどんどん視点が遠くなっているように感じる。だが、アルバムはほぼ逆の時間軸で展開していくのだ。壮大な宇宙の星のまたたきと思わせるSEの最後に、原初の人の声を想起させる第一声だけが響く、冒頭の「saga」(=大河小説)に始まり「πανσπερμια」、「Cuz I」、「2」が大河小説の章立てのように続き、5曲目の「Walhalla」はそのタイトルからして、北欧神話における主神オーディンの宮殿なのだろう。中世の鍵盤楽器ハープシコードを想起させる旋律と、勇壮なリズムに乗せ血で血を洗う戦いの日々が描かれる。歌唱もオペラのようだ。
一転、現代のR&Bやトラップにも近いサウンドの「来世でも」に時間軸が揺らぐが、実は歌われていることは命の循環や輪廻転生を思わせるものだ。ラヴ・ソングに聴こえつつ、愛を注ぐ対象は子孫なのかもしれない。さらに、エレピの温かみのあるアンビエンスが、モダンなポップ・ソングの聴感を与える「オドレテル」だが、「Cuz I」で提示された現代的な問題が共振するようなテーマを持っている。怒声のような歌唱から、限界まで高いキーに振り切り、ジェンダーが行き来するように途切れがちなか細い声まで、人格が目まぐるしく変化するヴォーカリゼーションは圧巻だ。
人類史の大河小説に結末があるのかというと、ラストの「scenario」ではむしろ運命に翻弄される我々人間すべてに当てはまるような、何度も分断と和解を繰り返すことを半ば諦め、しかし絶望的な状況を何度も乗り越えてきた歴史も認める。繰り返される人間の営為をあらかじめ決められたシナリオと仮定し、それは善でも悪でもないというフラットな印象でこの作品は終わる。ただただ、その冷徹な筆致に鳥肌が立つが......。
ジャンルを特定できないトラックは先進的ではあるけれども、それは新しいことを目指したというより、ポップ・ミュージックにおいては深淵且つ馴染みのないテーマの軸を、歌に託した結果なのではないか。個人の思想が担保されつつ流れる社会、まずその前提として思想を育むこと、生きていくうえでの哲学を持つこと――シリアスなテーマだからこそ、ファースト・タッチとして歌が屹立するポップ・ミュージックが、Siipの表現にとって不可分だったのだろう。アーティスト属性を排除して鳴らされる必要と、排除してもなお届く強さをSiipは確信している。こんな時代だから、とは常にポップ・ミュージックに付される常套句だが、正面から時代に切り込んだ本作の誠実さは群を抜いて存在している。
▼リリース情報
Siip
1stアルバム
『Siip』
NOW ON SALE
[EMI Records]
【完全生産限定BOX】LPサイズ(CD+Blu-ray+タロットカード8枚セット+GOODS)
UPCH-29405/¥13,200(税込)
amazon
TOWER RECORDS
HMV
BOXサイズ:縦32.5cm×横32.5cm
[GOODS]
①Large size Siip stencil sheet
②Candle & holder by "Cuz I"
③Siip style long sleeves wear
【通常盤】(CD+Blu-ray+タロットカード8枚セット)
UPCH-20590/¥3,850(税込)
amazon
TOWER RECORDS
HMV
[CD] ※完全生産限定BOX、通常盤共通
1. saga
2. πανσπερμία
3. Cuz I
4. 2
5. Walhalla
6. 来世でも
7. オドレテル
8. scenario
[Blu-ray] ※完全生産限定BOX、通常盤共通
「Cuz I」、「2」、「πανσπερμία」ミュージック・ビデオ
配信はこちら
1stアルバム『Siip』特設サイトはこちら
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