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PINBACK

2012年11月号掲載

PINBACK

Writer 伊藤 洋輔

木の葉も色づくこの季節と、前作のタイトル『Autumn Of The Seraphs』を掛けあわすなら、まさに“天使たちの秋”が始まろうとしている。アメリカ西海岸はサンディエゴの雄、Rob CrowとZach SmithからなるPINBACKが約5年振りの新作『Information Retrieved』をリリースする。透き通った歌声、繊細なギター・アルペジオ、冷たくも心地良い緩やかなトーンが通低する世界観……さらりと一聴しただけでも圧倒的なオリジナリティを痛感する。期待を裏切らない、不変/普遍のPINBACK節は揺るがないのだ。

早速だが、ここでPINBACKのプロフィールをざっくりとおさらいしておこう。なにしろメンバー2人は多岐に渡り過ぎるほどの音楽活動を展開している。彼らからあらゆる音楽を聴き広めて(ディグって)欲しい、そんな願いも込めて。さて、最近でもNO AGEやWAVVESなどの登場で知られるが、昔から西海岸は良質なハードコアを生むアツい地域だ。RobとZachもそうしたシーンで90年代前半から活動しており、とりわけZachは、後のエモ~ポスト・ハードコアを示唆したDRIVE LIKE JEHUやここ日本でもファンが多いROCKET FROM THE CRYPTと並ぶほど人気を博したTHREE MILE PILOTで活動しており、サンディエゴ・シーンの活性化に多大な影響を与えている。一方、Robの活動経歴を新旧織り交ぜ紹介すると、多作なソロ名義から“早すぎたマス・ロック・バンド”のHEAVY VEGETABLE、男女ヴォーカルでUS版THE VASELINES?な趣きのTHINGY、インスト・バンドPHYSICSにZach Hill(!)とのデュオTHE LADIES、HOLY SMOKES、OPTIGANALLY YOURS、ALPHA MALES、FANTASY MISSION FORCE、OTHER MEN、DEVFITS……ああ! もうわけわかんねぇ! と机をひっくり返したくなるほど“多重人格”でエキセントリックな活動を誇る。そんな2人が手を組んだのは98年のこと。同年、デビュー・アルバム『This Is A Pinback』をリリース。その後も精力的なライヴ活動や多くのEPを発表しながら01年に2ndアルバム『Blue Screen Life』をリリース。この頃には世界中の早耳リスナーの間でも知られる存在になったようだが、本格的なブレイクはシカゴの名門老舗レーベルTOUCH&GOからリリースされた3rdアルバム『Summer In Abaddon』だろう。乾いたギター・サウンド、折り重なるコーラス・ワーク、静と動の起伏、その隙間の妙味……ジャズを経由するようなポスト・ロック・アプローチを繰り広げ、現在に続くPINBACK節を確立したと呼んで過言ではない見事な世界観を築き上げた。その世界観を多彩なリズム・セクションで広げたのは04年リリースの4thアルバム『Autumn Of The Seraphs』。図らずも当時TOUCH&GO休止の憂き目にあってしまうが(レーベルは今年復活!)、以降もZachはTHREE MILE PILOTの再結成やソロ・プロジェクトSYSTEMS OFFICERでのアルバム・リリース、Robもソロ名義やドゥーム・メタル・バンドGOBLIN COCKで活動するなど、それぞれの創作意欲に素直な活動を繰り広げてきた。

そうして届けられた待望の新作だ。多彩な活動形態ながら、やはりここでは2人だけの特別なケミストリーが宿っている。筆者は見逃してしまったのだが、今年5月にはサプライズ的な来日公演が行われた。PINBACK再始動のアピールがあったかは定かではないが、そこにはいつもと変わらず丹念に練りこまれたメロディを紡ぐ2人(天使たち)があったと伝えられる。今後も予測不能な展開が起こりそうだが、PINBACKとしての新作リリースという正式な復帰を嬉しく思う。それと初体験となるリスナーに重ねて言うが、ここから彼らのバック・グラウンドまでも堪能してもらいたい。TRISTEZA~THE ALBUM LEAF、THE LOCUST、GOGOGO AIRHEARTなど、90年代から続くサンディエゴ・シーンは一癖も二癖もある個性派揃いなので、きっと驚くべき体験が待っているだろう。

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