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LIVE REPORT

Japanese

ジョゼ

Skream! マガジン 2013年12月号掲載

2013.11.19 @下北沢SHELTER

Writer 天野 史彬

先日2ndミニ・アルバム『Nocturne』をリリースした3ピース・バンド、ジョゼによる企画"小声で云うハロー vol.3"が下北沢SHELTERにて行われた。ジョゼ以外に出演したバンドはdry as dust、或るミイ、Suck a Stew Dryの3バンド。それぞれがジョゼとは結成以来のつき合いであったり、またはプライベートでの関係があったりと密な繋がりがあったようだが、会場内にはそんなバンドたちが集まったことによる親密さがありながらも、それぞれのバンドが確固とした世界観を確立しているが故のヒリヒリとした空気感、それと同時にバンド同士が共鳴していることがわかるカタルシスを感じさせる、とても刺激的な空気が流れていた。

まずトップバッターとして登場したのはdry as dust。今回の企画に登場した4バンドにはすべて、根本にハードコアの素養を感じるのだが、dry as dustは最も硬派にそれが出ているバンドだ。どっしりと刻まれるビートの上をノイジーでアグレッシヴなギターがうねるストロング・スタイルのバンド・サウンドで、繊細で叙情的なメロディと、ヴォーカルをとる松永晴貴の歌声に宿った真っ直ぐさが何より魅力的だ。彼らの音楽は、どこか日常の倦怠感や疲労感、憂鬱――そういった人の営みに纏わりつくどこか鬱屈とした感情を根底に感じさせながらも、それでも確かな1歩1歩を踏みしめて歩き出すような、そんな清々しさと力強さがある。この日も、その人の感情の奥底から引きずり出してきたかのようなディープかつアッパーな演奏で、初っ端から会場の熱量を上げていた。

続いて登場したのは或るミイ。ジョゼの初ライヴの時に競演してからのつき合いだという彼らのサウンドは、この日の4組中最も雑食性に富んだポップネスを持っていた。爆発的な狂騒を見せるトライバルなダンス・ビート、キラキラとしてキャッチーなメロディを奏でるシンセ、時にノイズを掻き鳴らし、時に見事なカッティングでグルーヴを生み出すギター......或るミイの音楽からは、MGMTやVAMPIRE WEEKEND以降のUSインディーからの影響を感じさせつつ、ただそれをこじんまりとまとめてしまうことを許さない無邪気さをヒシヒシと感じた。ステージ上の彼らからは、とにかく自分たちが楽しみ、そしてオーディエンスを楽しませることに全神経を集中させているかのような凄まじい熱量が放たれていく。あと彼らは、メンバーの佇まいが最高。それぞれが4者4様のファッション性を持っていて、そんな4人がぶつかり合うことで生まれるケミストリーは、その雑食性の高い音楽性にも見事に表れているように思えた。

続いてのSuck a Stew Dryは、メンバーが登場した途端に会場の空気が変わるほどの独特なオーラを放ち、オーディエンスを引き込んでいく。このバンドの楽曲は極めて端正なポップネスを持っているし、シノヤマコウセイの無垢な子供のように透明感のあるヴォーカルと凛とした佇まいなど、表面的な部分では非常に整合性の取れた音楽に思えるのだが、そこに乗せて歌われる歌詞世界はかなり歪。そこには自己嫌悪、怒り、虚無......そういった不穏な感情が渦巻いている。彼らの音楽は、"人間は迷いながら生きる愚かな存在なのだ"ということを、その流麗な音楽に乗せて迷いなくきっぱりと言い切ってしまうというアンビバレンスによって成り立っているのだ。私たちが普段ひた隠しにしてしまう、人間と社会に根付く根源的な問題を、Suck a Stew Dryはあまりに美しいやり方で白日のもとに晒す。この日はEP『世界に一人ぼっち』のフラゲ日だったのだが、実際に演奏された「世界に一人ぼっち」や「カラフル」は、彼らの狂気的な部分を一層の洗練を持って見せていたように思う。見事に貫禄のあるステージングだった。

そして最後はジョゼの登場。ミニ・アルバム『Nocturne』と同じく「湖とノクターン」からライヴはスタートした。重く、煌びやかな音像によって一気に会場を自分たちの色に染め上げていく。未だ結成3年目ながら、音の力だけでここまで会場のムードを作り上げることができるのかといきなり舌を巻いた。続いて「地下鉄」で艶やかなメロディと疾走感のある演奏で空間の熱を上げていき、1stミニ・アルバム『Aquarium』から「ドラマチック・シンドローム」も披露。『Nocturne』リリース時のインタヴューにおいて、"『Aquarium』に昼のイメージがあったから、『Nocturne』は夜をコンセプトに作った"という旨の話をメンバーがしていたが、ライヴの現場ではそれぞれの作品からの楽曲が並んで演奏されることで、音源とはまた一味違った世界観を作り出していく。彼らの楽曲には、現実の日常風景を切り取りながらも、それが突如として幻想と繋がっていくような不思議な感覚があるが、ライヴの現場でもその感覚を味わうことができた。そして、彼らは音源においてはかなり練り込んだサウンド作りをしているが、その根本にはやはり美しいソングライティングがある。特に『Nocturne』は音の構築性の高い作品だったが、前述した楽曲のほかにも演奏された「(ex.)傍観者」や「獣」といった『Nocturne』収録曲は、3ピースのプリミティヴなスタイルで再現されることで曲の本質的な美しさを一層露にしていたように思う。この日は、本編最後に「swimming in the universe」を、そしてアンコールで「海月のダイバー」と「溺れる」の2曲を演奏して終了。筆者は彼らのライヴをはじめて観たのだが、ライヴ・バンドとしての屈強さ、ポテンシャルの高さを実感したし、今後そこに『Nocturne』の音源で見せたような深度とスケール感をより加えていくことができれば、さらにたくさんの人々をジョゼの世界に引き込むことができるだろう。そんな可能性を感じさせるいいライヴだった。ここからジョゼはリリース・ツアーである"湖がぶ飲みツアー2013"へと出発していく。来年1月のShibuya O-Crestワンマンでどれだけスケールの大きなライヴを見せてくれるのか、楽しみだ。

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