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Japanese

NO UK ROCK, NO LIFE?

2012年01月号掲載

NO UK ROCK, NO LIFE?

Writer 伊藤 洋輔

あけましておめでとうございます。本年もSkream!をよろしくお願い致します。
さて、新年1発目のMONTHLY FEATUREとなりますが、今号では“UKロック”にスポット・ライトをあてたいと思います。みなさんは憶えていますか? 昨年の今頃、あらゆる英メディアは“2011年、UKギター・ロックは復権するか?”というトピックを報じていました。
その年のブレイクするアーティストを占うBBCの名物企画Sound Of 2011に挙げられたTHE VACCINESを中心に取り上げたものですが、実際振り返ってみてどうでしたか? UKロックの復権とはやはり大きなムーヴメントを示すものであり、正直な結論から述べると、それは起きなかった、と筆者は感じています。あらゆるメディアが報じる2011年ベスト・アルバムのランキングではUKギター・バンド勢の影は薄く、セールス面というシビアな側面から伺ってもそうです。

しかしどうだろう、昨年はベテラン、新人ともに多彩で充実した内容のアルバム・リリースが目立った、とも感じています。なにしろBEADY EYE&Noel Gallagherの元OASIS組がそれぞれのカラーを打ち出したアルバムをリリースし、RADIOHEADとARCTIC MONKEYSは唐突にシーンに帰還した。COLDPLAYにKASABIAN、THE KOOKSにTHE VIEWなどは自身の王道を邁進し、THE HORRORSやWILD BEASTSは独自の美学に磨きをかけさらなる深化を遂げた。大胆な変化に挑んだのはKAISER CHIEFSだろうか。新人勢では上記のTHE VACCINES以外にも個性的なバンドが数多く登場した。サウンドからビッグ・マウスまでUKロックの系譜に乗ったVIVA BROTHER、匿名性でアンチ・メディアの姿勢をみせたWU LYF、ワーキング・クラスの叙情詩を謳うはFRANKIE&THE HEARTSTRINGS、流麗なメロディで疾走するフレッシュな魅力に溢れたAIRSHIPなど、例年になくそれぞれ個性的な新作が相次いだ。だから大きなムーヴメントとして捉えなくても、あなたの聴き方ひとつでそれはまるで90年代ブリット・ポップのような状況で楽しめたのだ。

英メディアはTHE BEATLESの終焉以降ずっとコンプレックスのように“英国産なるもの”に拘っている。それは時代の象徴とまでなったTHE BEATLES の大きなウネリの幻影に溺れているようなものかもしれない。“UKギター・ロックは復権するか?”と掲げるのも、昨今のUSインディの盛り上がりに対するカウンターを模索しているからだろう。
しかしネット以降の世代は、そんなメディアのハイプに躍らされるほど馬鹿じゃない。自分の聴き方でいかようにも楽しめる術を知っている。だからこそUKロックの大きなムーブメントはもう起きないかもしれないが、昨年の秋頃、世界中を駆け巡った衝撃的なニュースに、UKロック復権の気運はこの奇跡に結ばれるためだったのかと、半ば妄想的に捉えてしまう事件が起こってしまった。ご存知の通り、Ian Brown(Vo)、John Squire(Gt)、Mani(Ba)、Reni(Dr)のオリジナル・メンバーでのTHE STONE ROSES再結成である。これには諸手を挙げて祝福する者もいればSEX PISTOLS再結成のようにギャグとして否定的に捉える者も多いようで賛否両論を巻き起こしていたが、現在のUKロックの系譜を辿るとするならば、避けては通れない存在であることは間違いない彼ら。では、THE STONE ROSESとは一体なんだったのか?

00年代以降、“踊るロック”なるキャッチ・コピーをよく目にするようになった。不思議な言葉だ。踊れるロックなんて60年代から存在していた。しかしやや強引ではあるが、ある世代にとってこの言葉が意味するものはTHE STONE ROSESである。
デビュー・アルバム『The Stone Roses』で描いた、黄金期のブリティッシュ・ロックやブルースのギター・フレーズをレゲエやファンクのリズムに乗せた、サイケな酩酊感の強いグルーヴ。それこそ言わずと知れたロックとダンス・ミュージックの融合、“マッドチェスター”である。ロックに踊れる肉体性を宿した……とは表現するが、とにもかくにもこれは「Fools Gold」のロング・バージョンを聴いて頂ければすべて理解するだろう。
80年代後期から90年代初期の極短い期間ではあったが、マッドチェスター・ムーヴメントはエクスタシーとともに小さなクラブから徐々に英国全土をトリップさせ、大規模野外ギグが成功するまでに若者を熱狂の渦に巻き込んだ。他にも徹底したビッグ・マウスを貫く姿勢や、意に反してシングルをリリースした元所属レーベルに対するペンキ襲撃事件などの大胆なトピックもまた、彼らの何物にも囚われないスタンスとして人気を誘ったが、その自由過ぎるスタンスゆえに、レーベル移籍にともなう裁判が泥沼化していったのはこのムーヴメントが短期間で終息していった一因であろう。Reniの脱退からバンド内の歯車も狂い始め、Ian Brownの幼馴染でもあったJohn Squireの脱退からついには空中分解する。たった2枚のアルバムしか残せなかったものの、OASISを筆頭に後続のバンドに多大な影響を与えたTHE STONE ROSES。語られては消えていった再結成が今年ついに実現するわけですが、6月に地元マンチェスターで行なわれる再結成公演のチケット(3日間約22万人分)は早くも完売している。さらに嬉しいことに、今夏FUJI ROCKでの来日も決定したのだ。新作の噂もあり、今年は“セカンド・マッドチェスター”となるのだろうか。







さて、THE STONE ROSES以外での2012年UKロックの動向はどうだろう? まずは新人勢の注目株を挙げると、BBC Sound Of 2012のロング・リストにランク・インしたNeil Young meets COLDPLAYなDRY THE RIVERと、メランコリック・ポップを奏でるSPECTORがいる。他にもROUGH TRADEが激プッシュするHOWLER、ニュー・エキセントリックなGROSS MAGIC、妖艶でグラマラスな2 : 54(芸人さんじゃないよ)、早熟すぎる天才SSW、King Kruleなどは要チェックだ。新作が楽しみなのはSPIRITUALIZEDにTHE XXのある意味“宇宙的”な2組を挙げておこう。
そして、来日も豪華な顔触れが決定している。今月にはNoel Gallagher&KASABIANの師弟関係が奇しくも同時期に来日し、THE KOOKSもあり、これまで単独公演を発表してはなにかとトラブルが起きキャンセルしていたTHE VACCINES もやってくる。そして気になるのはあのRADIOHEADも今年中の来日が確実視されていること。フェス?単独?どのような形になるかまだ発表されていないが、これは固唾を飲んで見守りましょう。

こうして見ると、昨年ほどのリリース・ラッシュはないにせよ今年もUKロックは楽しませてくれる予感がしますね。では最後に、THE STONE ROSESが神格化するアーティスト像を否定し、レイヴの共同体意識のもとに発した名セリフをちょっぴりアレンジしてひとつ提言しましょう。“90年代も00年代もこれからも、音楽はオーディエンスの時代だ”――UKから発する電波をあなた好みでキャッチして、2012年を楽しもう!

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