Japanese
コンテンポラリーな生活
Skream! マガジン 2015年01月号掲載
2014.12.11 @渋谷WWW
Writer 石角 友香
流行りのロックなんかやりたくないという気持ちと、純粋に90年代オルタナが好きな気持ち。これまで自分をコケにしてきたヤツを見返したい気持ちと、目の前で自分の鳴らす音楽を楽しむ人への感謝の気持ち。コンポラのフロントマン朝日 廉(Gt/Vo)のアンビバレンツは簡単に言えば"ややこしいヤツ"ということになるのだが、そのややこしさも高い純度で炸裂させれば自ずと高いエネルギーを発生させることができる、そんなことをこの日目撃した。
1stフル・アルバム『ヘドが出る前に』を携えた初の東名阪ワンマン・ツアーの東京公演である渋谷WWW。コンポラのお客さんはどこかコンポラのメンバーに似ている。THE PIXIESやTHE CUREなど90sのオルタナティヴ・ロックが流れる中、メンバーが登場しドラムの酒井 俊介の元に集まり拳を合わせ、気合を入れると朝日の強烈なフィードバック・ノイズと"東京ワンマン行くぞー!"の絶叫とともにアルバム同様「アンハッピー少年少女」でスタート。立て続けに「嫌々々々」と、WWWのスペースを越えてあらゆるものへ逆襲するような熱量をぶっ放つ。特に「嫌々々々」のハードコアにリズム・チェンジする中間部の凄まじさに早くもフロアはピークを迎える。そして狂騒の中にも朝日のリズム・ギタリストとしてのセンスの良さや藤田 彩(Ba/Cho)のスキルフルなライン、酒井のパワー・ヒッターぶりに3ピース・バンドのシンプルなかっこよさ、朝日のみならず3人で曲を"歌う"ようなグルーヴを目撃。コンポラのかっこよさは音源よりやはりライヴで確認できる。
酒井がリズム・キープする中チューニングし、ライヴ・シームレスに展開する。アルバムではシュールな印象もあった「さかな暮らし」をポップに聴かせ、トーキング・スタイルなヴォーカルでも朝日の引き出しの多さを実感。中盤にようやくMCらしいMCをする朝日。しかしその内容はマネージャーが編集してくれた90sオルタナの開演BGMにテンションが上がったという件。"コンポラ好きやったら、好きやと思う。朝日さんこれ聴いて育ってきたんやって分かると思うから、みんなも音楽好きになろうぜ!"と、超前向き発言に歓声が起こる。そんな発言のあとに"新曲やりまーす!"と披露された「ハスキーガール」がWEEZER直系のギター・ロックに聴こえたのは私だけではあるまい。そして朝日のブルージィさも含むリフやフレージングで、原曲から今のモードへ更新された「ポップソングと23歳」に驚きながら、コンポラがどんどんタフなバンドになっていくプロセスに今まさに立ち会っていることを実感する。シンガロングが起こった「死なない声を探す」と、当初からのファンには馴染みのナンバーが続いた後は、インタビューでは"OASISっぽい"と朝日、個人的にはくるりの「東京」を想起させる、淡々とした地メロからサビに向かってじわじわ感情に熱を帯びていく「ハッピーライン」。ファンの集中力も同調して増していくのが分かる。"僕の工場では ラインが動いてない"と繰り返されるコーラスに漂う虚無感と相反するエモーショナルなニュアンス。コミュニケーションが成立しない日常とイメージが重なりもするが、それすらも音楽として感情を揺さぶる3人の剛腕っぷりを再確認した演奏だった。
水を打ったように静まり返ったフロアに"東京ワンマンといえば絶対やらなあかん曲があるんですよ"と前振りして、イントロからファンが"東京殺法!"と声を合わせると、人力テクノ・ポップな同曲、そして新作から踊れる「PIXEL MONSTER」と矢継ぎ早にアッパー・チューンを投下。曲間の長いブレイク&リスタートも見事に決まった「品川メモリーズ」、朝日のロックンロール&ブルース・ギタリストばりのワイルドさが加速する「憎しみのブギ」と、もはや怒りも、今ここで発生している喜びも何もかも推進力として加速していく演奏。髪を気にしたり、それなのにおそろしくギチギチにギターのネックを握りしめ、音を絞り上げ、歌う朝日廉のまとまらない挙動のひとつひとつもすごくリアルだ。そういう意味でもコンポラの楽曲はライヴでさらに曲のキャラクターを増すように思う。
あっという間に1時間半が経過。大ラスにアルバム・タイトルでもあり、タイトル曲でもあり、今のコンポラの居場所を示す言葉を朝日が発した。"この曲の歌詞ができたのは、最後の最後でした。僕の言えなかったこと、聞いてほしかったことが詰まってる曲です"と、歌い始めた「ヘドが出る前に」。"悲しいことも 要らない嘘も 死にたい明日も 嫌いな人も 全部が今も 僕のすべてを 作るのならば"――メッセージ・ソングとしてのフォークに近いこの歌い出しがやけに刺さる。後半ではオフ・マイクでファンのシンガロングを聴きながら歌う朝日。これは大きな存在になる歌だ、と思っていると朝日と酒井がポジション・チェンジし、酒井は朝日のギターを抱えたままゆるりと背面ダイブし、挙句ギターをフロアに打ち捨てエンディングという、ちょっとしたカオスを醸成して本編終了。泣き笑いのピークを迎えて、アンコールの声が大きくなる中、再登場したメンバー。"(酒井が)人のギターつぶしたらしいで。弁償、弁償!"と笑いを誘う朝日。久々に他人のギターでアンコールをすると、少し戸惑いと嬉しさ半分な表情でインスト・バンド的な構造と巧みさもある「ひとえの少女」を披露。それでも誰も立ち去らない中、ダブル・アンコール。"みんな元気やん。この景色をみんなに見せたい"と朝日が言えば、フロアからは"こっちも見せたい"と声が上がり歓声と拍手が起こる。この対等な共犯関係こそがコンポラらしさなのだろう。ラストはバンド名を冠したナンバーを図太いロックンロールとして堂々と鳴らし、初の東名阪ワンマン・ツアーというひとつの通過点を締めくくって見せた。
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