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LIVE REPORT

Japanese

TK from 凛として時雨

Skream! マガジン 2024年07月号掲載

2024.06.07 @TOKYO DOME CITY HALL

Writer : 石角 友香 Photographer:岡田 貴之

4月に宮城仙台からスタートし、ファイナルの東京公演を含め9ヶ所を回る本格的な全国ツアーとなった今回。ソロ活動10周年を超えて、昨年から2ndチャプターに突入したTK from 凛として時雨の現時点での強みを包括的に展開するようなセットリストだったと思う。ツアー中に、話題のTVアニメ"僕のヒーローアカデミア"7期OPテーマであるシングル「誰我為」もリリース。ここ10年のアニメとTKのソリッドで複雑な音楽の親和性は単なるタイアップを超えて、ジャパン・カルチャーの新たな象徴と言えるブランドを確立した。また、ano&幾田りらやアイナ・ジ・エンドらへの楽曲提供も、"TK的"世界観の拡張を示唆している。と、同時にソングライター、プロデューサーとしてのTKの表現が敷衍(ふえん)するからこそ、ファンは彼の核心であるソロ公演をなおさら渇望するのかもしれない。

心地よい緊張に包まれるホール。ブルーのバックライトに照らされるステージにBOBO(Dr)、吉田一郎不可触世界(Ba)、須原 杏(Vn/Syn)、和久井沙良(Pf)が現れ、少し遅れてTKが喝采に迎えられる。"教えて 教えてよ"の歌い出しに沸くオーディエンス。1曲目から「unravel」といういきなりのクライマックスである。立て続けにTKのアルペジオと吉田のスラップがせめぎ合う「Fantastic Magic」を披露し、エンディングに向かって5人のサウンドが錐揉み状態。そこに巻き込まれるような擬似的な体感を得た。序盤からトップ・スピードに突入できるのはこのメンバーの阿吽の呼吸が成せる技だ。そして公開当時は驚きでしかなかった「NHK みんなのうた」への書き下ろし曲「クジャクジャノマアムアイア」のロックンロール的なストレートさとポップネスが新鮮な驚きを作り出す。子供視点の平易な言葉使いが思いのほかライヴでも聴き手を開放してくれる。続く「Abnormal trick」もインダストリアルなサウンド感でこそあるが、テンポやリフはポップ。最近のナンバーと初期のナンバーが違和感なく並置されるのも面白い。

自己紹介の挨拶を挟んで、次のタームはギターで作るアンビエント・サウンドがライヴ・アレンジならではの醍醐味を届ける「will-ill」。少しブルージーな味わいもある「Signal」、TKのエレキ弾き語りで始まる「copy light」と、比較的素直な歌メロに平易な歌詞が乗り、TKのヴォーカリストとしての曲への対峙がひしひしと受け取れる3曲が続いたのも緩急がついており見応え十分だった。特に「copy light」でのファルセットの安定感はハイトーン・シャウトとは逆の祈りのニュアンスだった。クリーン・トーンな曲が続くが、テンポは再び加速して「Dramatic Slow Motion」へ。EDMのビルドとドロップのカタルシスを生で体現するBOBOの安定したドラミングの屈強さに圧倒される。さらにサウンド・コンクレートのような序盤からカオティックにアンサンブルが高速回転に突入する「Fu re te Fu re ru」へと、同じ瞬間は二度とない。

暴風から抜け出たような束の間の瞬間を経て、ピアノもヴァイオリンもベースもすべてがパーカッシヴなリフを刻む「Addictive Dancer」でガラッと聴感が変化するのも面白い。TKのギリギリのラインを攻めていくギター・プレイやヒリヒリした世界観はもちろん、それだけじゃない物理的な音のせめぎ合いを体感する楽しみも彼らのライヴの側面だ。それはある意味、ボディ・ミュージック、延いてはダンス・ミュージック的でもある。

アコースティック・ギターに持ち替えたTKが鳴らすその響きは鋭く、音数の多いアンサンブルの中でもしっかり屹立していることにライヴ・アレンジの意味を感じる「haze」、グッと初期の曲でこれもまた繊細なギターのアルペジオが肝になっている「flower」への流れはキャリアを包括的に見渡せるセットリストの中でも聴く楽しさに満ちていた。TKのギターと吉田の高音弦のベースラインのせめぎ合いはサスペンスフルなほどなのだが、それも合奏の旨味たっぷりなのである。サスペンスフルと言えば、このピアノ・リフが鳴らされると自ずと心拍が上がってしまう「film A moment」。ソロ・キャリアの中で重要な位置を占める曲としてライヴ・アレンジも変化しながら生き残ってきた曲だ。BOBOのドラムと吉田のベースがどちらも叩きつけるようにバトルし、ブレイクした瞬間に耳に入ってくる"僕は時間になったみたいに"というTK独自の自我の捉え方、"時間を止めて"がトリガーになって曲の様相がどんどん変化していく奔流にもはや身を任すほかない。こんな体験は超絶に音のいい空間で観るSF大作か、フル・オーケストラに匹敵すると思う。

怒濤の本編を渡り切ってきたと言うのに"楽しいですか? 歌っちゃいますか?"と、あっけらかんとした調子で呼び掛けているように見えたTK。だがもちろんそんなことはなく、"僕は結構歌ったんで大変なんですけど(笑)、みなさんはまだ歌ってないと思うんで"と、ユーモアを込めたMCで本編ラストの「P.S. RED I」に突入。ヴァースのトーキング風ヴォーカルも冴えを見せ、ビルドされていくビートでサビで爆発、"Uh Uh Uh~"のスキャットをシンガロングするという開かれた展開に。すべての音量がマックスでエンディングを迎え、意気揚々とメンバーはステージをあとにし、残されたTKのテレキャスターがフィードバック・ノイズを発し続けていた。

アンコールでは待望の「誰我為」を披露。ヨーロッパ的なメロディ、和久井のコーラスも効果的で歌詞の世界に入り込みやすいアレンジであることが新鮮だった。MCでは"アジア・ツアーが決まりました。中国に行って参ります。時雨(凛として時雨)もイベント出演やツアーもあり、今年僕は......大変です"と他人事のように笑っていたが、非常に開かれたマインドを感じる瞬間だった。その勢いのまま、エクストリームなダンス・ミュージックとでも言うべき「first death」で余力を一切残さずフィニッシュ。目には見えない大きな装置が煙を上げているような凄まじい終わり方だった。

静謐と激しさ、冷たさと温かさといった二面性に加え、シュールさとポップさの同居も近年のTK from 凛として時雨の武器であることを痛感したツアー・ファイナル。今年後半の彼、そして時雨の動向にも注目したい。


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