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Japanese

Rails-Tereo

2013年04月号掲載

Rails-Tereo

ライター:石角 友香

世に言うポジティヴ・ソングとかエール・ソングというものに拒否反応のある人にこそ聴いてほしいアーティストが現れた。キャリアの最初は布袋寅泰からの影響、しかしギタリストになることはなく、シンガー・ソングライター/ピアニストとして、声とピアノ・キーボードを自在に操るモリカワヒロシのソロ・ユニットRails-Tereoの一見、普遍的な音楽性は今の時代にあって、むしろ大きな可能性を秘めている。

4月リリースの2ndフル・アルバムからサンプルとして何曲か聴いた時点での第一印象は、完成品でもリード・トラックになっている「走り出す」の疾走感、痛快に鳴らされるリズミックなピアノの和音から、末光篤やBen Foldsに近いものだった。が、その後、ベース、ドラム、女性コーラスを従えたライヴを体験。その印象は裏切られることこそなかったが、いい意味でもっと長いポップ・ミュージックの時間軸の中で磨かれてきた何かを感じてしまったのも確かだ。

たとえばゆっくり寝ていてもいい休日に、太陽の光が気持ちよすぎて起きだしてしまう気持ちよさ。完全オフ日に特に予定もなく部屋を出てしまっても歩幅が大きくなるような愉しさ。行く先が決まってなくても焦らない。ざっくり言うと、そんな開放的な気持ちが自然に湧き出てくる声とピアノ、そしてバンド・アンサンブルだった。そこにはもちろん、関西人である彼の観客を緊張させないユルめで間のいい話術が貢献してはいるのだけど。でも、誰だってこうはいかないし、演奏そのものが心から笑っているような躍動感に満ちていてこその、話術というスパイスなんだと思う。その日、当初のイメージからさらに広がって、JACKSON5やElton John、DOOBIE BROTHERSのAOR的な楽曲から、日本人のアーティストならスガシカオや大橋トリオまでも想起させた(USインディーやブルックリンのアーティスト/バンドをチェックしているリスナーにはなんのこっちゃ?な喩えで恐縮なのだが)。接点があるとしたらジャズやブルース、ソウル、R&Bのグルーヴとコード感とグッド・メロディを備えた音楽。最近はUKでも2010年代的なブルーアイド・ソウルの新鋭が登場していることもあり、EDMやダブステップにそろそろ疲れたり飽きたりしたリスナーが新たに着目しているムーヴメントの一端でもある。

さて、肝心の2ndフル・アルバムが完成、タイトルは潔いまでにRails-Tereoの信条を表したような『Piano Pop Life』。生き方といってもいいだろう。冒頭に挙げた、一度聴くと恐るべき脳内リピート確実のサビメロを持つ「走り出す」をはじめ、打ち込みのビートが無機的に響く「冷たい雨」では、“君に会いたい気持ち”に水を差して焦らせるようなアレンジが効果的だし、ビッグ・バンドのワイルドさを感じさせる「Dancin’ the darkness」ではダイレクトに“いつまで踊り続けなくちゃいけないのだろう?”と不安や怒りを綴りつつ、本音では自身の意志で踊りたいことを表明する。ほかにも丹念に重ねたヴォーカル・ワークに息を呑む「Say Hello, Say Goodbye」、古いピアノと今、ここで歌っているようなライヴ感で迫る弾き語り「春色模様」など、曲調こそさまざまだが、先に書いたルーツミュージックに根ざした洗練されたグルーヴ・ミュージックという軸はブレない。そして彼の声質そのものが持つ潔癖な聴感が、男性・ピアノ・ポップ、聴きやすいけど聴き流しちゃうよね~といった先入観をそれ以上の勢いできれいさっぱり洗い流してくれるのだ。

曲をまず聴いて、曲そのものの強さや演奏の豊かさを味わいながら、彼のメッセージを受け取ればいいんじゃないかと思う。音に乗る言葉ではなく、思いが乗ったメロディは、どんなにストレートな表現でも人の心にすんなり入ることをRails-Tereoは証明している。

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