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LIVE REPORT

Japanese

Ivy to Fraudulent Game

2019.07.24 @恵比寿ザ・ガーデンホール

Writer 秦 理絵

"完全が無い"。9月4日にリリースされるニュー・アルバムのタイトルを掲げたIvy to Fraudulent Gameのコンセプト・ライヴが東京と大阪で行われた。以下のテキストは、その初日、恵比寿ザ・ガーデンホールの模様をお届けする。このライヴの中で、寺口宣明(Gt/Vo)は"コンセプトの説明はしません"と言っていた。だが、説明などいらないライヴだったと思う。高校時代に結成され、今年で10年目を迎えるアイビー(Ivy to Fraudulent Game)の歴史を丁寧に辿った今回のライヴは、彼らの変遷と多様性、あるいは変わらない本質を強く浮き彫りにしていた。それは、リリースを目前に控えた最新アルバム『完全が無い』を前に、バンドの"これまで"も知ってほしいというバンドの願いが託された意義深いライヴだったと思う。

静謐なナンバー「+」からライヴは始まった。大島知起が奏でる繊細なギター、福島由也(Dr)が叩き出す不規則なリズムと、その根底をしっかりと支えるカワイリョウタロウのベース。寺口が紡ぐ柔らかなメロディが残酷に回る日々を美しく描き出していく。"周りの顔を気にしないで、一緒に楽しんでください"。寺口のひと言を挟んで、ステージの光が激しく明滅すると、「error」や「trot」という攻撃的なアップ・ナンバーが穏やかな空気を切り裂き、フロアの熱狂を加速させた。曲の合間には、"聞こえてますか?"、"届いているかい?"と何度も確認するように問い掛ける寺口。その言葉には、アイビーのライヴが決して一方通行であってはいけないという強い想いが滲む。カワイのベースが唸りを上げた「青写真」では、"俺たちが一番かっこいいに決まってんだろ!"と不敵な言葉を投げ掛け、燃えるような憎悪を叩きつけた「アイドル」へ。序盤で披露されたのは、バンドの黎明期からライヴで披露し続けている初期衝動が色濃い楽曲たちだ。

波の音が響き渡り、浮遊感を漂わせた「she see sea」から会場の雰囲気が変わった。ここからは全国流通盤『行間にて』以降の楽曲になる。衝動と緻密なバンド・アンサンブルが美しく溶け合い、よりメロディの強度が増してく時期だ。中でも、オレンジ色の光がステージを照らし、"大切なもの"への想いを馳せた「故郷」は鮮烈だった。生まれる場所も親も選べずに産まれ落ちる私たちでも、大切な人と出会えた一点において、今を肯定できる。まるで自分に言い聞かせるように繰り返される"これで良かったんだ"というフレーズに、Ivy to Fraudulent Gameというバンドが、なぜ音楽を奏でるのかという理由を強く突きつけられる。カワイが奏でたシンセの音色が愛らしくメロディに寄り添った「可憐な花」、冷ややかな劣等感がやがて強靭なバンド・サウンドへと突き抜けていく「夢想家」、そして真っ赤な照明の光を浴びながら寺口がマイク・スタンドをなぎ倒して絶唱した「E.G.B.A.」へ。時に荒々しく、時に儚く、激しく乱高下を繰り返す感情の起伏を、丁寧な言葉と演奏で紡ぐ楽曲は、まさに"完全"とは程遠い人間の姿を描いていた。

"ちょっと休憩(笑)。バカみたいに楽しい、ありがとう"。歌っているときはフロントマンとしての絶対的な存在感を放ちながら、演奏が止まった瞬間には25歳の青年らしい無邪気さを覗かせる寺口。"起こせるかい? 革命を!"という言葉を合図に繋いだのはメジャー・デビュー・アルバム『回転する』のリード曲「革命」だった。不安と音楽を火種にして生きてゆくと、解放的なバンド・サウンドの中で歌い上げる楽曲には、デビュー時期のバンドの決意が刻まれている。穏やかな日曜の午後を思わせる陽性のポップ・ナンバー「sunday afternoon」を挟み、"愛してくれ、この音楽を"と叫び、バンドにとって大切なナンバー「Memento Mori」へ。"死を想えばこそ、今を懸命に生きたい"。インディーズ時代からアイビーの楽曲の根底にある想いを力強く表明したその楽曲に賛同するように、フロアから一斉に手が上がると、寺口は"最高に幸せだよ!"と、あらん限りの力で伝えた。

最新シングル「模様」を披露する前に、"ある日突然、なんで言葉なんて持っているんだろう? と思いました"と切り出した寺口。"人間はなんて滑稽な生き物だろうと思います。でも、思っていることが(言葉で)伝わったとき、他の生き物にはわからない喜びがあると思ってます"と語り掛けると、それを音楽へと託した渾身のバラード「模様」へ繋いだ。アコースティック・ギターと共に歌い出し、次第に重なるバンド・サウンドにのせて、傷を負い、逆境に耐えながら生きることで、人間にも模様が作られていくという生々しい思い。その曲には、これまで多くの楽曲の作詞作曲をドラムの福島が手掛けてきたアイビーに、ヴォーカリストである寺口が手掛ける楽曲が加わったことで伝えられる強い説得力があった。

終盤、スクリーンに映像が流れた。胎盤、消費社会、雄大な自然、心電図の音、宇宙空間、そんな森羅万象を映し出し、ここからは9月4日にリリースされるアルバム『完全が無い』の楽曲がどこよりも早く披露された。重々しく歪んだ「真理の火」から、光と闇が交錯するような「無色の声帯」(歌詞は聞き取れなかったが、"完全が無い"の大阪編では、寺口が"自分の声は色がなくて好きじゃない"と言っていた。タイトルから察すると、その想いが表れた曲だろうか)。さらに、疾走感溢れる「blue blue blue」へ。どれも初聴きだったが、とても素晴らしい曲だった。ラスト1曲を残して、寺口が"音楽だけはどんな時代になろうと、大切に抱きしめて生きていきたいと思います"と宣言すると、ラスト・ナンバーは『完全が無い』でも最後に収録される「賀歌」。大島がエレキをバイオリンの弓で弾く厳かな低音の中で、次第に祝祭へと向かうナンバーは、とりわけ「Memento Mori」以降でアイビーが表現してきた生と死の逡巡が、ひとつの答えに帰結する美しいフィナーレだった。

アンコールでは、本編のプレッシャーから解放されたような清々しい表情で、カワイと寺口が缶ビールを手にして登場すると、"アルバム、楽しみでしょ?"と問い掛ける。そして、『完全が無い』の中から爽快なサマー・チューン「Oh, My Graph」を届け、最後は「劣等」で終演。ライヴを終えて、このコンセプト・ライヴとニュー・アルバムに"完全が無い"というタイトルを付けた意味が少しわかった気がした。これまでのアイビーは変化の連続だった。それと同じように、きっとこれまでも変化してゆく。だから、"完全が無い"。と同時に、今作には完全ではない自分という人間を愛したいという思いもあるのではないだろうか。今は、そんなことに思いを馳せながら、『完全が無い』のリリースを待ちたいと思う。



[setlist]
1. +
2. error
3. trot
4. 青写真
5. アイドル
6. she see sea
7. 故郷
8. 可憐な花
9. 夢想家
10. E.G.B.A.
11. 革命
12. sunday afternoon
13. Memento Mori
14. 模様
15. 真理の火(映像)
16. 無色の声帯(映像)
17. blue blue blue
18. 賀歌(映像)
En1. Oh, My Graph
En2. 劣等

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