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LIVE REPORT

Japanese

snooty

Skream! マガジン 2021年09月号掲載

2021.07.05 @下北沢MOSAiC

Writer 稲垣 遥

snootyの東京初ライヴは、鮮烈な印象を残すものになったと思う。7月5日、福岡からやって来た3人は、下北沢MOSAiCで自身の3ヶ月連続シングルのリリースを記念したライヴを行った。それは非常に瑞々しくありながら、驚くほどの迫力を感じさせるものでもあり、何よりも"今できる最高のライヴをやる"というシンプルな想いがまっすぐに伝わるステージだった。

対バンにmicanythmとさめざめwithバナナとドーナッツという2組を迎えた本公演。まずは黒髪ロングヘアが印象的な、すらりとした女性ヴォーカル moni.をフロントに据えた4人組バンド、micanythmが現れると、力強いドラムから「echoes」でスタート。ソリッドでクールな幕開けだったが、そこから繋げた、コロナ禍でも生きることを頑張ろうという若者の想いを歌った「光」は、明るくポップなナンバーだった。そこにいい意味で大学生とは思えないほど深みのあるmoni.の歌声が乗ることで、軽快なだけではない意志の固さを窺わせる。さらに、メロウなラヴ・ソング「0:36」、爽やかでありながらアフター・ビートと3拍子を行き来するリズムの妙がフックとなる「真中」、moni.のナチュラルな英語詞が心地よいミドル・テンポ「100 miles」と続け、導入に壮大なSEを取り入れた「legitimacy」では、"世の中にとっての/都合の「いい子」にならないで"と、説得力のある声色だからこそより突き刺さる、ハッとさせられるような気高いメッセージを届けていった。

そして、さめざめwithバナナとドーナッツが登場。スーパーさったんがアコギをつま弾き、笛田サオリの濡れた声が歌い始めたのは最新曲「東京片想い物語」。"あなたの物語にまた出たいな/どんな役でもいい/脇役だっていい"と、うまくはいかなかったが消せない恋心を危うく描くフレーズはさめざめの真骨頂で、普段はしまっていたはずの心の奥の想いを刺激する。そのあとは存在感のあるベース・ラインから、抒情的な歌謡曲風味も魅力的な「洗脳B」、バンドでおそろいのハートのサングラスを掛け、見た目にもキャッチーに振り切った「あいまいみー」とテンションをぐっと上げると、"ドキドキドキドキ"という声に合わせた手拍子を促す笛田。ポップ・チューン「きみが死ぬとき思い出す女の子になりたい」だ。エスニックなムードだったり、ハードでバイオレンスなフレーズが挟まったり、ジェットコースターのような展開を切れ味良く聴かせる楽器隊と、それを歌いこなしながら、スライド・ホイッスル片手にコミカルにパフォーマンスする笛田の一体感がお見事。"snootyさんは初めての東京の夜ということで、最後まで優しく、熱く、そして気持ちいい夜にしましょう!"。笛田らしい言い回しで後輩へバトンを繋ぎ、去っていった。

観客もいっそう集まり、今か今かとメイン・アクトの登場を待つなか、THE BLUE HEARTSの「情熱の薔薇」をSEに、いよいよsnootyの3人が姿を現す。ひとりひとりオーディエンスに向かってお辞儀し、フィードバック音から「哀」を投下した。バンドの出音一発でこの夜に懸けた気合が透けて、初っ端からそのステージに見入らされた感覚。ひと段階大きいボリュームにも、"自分たちがやりたいライヴ空間はこういうものだ"というこだわりも見える。そして、ボーイッシュな黒髪ショートを乱しながらギターをかき鳴らし、1曲目でいきなり最後のサビを、マイクを通さずに地声で歌うフロント 深原ぽたにも惹きつけられたのだった。ヒリヒリした圧と焦燥感に胸の高鳴り、体温の上昇を抑えきれないでいると、深原は"よろしく!"とひと言だけ発し、さらに疾走する最新ナンバー「線香花火」へ突入。拳を上げたくなるようなストレートなロック・チューンが続くと、退廃的な空気も漂う「マイライフ」を鳴らす。緊張がほぐれてきたか、深原から笑みが確認できた。

"雨だったりコロナだったり、大変なときに観に来てくださって、力を貸してくださってありがとうございます"と深原。声色は落ち着いたトーンでありながらも、思っていた以上に集まったオーディエンスに感激している様子が窺える。そして、"みなさんに知ってもらうきっかけになった曲をやります"と、弾き語りの形から「会いたい」をゆっくりと始めた。愛する人にもう会えない寂しさと、でも、その寂しさは愛する人が確かにここにいたからこそのものであるという温かさの両方を表現するこの曲。音源以上に泣き出しそうになっていくヴォーカルを、絶妙な強弱と音色の変化で際立てる、ユトリミサ(Ba)としおり(Dr)のボトムの盤石さも含めて唸らされるばかりだった。同じミドル・テンポでも、対照的に深原の平熱の歌唱が、死が過ぎる差し迫ったギリギリの感情を表す「空白」では、要所要所で深原とハモるミサのコーラスが言葉のインパクトを強め、各曲の世界観を作り上げるために多彩なギミックが取り入れられているのがよくわかる。そこから連続リリース同様「世界が終わるまで」に繋いだが、この2曲の流れも、絶望の淵にいた主人公が生きる希望を持てるようになるストーリーを描くようで、実に美しいものだった。

深原が"ライヴをやりながら、これは当たり前じゃないんだなって思いました。またこうやって出会っていきたいなって。また会いましょうという約束の歌を歌って終わります"と言って鳴らしたのは「約束をしよう」という曲だった。"下手くそなギターで明日を変えたい"といった、おそらく彼女が音楽を始めたときの原点のような歌を、華奢な身体から最大ボリュームで発する深原はやや感極まっているようにも見えるが、それをかき消すようにさらに重なる3人の轟音アンサンブルがまた胸を熱くさせた。snootyのライヴを初めて観る人が多かったであろうフロアからもたくさんの手が上がり、互いのボルテージが最大値になったところで、バンドは最後の一音をジャーンと大音量で鳴らしてライヴを終えた。

歓声の代わりに沸き起こった大きな拍手がそのままアンコールへと変わっていき、再び3人をステージへ舞い戻らせる。その表情は――無事本編を終えられた安堵からであろう、ライヴ冒頭のクールさからはあまりにも打って変わって、嬉しさと照れくささが入り交じる笑顔で、思わずこちらもほころんでしまった。等身大の彼女たちが見えたところで本当の最後にsnootyが披露したのは、久しぶりに演奏するという東京の歌「吉祥寺とオレンジ」。初めてのアーケード街をわくわくしながら散歩するような、親しみやすさのある軽やかなナンバーでは、3人が顔を見合わせて何度も笑い合う場面があった。コロナ禍の昨年秋に配信で全国デビューをし、地元福岡以外へはYouTubeやストリーミング・サイトなどからリスナーに曲を届けていたsnootyにとって、遠くへ出向いてライヴをすること自体が新鮮なことだったと思う。ましてや自分たちを観に来る人たちの存在をその目で、身体で感じながらのステージだ。そこに対するドキドキと楽しさを眩しいくらいピュアに溢れ出させながら、音源より骨太で泥臭い音像と真に迫るパフォーマンスで観る者の心をガッチリ掴んだ、バンドにとって大きな第一歩と言える夜だった。

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