Japanese
KALMA
Skream! マガジン 2023年04月号掲載
2023.03.04 @渋谷WWW X
Writer : 石角 友香 Photographer:西槇太一
青春映画を観ているような2時間45分だった。あらゆる音楽が出尽くした今でも、それが必然ならロックンロール・バンドは最高に輝く音楽形態でもあるという事実をKALMAは証明して見せたのだ。
ソールド・アウトで迎えたツアー・ファイナル。開演前から爆発寸前のムードが横溢している。もはやWWW Xのキャパシティでは追いつかない、ファンのいい意味での飢餓感があったのだと思う。1曲目はアルバム『NO BORDER』の中でも初期衝動を再認識させてくれた"対面すること"の意義を感じる「ポシビリティー」で、いきなり最高潮へ。立て続けに「くだらん夢」、畑山悠月(Vo/Gt)の"今日のことずっと妄想してました"のひと言からの「モーソー」、後先考えてないに違いないペースで突っ走り、「デイズ」はタイトルコールから演奏に入り、ラストのサビ前のブレイクのあとには大きなシンガロングが起こった。メンバーが指示するわけでもない、オーディエンスの自発的なリアクションが凄まじい。もっと言えば、ここにいる誰もがこのライヴを作っているという楽しさと自負に満ちあふれているのだ。シンプルなロックンロールだけが作ることのできる純度の高い空間が、間違いなく目の前で展開されている。思わず笑顔になる他ない展開の中に、斉藤陸斗のイーヴルなサウンドのベースが流れ、タイトなアンサンブルが冴える「ふたりの海」へ。メジャー・キーのリフを展開していた畑山が、Wilko Johnsonばりの鋭いソロを弾くことに軽く驚いてしまう。圧倒的にハイティーンが多い印象だが、例えば"フジロック(FUJI ROCK FESTIVAL)"の"RED MARQUEE"でも大いに盛り上がるんじゃないか? と妄想してしまった。
この日メジャー・デビュー3周年にあたることを畑山が告げ、"そんなヒット曲もないし、デカい会場でライヴもやってないし、同世代のバンドが売れてると悔しくもなるけど、今バンドやっててめちゃくちゃ楽しい"と、ツアーの手応えを話す。そこから今を綴り続ける意思を表明する「ペーパーバック」へ。そして"ルール内なら歌ってほしいから。歌詞わからなかったら「ルルル」でいいから"と言うと、「SORA」ではのっけから大合唱が起きた。自分の言葉と音が誰かの心を揺さぶり動かす、そんな奇跡が実際に起こってきたプロセスが見える流れだ。そして"超久々の曲をやります。今日のために持ってきました"と歌い始めた「僕たちの唄」が、バンドがツアーでオーディエンスに会いに来た歌のように聴こえる。そしてこの場所でそれは"Our Song"になるのだ。新作の中でも、展開するメロディに"このままでいいのかな"というリアルな心情が乗る「24/7」、ブリットポップのニュアンスが続く「わがまま」にもうまく接続されていく。"毎日ラーメン食べに行こうよ!"を斉藤が"毎日天丼食べに行こうよ!"、金田竜也(Dr/Cho)が"町田商店食べに行こうよ"に変えて歌っていたが、あとのMCでアドリブだと判明した。
ファンが聴き込んでくれていることがシンガロングでよくわかることが嬉しいと言う畑山だが、もはやKALMAの曲は聴き手にとっての"自分の歌"になっているように見える。それぐらいヴィヴィッドな反応なのだ。アッパーなブロックから温度を変えるギター・サウンドが鳴らされて、ミドル・テンポの「雪のまち」や「年上の、お前」で物語を感じさせ、時の流れが体感できるような今の恋愛や人間関係を思わせる「優しい嘘」へ繋いでいくセットリストが見事である。トドメはこの想いが永遠であってほしいという切実さが暴走する「恋人」。会場が揺れるほど高いテンションの中で泣ける。まさに青春期の恋愛感情がライヴで増幅されたのだった。
ギチギチのフロアに向かって、畑山が今日初めてKALMAのライヴに来た観客に"普段は何が好きなの?"と聞き、"マイヘア(My Hair is Bad)とか"という答えに"悔しい......(けど)嬉しいな"と正直な感想を述べ、「バンド」では回答してくれた男子の名前を織り込む。こんなの好きにならずにいられようか、という展開だ。さらに「逃げるなよ、少年!」のカウパンク調のファストなビートで畳み掛け、「隣」はタイトルコールで悲鳴が上がる。恋とか愛じゃなくて、秘密を共有できる関係を綴る歌詞はまさに今、ここの空間だと思った。楽しさが頂点に達して、ステージ上もフロアも自分の限界突破を記録するエネルギーが放出されているのだろう。畑山が"今日みんなの声がすごくて、自分の声が全然聴こえねぇわ。もっとデカい声で歌うわ"と、メンバー一丸となって「ねぇミスター」をもはや放出する感じだ。そしてファンに4カウントさせる「1分間の君が好き」は、この日、メジャー・デビュー3周年を迎えたということで、当初3分の予定だったが、フロアにマイクを渡すこと数回。何か抑えきれない楽しさが溢れてしまったのだろう。「1分間の君が好き」はMCやフロアとの会話も挟んで、なんだかんだ15分ぐらいやっていたんじゃないだろうか。この時点で2時間は超えていたように思うが全然ダレることはなかったのである。
最後のブロックの前に畑山が、どんなことも夢中になれなかった自分がギターを持って歌ったとき初めてしっくりきた、知らない人間同士がこんな時間と空間を作っている、こんな日は忘れたくない、と話す。だからこそ、"陸斗や竜也がやめたいと言ったらこのバンドはやめる"と言い切った。それぐらいこの3人でなければ成立しないのだ。単に曲振りに終わらないこのMCからの「めぐり」は、今日このライヴを共有してきた人なら全員に刺さったんじゃないだろうか。自分に言い聞かせることから、目の前にいる人を巻き込む凄まじい力を得た今への時間経過も感じる「これでいいんだ」、そして、初期衝動に経験を重ねたうえで変わらない気持ちを発することができる今を祝福するような「ボーダー」で本編を終了。2023年現在のKALMAは、バンドを始めた頃の闇雲なパワーを驚くべきことに今も燃やし続けていた。違うのは、バンドと受け取るオーディエンスの、パワーのやりとりがどんどん大きくなっていることだろう。2時間に収める予定の今回のワンマン・ライヴは各地で大幅に超過したらしいが、この日はアンコール含め、約2時間45分。余力を1ミリも残さずやり切ったバンドとオーディエンス両方に拍手を送りたい。
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