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Japanese

in NO hurry to shout;

2017年11月号掲載

in NO hurry to shout;

Writer 高橋 美穂

11月15日にシングル『Close to me』でメジャー・デビューするin NO hurry to shout;(通称:イノハリ)。メジャー・デビュー前なのに、もう通称があるバンドなの? と思われるかもしれない。そう、実際に彼らはすでに人気バンドなのだ。というのも、少女漫画雑誌"花とゆめ"に連載中で、さらに11月25日に三木康一郎監督による実写映画が公開される漫画"覆面系ノイズ"の劇中バンドなのである。

楽曲やバンドの魅力を語る前に、まずは"覆面系ノイズ"の背景から説明していこう。漫画家の福山リョウコが"花とゆめ"で"覆面系ノイズ"の連載を始めたのは、2013年のこと。女の子たちに大いに人気を博すようになり、すでに13巻の単行本を刊行している。今年4月~6月には、TOKYO MXなどでアニメ化もされた。そうやって階段を上ってきたうえでの、実写映画化や、劇中バンドのメジャー・デビューという今があるのだ。

では、どんな漫画かというと――突然姿を消した幼馴染に想いを届けるために歌い続けるヒロイン ニノと、彼女の声に惚れ込み、彼女を想って曲を書き続ける青年 ユズ、そして、幼いころいつも一緒にいたニノをなぜか頑なに拒絶し続ける、ミステリアスな幼馴染 モモという3人を中心に展開していく物語。それぞれの片想いが交差していく、切ない"片恋"ストーリーだ。そしてin NO hurry to shout;は、ユズがギタリストとソングライターを務める覆面バンド。また、モモは作曲家やプロデューサーとして活躍している。このように、音楽やロック・バンドが肝となっている漫画なのである。

これまでも少女漫画の世界において、音楽やロック・バンドが核となって展開していく作品は、数多く生み出されてきた。そんな中でも今作は、"覆面バンド"というところが最新型の方向性を強く打ち出している。イノハリは、高校生のメンバーが正体を隠すため、覆面バンドとして活躍しているが、現実の音楽シーンにおいても、様々な事情から写真やプロフィールを公開しないロック・バンドは2000年代から急激に増え始めた。そんな時代性も相まって、劇中バンドが覆面バンドであることは、ファンタジーとリアリティが混じり合った絶妙な設定に感じられる。また、音楽的な意図と、交差する片想いを掛け合わせたような"覆面系ノイズ"というタイトルも秀逸だ。


"劇中バンド"のイメージを超える、生々しい存在感


実写映画版の"覆面系ノイズ"では、ニノを中条あやみ、ユズを志尊 淳、モモを小関裕太という、まさに少女漫画から飛び出したかのような文句なしの美しさ&カッコよさで人気の若手俳優たちが共演している。そのヴィジュアルは眼帯を使ったゴシック・ロリータな雰囲気。なお、ヴォーカルを務めるニノはアリスと名乗り、ギタリストを務めるユズはチェシャと名乗り、杉野遥亮が演じるハルヨシはベーシストとしてクィーンを名乗り、磯村勇斗が演じるクロはドラマーとしてハッターを名乗っているなど、原作を知らない人からすると、覆面バンドということもあってちょっぴり複雑になっているが、そういった前知識を頭に入れずに聴いても『Close to me』は興味深い作品になっている(もちろん、前知識を頭に入れておいた方が、もっともっと楽しめるが)。

メジャー・デビュー・シングルであり、映画の主題歌となっている「Close to me」は、"まるでガラスみたい"と喩えたくなるほどのハイトーン・ヴォーカルが美しいミドル・チューンだ。いきなり聴き手の目の前に壮大な風景を広げる歌声から幕を開け、だんだんスピードを上げていく。この流れは、ひとりの少女の純粋な想いと、軽やかな青春のどちらも表現しているようで、曲調そのものから物語性が感じられる。"この声届きますか/あの日のうた/そう信じていた/叫びながら"という、ニノのキャラクターや映画のストーリーを凝縮したような歌詞もいい。そして、何より驚かされるのは、ニノを演じた中条あやみの歌唱力と声の美しさだ。これまで、なんらかの音楽活動をやっていなかったことが不思議なくらい。この役には、ヴォイス・トレーニングや歌の練習を積み重ねて挑んだそうだが、劇中バンドというだけではなく、彼女自身が意志をしっかり込めて歌っているような存在感がある。



なお『Close to me』のプロデュースを手掛けているのは、MAN WITH A MISSION(以下:MWAM)。MWAMはハードな曲調のイメージが強いが、「Memories」など、メロディが美しいミドル・チューンも生み出してきた。『Close to me』では、彼らのそんな幅広い側面が発揮されている。なおMWAMは、映画のエンディング・テーマ「Find You」も担当している。この楽曲に対する"作中ノ「ニノ」ヤ「モモ」ヤ「ユズ」ハオ互イヲ「見ツケル」タメニ或イハ「見ツカル」タメニモガク、刻ム、削ル、生キル。「Find You」ハ彼ラノ心情ヤソノ姿ヲ自分ナリニ解釈シテ書カセテイタダイタ曲デス"という彼らのコメントからは、彼らが"覆面系ノイズ"の世界を深く理解しようと真摯に努めたことが伝わってくる。

また、「Close to me」のカップリングにも注目。2曲目の「カナリヤ」は、物語の中でもニノがイノハリに加入するきっかけを作る重要な楽曲。"響け 響け"という歌い出しから耳を奪われずにはいられないほど、切なる願いがこもっている。「Close to me」とは打って変わってアッパーでエモーショナルな曲調だが、ヴォーカルを生かしたポップな仕上がりなので、原作漫画を愛読している10代の女の子たちにも親しみやすいだろう。さらに3曲目の「ハイスクール」は、歌始まりだった2曲とは違って、エッジーなギターから始まるナンバー。全体的にもギター、ベース、ドラムの音が際立っていて、収録されている3曲の中では、曲調としては最も激しいと言えよう。ギター・ソロもギラッギラに迫ってくるので、イノハリはポップな楽曲もやるけど、れっきとしたロック・バンドである、というバンドのコンセプトのようなものも感じられる。そして歌詞も"響き渡ってるチャイムに 嫌気がさしてる毎日"、"どんなルールでも 僕を縛れない"と、学校生活の中で抱えるフラストレーションが爆発しており、学生が聴いたら共感できるようなドンピシャな世界観が描かれている。

ヴィジュアルから想像できるようなダークな音楽性をいい意味で裏切るような、恋愛、学校、将来などに関する葛藤を美しく熱く昇華した"青春ロック"が詰まった1枚。劇中バンドとしてだけではなく、今後も活動を続けてほしい、そして生でライヴも観たい! というリクエストが殺到しそうだ。

『Close to me』を手にするきっかけは、人によって様々だろう。映画に出演している俳優のファンもいるかもしれないし、原作からのファンもいるかもしれない。つまり、そこまでロック・バンドにのめり込んでいるわけではない人も、聴く可能性があると思うのだ。こういった劇中バンドに限らず、現実に活動しているロック・バンドも、いろいろなドラマを背負っている。これまでそれほどロック・バンドに興味がなかった人も、今作を入口に、ロック・バンドというドラマチックな存在の魅力に気づいて、様々なロック・バンドに出会い、ライヴハウスに通い、ドラマを共有してほしいと、ロック・バンドを愛する人間としては願わずにはいられない。もしくは、今作を入口に、自らマイクや楽器を持ち、バンドを結成するという道もあるかもしれない。そういった意味も含んでくるとなると、音楽シーンにおいても、とても重要な1枚と言えるだろう。

また、MWAMのファンなどで、原作や出演者をそれほど知らない人が今作を聴き、映画を観るという逆のパターンもあるだろう。そういった人は......今をときめく出演者のきらめきに圧倒されるとともに、青春の甘酸っぱさを噛み締めることができる。そう考えるとイノハリは、メジャー・デビュー前から、幅広い人たちに影響を及ぼすことが予測できる、最強の覆面バンドのひとつなのかもしれない。


▼リリース情報
in NO hurry to shout;
デビュー・シングル
『Close to me』
11月15日(水)リリース
[Sony Records]
syokai_jk.jpg
【初回生産限定盤】CD+DVD
SRCL9462~9563/¥1,667(税別)
amazon TOWER RECORDS HMV

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【通常盤】CD
SRCL9564/¥1,111(税別)
amazon TOWER RECORDS HMV

[CD]
1.Close to me
2.カナリヤ(MOVIE SIDE)
3.ハイスクール(MOVIE SIDE)

[DVD]
1.「Close to me」MUSIC VIDEO
2.「カナリヤ(MOVIE SIDE)」MUSIC VIDEO
3.MAKING OF [Close to me / カナリヤ(MOVIE SIDE)] MUSIC VIDEO

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