Overseas
Björk
2015年04月号掲載
Writer 石角 友香
若いリスナーにとってBjörkはどんな存在なのだろう。あらかじめ先鋭的なアーティストであり、奇抜なアートワークというか、彼女自身をエキセントリックなクリーチャーだと思っている人もいるかもしれない。そして前作『Biophilia』をアプリでリリースするなど、テック系/教育系(北欧諸国の音楽の授業に導入)でも注目されるBjörkという存在は下手な新聞や政府よりある種、意義の大きなメディアともいえるだろう。もはや彼女という個人の実態など到底把握できないし、興味の矛先はそこじゃない。そんな全世界の共通認識の前に、差し出された新作が彼女のパーソナルな経験をしかも時系列に並べた作品だというのは驚きだ。
2000年代から互いの創造性を高め合ってきたアーティストであり、夫、恋人のMatthew Barneyとの破局に端を発した今回の『Vulnicura』。Matthewとの映画作品"拘束のドローイング"やインスタレーションを金沢21世紀美術館に観に行ったことがあるのだが、なんというか無邪気なまでのインスピレーションが破壊的なまでに突拍子もない表現を生み出すふたりの信頼関係に、いい意味で笑うしかないぐらい唖然としたものだ。そんな関係にもピリオドが打たれるとは。当初、Björkは作品化する、しないを考えずに言葉とメロディを紡いでいたのだという。そのモノローグ的なものをいよいよ作品化する際に、その、歌とメロディありきという、音楽を始めたころ以来の手法がこのアルバムのトーンをとてもパーソナルかつ普遍的なものにしているのは確かだろう。"9 months before"、つまり破局9ヶ月前と追記された「Stonemilker」という驚くほど"歌モノ"な楽曲で幕を開ける本作は、中編成のストリングスと削ぎ落とされたエレクトロニクスが"オケ"を務める現代的なオペラのような印象で始まる。まったくこのオープニングには意表を突かれた。50歳を前にして相変わらずあの少女のような無垢な声の特別さをすごく近いところで聴くことができるのだ。不安な前触れを歌っていながら、作品としてこれまでに出会ったことがない素のBjörkに触れることができる不思議な気持ちが湧き上がる。
アルバムは時系列通りに進んでいく。そして何も事情を知らずに聴くと、ストリングスが美しい現代音楽にも聴こえる「Black Lake」、この曲でのストリングスのロング・トーンの尋常じゃないロングさにある、絶望というか隔絶というか、世界の果てに投げ出されてしまったような孤独感の描写に震撼してしまった。しかし、続く「Family」での、別れを受け入れてからの家族としての認識もまた、"こんなときだから団結しようね"みたいな生易しさは皆無。むしろ家族というもののカオスを不穏なサウンドが表し、ようやくこの一連の出来事を俯瞰できるようになったのか、琴のような和テイストな「Notget」で、ほんの少し平穏なサウンドスケープが表れ始める。
従来、ビートとエレクトロニクスの音像重視で作られたBjörkの作風は、始めに歌とメロディありきの今作で変化せざるを得なかったのだが、ここで彼女の歌とストリングスの美しいバランスに少々の違和感でもって、単なる悲劇とその治癒というニュアンスに終わらせなかったのが、今や時代の寵児となったヴェネズエラの若き異才・ARCAことAlejandro Ghersiがプログラムする様々なサウンドだ。特にセンシュアルな面を抑制の効いた音像で定着させた「History Of Touches」は、生々しいエロス以上にエロティックであるという、ARCA自身の作品でも実感できる、リスナーの感覚を更新するようなセンスが発揮されている。
ただ流していればアンビエント的でもある作品だが、珍しく彼女の言葉に興味を惹かれて作品を聴いていると、愛や人間関係の破局のみならず、心に痛手を受けた人にとって静かなる励みであり、薬になってくれるようなアルバムである。と、同時にやはり結果的には先鋭的な音像に着地しているのは、無意識的にでも彼女がBjörkである証なのかもしれない。
Björk
『Vulnicura』
[SONY MUSIC JAPAN]
SICP-4421X ¥2,400(税別)
NOW ON SALE
【初回限定仕様特典】
●豪華紙ジャケット
●特殊スリーヴ・ケース付き
amazon | TOWER RECORDS | HMV | iTunes
1. Stonemilker
2. Lionsong
3. History Of Touches
4. Black Lake
5. Family
6. Notget
7. Atom Dance
8. Mouth Mantra
9. Quicksand
- 1
LIVE INFO
- 2025.08.21
-
PENGUIN RESEARCH
THE BAWDIES
TENDOUJI
YOASOBI
GANG PARADE
金子ノブアキ
KALMA
キュウソネコカミ
"LIVEHOLIC / ROCKAHOLIC Candye♡Syrup (美容室) 10th Anniversary Party"
- 2025.08.22
-
奏人心
KING BROTHERS
"WILD BUNCH FEST. 2025"
TENDOUJI
THE BAWDIES
終活クラブ
YOASOBI
JunIzawa
ナナヲアカリ
Broken my toybox
RAY
フレンズ
Rei
キュウソネコカミ
- 2025.08.23
-
PENGUIN RESEARCH
KING BROTHERS
Maica_n
"MONSTER baSH 2025"
大森靖子
"WILD BUNCH FEST. 2025"
ぜんぶ君のせいだ。
LOCAL CONNECT
浪漫革命
リーガルリリー
Buzz72+
Appare!
佐々木亮介(a flood of circle)
w.o.d.
Eve
マオ(シド)
- 2025.08.24
-
大森靖子
"Sky Jamboree 2025"
KING BROTHERS
Maica_n
"MONSTER baSH 2025"
"WILD BUNCH FEST. 2025"
ぜんぶ君のせいだ。
cinema staff
LOCAL CONNECT
ビッケブランカ
Eve
マオ(シド)
小林柊矢 / 心愛 -KOKONA- / 虎鷹 / 荒木一仁 ほか
- 2025.08.25
-
Hump Back
神聖かまってちゃん
THE YELLOW MONKEY
- 2025.08.28
-
KALMA
Maica_n
ビレッジマンズストア
THE BAWDIES
22/7
- 2025.08.29
-
the cabs
神はサイコロを振らない
Bye-Bye-Handの方程式
安藤裕子×清水ミチコ
そこに鳴る
ゲスの極み乙女 × 礼賛 × roi bob
[Animelo Summer Live 2025 "ThanXX!"]
"SWEET LOVE SHOWER 2025"
- 2025.08.30
-
Kroi
reGretGirl
ナナヲアカリ
木村カエラ / OKAMOTO'S / 原因は自分にある。 ほか
豆柴の大群
ビレッジマンズストア
アーバンギャルド
天女神樂
ぜんぶ君のせいだ。
"ナノボロ2025"
Maica_n
"RUSH BALL 2025"
ビッケブランカ
レイラ
9mm Parabellum Bullet / THE BACK HORN / ACIDMAN / yama ほか
PIGGS
eastern youth
Appare!
VENUS PETER
GRAPEVINE
Lucky Kilimanjaro / 眉村ちあき / 森 大翔
崎山蒼志
セックスマシーン!!
[Animelo Summer Live 2025 "ThanXX!"]
NEK!
"SWEET LOVE SHOWER 2025"
Faulieu.
- 2025.08.31
-
reGretGirl
Broken my toybox
BLUE ENCOUNT / スキマスイッチ / 家入レオ / CLAN QUEEN ほか
ビレッジマンズストア
大森靖子
"ナノボロ2025"
"RUSH BALL 2025"
HY
GOOD BYE APRIL
Nothing's Carved In Stone / Base Ball Bear / ヤングスキニー / GLIM SPANKY ほか
ぜんぶ君のせいだ。
LACCO TOWER
なきごと
四星球 × G-FREAK FACTORY
RAY
Miyuu
GANG PARADE
ONIGAWARA
伊東歌詞太郎
ZAZEN BOYS
PK shampoo
[Animelo Summer Live 2025 "ThanXX!"]
"SWEET LOVE SHOWER 2025"
Academic BANANA / Yeti / BACKDAV
- 2025.09.01
-
打首獄門同好会
DIRTY LOOPS
とまとくらぶ
- 2025.09.02
-
Hump Back
とまとくらぶ
フラワーカンパニーズ / Conton Candy / ヒグチアイ / TOSHI-LOW
ずっと真夜中でいいのに。
打首獄門同好会
YOASOBI
め組 / ザ・チャレンジ / NaNoMoRaL / 宇宙団
- 2025.09.03
-
YOASOBI
DIRTY LOOPS
WurtS × なとり
THE YELLOW MONKEY
RELEASE INFO
- 2025.08.22
- 2025.08.27
- 2025.08.29
- 2025.09.01
- 2025.09.03
- 2025.09.05
- 2025.09.10
- 2025.09.12
- 2025.09.17
- 2025.09.19
- 2025.09.24
- 2025.09.26
- 2025.10.01
- 2025.10.03
- 2025.10.05
- 2025.10.08
FREE MAGAZINE
-
Cover Artists
ExWHYZ
Skream! 2025年08月号