Japanese
GOING UNDER GROUND
2010.12.19 @渋谷C.C.Lemonホール
Writer 道明 利友
愛と笑いの夜――。このフレーズでピンと来る方は、1990年代から始まった日本語ロックの新たなシーンに、少なからぬ思い入れを持っている方だろう。
素生「サニーデイは、雑誌で唯一切抜きしていたアーティストだね。とにかく憧れてて……。俺めちゃくちゃクセ毛なんだけど、サニーデイみたいになりたいなと思って、一時期(髪を)伸ばして天パーがヒドいことに……(笑)」
昨年に続いて開催する年末ライブの幕を開ける開会の挨拶を、そんな微笑ましいエピソードとともに飾ったのはGOING UNDER GROUNDの松本素生。若者の日常生活をその多くの物語の舞台とし、素朴でありながら詩的な歌詞と美しいメロディーで、同時代をともに生きるリスナーから熱い共感を集めたサニーデイ・サービス。そう、『愛と笑いの夜』は、サニーデイが1997年にリリースした名作のタイトルだ。そして、ゴーイングはもちろんのこと、彼らの世界観に多大な影響を受けて自らの音楽人生をスタートさせたミュージシャンが数多く登場し、その後の日本のバンドシーンの一端が作られたというのもおそらく言い過ぎではないだろう。そんな敬愛する先輩であるサニーデイ・サービスをゲストに招き、彼らのいつまでも色あせない名曲と、約10年ぶりにリリースした新作『本日は晴天なり』からの楽曲で、万雷の歓声に包まれた渋谷C.C..Lemonホール。そして、その名演に胸を熱くしていたに違いないGOING UNDER GROUNDもまた、サニーデイからもらった感動を今度は自らの手で生み出そうと言わんばかりの素晴らしいライブを見せてくれた。
“愛と笑いの夜”と題したイベントの“笑い”担当、サニーデイ&ゴーイング双方ともに縁が深いお笑いコンビ・エレキコミックが“笑い”でたっぷり暖めたステージにダッシュで駆け込んできたのは、ギターの中澤寛規。くしくもこの日が誕生日だったナカザだけに、気合の入りようはハンパじゃない(笑)。“ロックスター”よろしく、全身を使ってハデにアピールしたかと思えば拳を上げてファンをアオり、大きな手拍子が巻き起こる。そこへマーチング・ドラムのように勇壮なビートが重なったオープニングナンバーは、「ハートビート」。メンバーとファン、その場にいる者全員がひとつになって奏でるビートが、大きな大きな一体感となって広がっていく。そして……。
<この道ずっと行けば,あの街に続いてる気がする,Country Road――>
ジョン・デンヴァーの名曲「カントリー・ロード」のメロディーと、ゴーイングの感性が見事に融合した「かよわきエナジー」。その響きはまるで、サニーデイのメロディーからも感じる叙情性に、まさに熱き“エナジー”を加えたかのよう。彼らがかつてシングルとしてリリースした「センチメント・エキスプレス」じゃないけれど、胸を甘酸っぱいムードで包む情緒――センチメントを香わせながら、雄々しく、そして力強く奏でる純粋無垢な音色は、まさしくゴーイングの世界観以外の何物でもない。
そして、この良き日に華を添えるゲストがゴーイングのステージに加わった。まずは、ゴーイング同様のサニーデイへの敬愛で繋がっている、メレンゲのクボケンジ。この曲をゴーイングのメンバーが聴いて交流が始まったという、ゴーイングとメレンゲの出会いのきっかけを作った「チーコ」が、この日はクボを加えた6人編成で新たな形に生まれ変わった。スピード感豊かに、それでいて、情感も豊かに……。その感覚もまた、彼らがゴーイングから受けついたもののひとつだろう。
素生「メレンゲの曲をやってると、他人(ひと)の曲をやってるような気が全然しないっていうか。なんか、下地に流れてるものが一緒だよね。なんとなく、ナイーブなところにひかれるようなときもあったりして」
ゴーイングとメレンゲの下地に、共通に流れているもの。そして、サニーデイの音楽の下地にも流れているもの――。それはまさに素生が言った、“ナイーブさ”。誰かのことを想うとき、恋をしたとき、一人で孤独に包まれているとき、etc……。日常生活の中の様々なシーンで様々に揺れ動く感情を、彼らの楽曲は描く。ときに内気で、感情を表に表すことが苦手な一面を持つ“ナイーブ”な人間の心を、それはきっと強く打っているに違いない。その感覚をまさに物語っていたようなナンバーが、サニーデイのカバー「時計をとめて夜待てば」だ。素生とクボのハーモニーで歌い上げたメロディーの質感は、まるで、触れたら壊れそうなガラス細工のよう。ナイーブな心象風景を描く詩世界と音色がひとつになって、ゆっくりと、心の奥まで染みるように広がっていく――。
「“ロックンロール”でメシを食っている男、サンボマスター・山口隆です。よろしくお願いします!」
ゴーイングとメレンゲが満たした“ナイーブ”な空気を、登場するなり早口でまくしたてて良い意味でぶち壊してくれたもうひとりのゲストは(笑)、サンボマスター・山口隆。サニーデイ、そしてゴーイング&メレンゲとスタイルは違えど、“ナイーブさ”をその下地に持っていることはサンボマスターも共通。その証拠に、サニーデイのカバー「白い恋人」で奏でた感情表現豊かなボーカルは、楽曲の主人公の心の動きを一つひとつ繊細に描き上げていた。たまらなく胸に響く、めちゃくちゃソウルで、めちゃくちゃスウィートな歌声は、やっぱりこの人だけにしか表現できない逸品だ。
「ちょっと、この……。僕は渋谷のこの“オシャレ空気”がちょっとだけ苦手なんです! 皆さんも、本当に、こんなこと言うのも失礼ですけど、一枚化けの皮はがせばたいして変わらないと思うんですよね! だから僕は、“愛と笑いの夜”にこうやって“ロックンロールの歌声”がおこればいいと思ってるわけなんです!」
サニーデイへの敬愛を、サンボマスター流の“ロックンロール”で表したのは「歌声よおこれ」。ゴーイングの力強い演奏を背に、叫ぶようにして奏でる山口の歌声。そこへ重なる、オーディエンスの歌声。音楽という共通項で結ばれた人間たちが巻き起こしたエネルギーは、これ以上ないほどエネルギッシュ! さらには、ゴーイングのカヴァー「LISTEN TO THE STEREO!!」で山口は客席になだれ込む(笑)。ゴーイングのメンバーもみな爽快な笑顔を浮かべてさらなる大合唱を会場から誘い、会場は拍手喝采の渦!
中盤にしてメインイベント級の見せ場が続出したライブは、名場面がさらに続く。今度は、ゴーイングのメンバーは待ちに待った瞬間に違いない、サニーデイ・曽我部恵一とのセッションだ。サニーデイのライブの最後に観たのは、00年リリースの『LOVE ALBUM』のときのツアーで会場が今日と同じここ(当時の名称は渋谷公会堂)だったと話す素生の口調からも、感慨がさりげなく伝わってくる。その思いを胸に秘め曽我部と向かい合い、ゆっくり、しっとりと……。この日のイベントタイトルにも冠した「愛と笑いの夜」で、ふたりの歌声、アコギのアンサンブル、三拍子で刻む心地よいリズム、全ての音色が重なり合う。サニーデイの音楽を媒介にして、ゴーイングのメンバー、メレンゲのクボケンジ、サンボマスターの山口隆、そして会場に足を運んだファンが繋がったこの日のライブ。その“愛”にあふれた雰囲気を、ゴーイングとサニーデイが共演した記念すべき瞬間はまさに集約していたかのようだった。
素生「今日は本当に楽しいです、ありがとう。じゃあ、サニーデイ・サービスに憧れて作った曲を――」
曽我部との共演で奏でたもう1曲「東京」は、まさにこの日のイベントのためにあるような作品だ。素生の独唱に、穏やかなタッチで加わる曽我部の歌声。そこへバンドサウンドが加わるとともに、両者の背には星空のような光が灯る――。切なくて、でも暖かさに満ちあふれたその音色は、サニーデイへの憧れを胸に抱きながら自らのオリジナリティを確立してきたゴーイングの音楽の集大成にも思えた。過剰な演出とか、キャラクター勝負のパフォーマンスとか、誇大宣伝とかそんなものは何一つなくても、音楽は人の心を動かすことが絶対に出来る。ゴーイングはサニーデイを始めとする先人から、サニーデイもそのさらなる先人から受け継いだ“グッド・ミュージック”の系譜を、この素晴らしき一日からあらためて教えてもらったような気がする。
そんな、GOING UNDER GROUNDというバンドのルーツを再確認することが出来たようなこの日のライブ。その原点から続く現在進行形の姿も、新曲の「Shining」で彼らはしっかり見せてくれた。みずみずしいムードをたっぷりと携えたメロディーを、アコースティックギター、オルガン、バンドサウンドが優しく包む。そこにあったのは、ただただ胸を打つメロディーと、それを支える実直な演奏だけ。しかし、それ以外に何か必要なものがあるだろうか。理屈抜きに聴き手の心をつかむポップ・ミュージック、そして、理屈抜きに心躍らせるロック・ミュージック――。様々なエッセンスやスタイルを吸収して、音楽というツールが持っている魅力を表現するGOING UNDER GROUNDの新たな境地を、2011年に届けられるであろうさらなる作品はきっと伝えてくれるはずだ。
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