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FEIST

2011年12月号掲載

FEIST

Writer 中里 友


前作『The Reminder』収録の「1234」がiPod nanoのCMソングとして使われ、一躍お茶の間に知れ渡り、メディアからも高い評価を得る一方、商業的にも大成功を収め、名実共にインディ・シーンの歌姫となったFEIST。聴き手に囁きかけるようでいながら、震える様に響き渡る声。そういった独特な歌声の表現を得意とするところに、Joni Mitchell、Kate BushやBjörkといったアーティストと名を連ねて挙げられることが多いが、近年では、James Blakeが同作から「Limit To Your Love」をカヴァーするなど、多くのミュージシャンからリスペクトを受けている。『The Reminder』の大成功から大規模な世界ツアーを経て、カナダはトロントのインディー・ロック・バンドBROKEN SOCIAL SCENEでの活動(昨年のFUJI ROCK FESTIVALでも来日したが、今年いっぱいで活動休止に入ってしまう)、WILCOのアルバムやBECKのプロジェクトへの客演を挟んで、実に4年ぶりとなった今作『Metals』は、前作と大きく印象を変えるものだった。

それでは、一体どの様に変化したのか? 前作で推し進めたアコースティックでJAZZANOVAを彷彿させる柔らかな佇まいから一変、『Metals』というタイトルに象徴されるように、荒涼でブルージーな味わいを持ったアルバムになった。前作で大きな成功を収めただけに、この新作への方向転換は潔いという他なく、今の彼女のアーティスティックな一面がそれだけで垣間見える。冒頭の「The Bad In Each Other」ではどんなに素敵な人でも粗悪な一面を持つのだと歌われるのだが、成功体験により煩わしい人間関係を経験した彼女の“愛”も“哀”も合わせ持つ歌声からは、そういったものも超越、解脱したかの様な趣を感じさせる。前作を踏襲したような曲調の楽曲「The Circle Married The Line」、「Get It Wrong, Get It Right」もあるが、それだけに前作との違いを如実に聴き比べることができる。単に掻き鳴らすだけでも、硬質で深遠な響きを残すギターは、爪痕を残すかのよう。前作同様チェンバー・ポップ系とはいえ、このアルバムには悲哀に満ちた激しさがある。「A Commotion」(=暴動の意)というタイトルからして切迫感に満ちた曲だけでなく、ハイライト的な「Graveyard」、「Undiscover First」、「Anti-Pioneer」といった曲など、よりバラエティを広げながら重いテーマに向かったのだと思わせる。

その背景として、前々作『Let It Die』から『The Reminder』と、ほぼコンスタントに続くツアー生活に疲れ果てた彼女は2009年に故郷のトロントに戻って、長い休養を得たということ。そして休養を経て、取り掛かった今作は長きに渡ってFEISTを支える盟友CHILLY GONZALES、MOCKYを再度バックアップに迎え(遡ると2001年のPEACHESと活動を共にしていた時期から)、気のおけないミュージシャンたちとカリフォルニア州の大自然溢れるビッグサー海岸の崖に面したスタジオでレコーディングされたということが大きいのだろう。本作の重要なテーマの一つとして、幼少の頃より彼女が抱いていたという自然への畏敬の念が表れている。それは緑が豊かで海と大地を挟んだビッグサーの土地に感化されたことは間違いない(多くの芸術家が集まることでも有名)。中でも「Caught A Long Wind」で聴けるような、Colin Stetsonのオーケストレーションでの仕事ぶりは絶妙。局所的に挿入されることで、歯切れのよいアクセントにもなり、情緒豊かな世界観を広げる役目を負っている。

前作に収録された「1234」に比肩するキャッチーな曲はないとはいえ、このアルバムには聴く者を揺さぶり、喚起させるものが前作以上に詰まっている。そういう意味では、FEISTはやはり信頼に足る素晴らしいアーティストなのだと思う。

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