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LIVE REPORT

Overseas

THE VACCINES

2012.02.15 @恵比寿LIQUID ROOM

Writer 山口 智男

それが良かったなんて言うつもりはない。しかし、2度にわたる来日公演の延期というハプニングは、昨年のFUJI ROCK FESTIVALにおける熱演と共にファンの期待と渇望をとことん煽る結果になったという意味で、当初の予定から10ヶ月を経て、ついに実現した単独来日公演を、より多くの人の記憶に残るスペシャルなものにしたと言えるかもしれない。最初の予定よりもはるかにスケール・アップした会場(と、その会場がいっぱいになったという事実)は、ある意味、この10ヶ月の間にバンドが成し遂げた飛躍を物語っていたと言ってもいい。
ロンドンの4人組、THE VACCINES。Jay Jay Pistolet名義でシンガー・ソング・ライターとしてすでに活動経験があったJustin Youngと(Vo&Gt)Freddie Cowan(Gt)が結成した。その後、Arni Arnason(Ba)とPete Robertson(Dr)が加わり、2010年6月に現在のラインナップになった彼らはライヴを通して、めきめきと頭角を現してきた。2011年3月にリリースしたデビュー・アルバム『What Did You Expect From The Vaccines?』は全英チャートで初登場4位を記録。その後、プラチナ・アルバムに認められる大ヒット作になり、THE VACCINESはにわかに近年、低迷していたと言われるUKギター・ロックの救世主と謳われはじめた。
そんな彼らの単独来日公演。すでに書いたように多くのファンが待ち焦がれていたに違いない。ゲストのHOWLERが荒削りながらも疾走感溢れるライヴを繰り広げた後、RAMONESの「Do You Wanna Remember Rock ‘N’ Roll Radio?」が流れる中、この日の主人公、THE VACCINESがステージに現れ、「Blow It Up」を演奏しはじめた。タイトルをリフレインするサビが印象に残るミッド・テンポの演奏で、じわじわと満員の客席を盛り上げると、そこから一転、デビュー・アルバムのトップを飾る高速サーフ・パンク・ナンバーの「Wreckin’ Bar (Ra Ra Ra)」を、暴れ出したくてうずうずしている客席に投下。すると、興奮の渦が一気に会場全体に広がっていき、バンドが求める前に手拍子湧き起こった。
その後もバンドは威勢のいいサーフ・パンクからロマンチックなバラードまで、シンプルと言うよりも無駄をとことん省いているという意味でコンパクトという言葉が相応しいレパートリーをテンポ良く繋げていった。曲によってはギターを持たず、マイク片手に熱唱した熱血漢のJustin、たびたび立ち上がって客席にアピールしていた陽気なPete。そしてクールなサオ隊のFreddieとArni。4人の熱演とファンの想いが溶け合い、作り出していた幸福感でいっぱいの熱狂がとても印象的だった。
THE STROKESのAlbert Hammond Jr.とコラボレーションした「Tiger Blood」に「No Hope」。彼らは新曲も2曲披露。Freddieは「Wetsuit」でキーボードも演奏した。
UKギター・ロックの救世主と言うからには、彼らの存在を特徴づけているFreddieのギターの音量がもうちょっと大きくても良かったようにも感じたけれど、彼らの楽曲が持っているポップ・ソングとしての魅力を最大限に伝えることを配慮した結果と考えれば、それが正解だったに違いない。思えば、僕が彼らのデビュー・アルバムに惹かれた理由も白昼夢の世界を作り出すギター・サウンドもさることながら、どこかノスタルジックなメロディを持った楽曲そのものの素晴らしさだった。それはライヴからもしっかりと伝わってきた。改めて、いい曲を作るバンドだと実感。その点、今回のライヴではアルバムとはちょっと違うバンドの姿を楽しむことができたと言ってもいいかもしれない。
この日のライヴのハイライトだった終盤の「If You Wanna」ではエキサイトし過ぎたFreddieが転倒するというハプニングもあった。しかし、そんなことも含め、バンドは演奏を楽しんでいたようだ。アンコールを求められ、ダメ押しにポップ・パンク/パワー・ポップ・ナンバーの「Norgaard」を演奏した彼らは“SUMMER SONICで会おう!”と言い残して(!!)去っていった。

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