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CULTS

2011年11月号掲載

CULTS

Writer 遠藤 孝行

米サンディエゴ出身、ニュー・ヨーク在住のBrian OblivionとMadeline Follinによる男女デュオ、CULTS。2010年、楽曲3曲をネットに上げたところ、様々なメディアやブログなどで取り上げられ、彗星の如く登場した彼ら。当時まだ正式にシングルをリリースしていなかったにも関わらず、NME誌に同年の“ベスト・ニュー・アクト”として選出された。そして今年、最もブレイクが予想されるアーティストとして注目を集めた彼らが、10月にとうとう待望のデビュー・アルバム『Cults』をリリース。本作はその期待に十二分応える傑作だ。

ネットに投稿された楽曲が注目を集め、正式デビューという流れは昨今珍しくない様に思われがちではあるが、これだけ情報や音楽が溢れる中で、ここまで辿り着けるアーティストはほんの一握り。CULTSはタイミングと運に恵まれたとも言えるかもしれないが、彼らのポテンシャルと努力がその扉をこじ開けたのだろう。無料音楽発信サイトbandcampに投稿された「Go Outside」等の楽曲は、バンドの情報がほぼないにも関わらず、あっという間に世界中の音楽ファンの話題になっていく。楽曲だけでCULTSはあらゆる人々の心を射抜いたのだ。特にクラシック・ポップを現代にアップデートさせたような「Go Outside」はとても力を持った魅力的な楽曲だ。

結成2年にも満たない彼らのプロフィールは謎に包まれていたが、次第に明らかになっていく。ヴォーカルであるMadelineは、WHIITE ZOMBIEに在籍していた叔父・Paul Kostabiの作品に当時8歳でヴォーカルとして参加し、レコード・デビューを果たした早熟派。ちなみにPaulは今作でプロダクションにも参加している。一方ギターのBrianは数々のバンドを渡り歩き、本格的に曲を作り始めたのはCULTSになってからだと言う。2人はNYの大学で知り合い意気投合。本人たちいわく“逃避”で始めたのがこのCULTSだと言う。

“逃避”という言葉は、CULTSというバンドを理解する上で重要なキーワードの1つだろう。WASHED OUTをはじめ、ドリーミーでサイケデリック、いわば現実逃避的な音が近年注目を集めてきたが、それはとても不安定な今の時代を象徴するムーブメントだと思う。CULTSも音楽的には違うがそれらのバンドと共通する美しさや憂いがある。彼らが描く世界感は不完全でありながら、だからこそ惹き付けられてしまうそんな魅力に溢れている。

この1stアルバムは60年代のガールズ・ポップやモータウン・ソウルを巧みに取り入れ、それを現代風にアレンジしたサウンドが軸になっているが、やはり一番心奪われるのはMadelineのキュートでアンニュイなヴォーカルとメロディだろう。聴く者を一瞬にしてノスタルジックな世界に連れて行ってしまう。その中に集団自殺などの事件を巻き起こしたカルト集団の指導者の演説をサンプリングしたり、アメリカの左翼過激派組織のメンバーの言葉を引用するなど、聴く者の不安をかき立てる。美しい世界感の裏にある数々の問題を、彼らは同時に表現しようとしているのだ。安易な逃避だけではない彼らなりのメッセージ。それがこのバンド最大のコンセプトなのではないだろうか。

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