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INTERVIEW

Japanese

S.O.H.B

 

S.O.H.B

Member:Natsumi Nishii

Interviewer:吉羽 さおり

2022年にEP『美しいあなた -EP』をリリースしたS.O.H.B(シーズンズオブハーベッドルーム)。内的な、濃密な世界を、美しくドリーミーなポップ・ミュージックへと織り上げていく、名古屋在住のNatsumi Nishiiによるクリエイティヴ・ユニットが、このたびキャリア2作目となるフル・アルバム『Inner Voice』を発表した。『美しいあなた -EP』収録の「きらめき」などにあった、素朴であり尊い力を持ったゴスペル的な曲から、試みのあるEDM、またバンド・サウンドなど、今作はよりサウンドスケープが広がっており、じっくりそれぞれのサウンドを楽しむとともに、リスナーが心の旅を体験できるような作品にもなっている。孤独と自立をテーマとしたというアルバムについて、リモートでインタビューを行った。

前作EP『美しいあなた -EP』のインタビュー(※2022年10月掲載)の際に、いろんなところに旅に出かけて、それが曲になったりもしているというお話をしていましたが、あれからも変わらず旅は続けているんですか。

実は今、知床に来ているんです(※外の雪景色を見せてくれる)。あ、窓の下にウサギの足跡がありますね。

-本当だ! 旅先からありがとうございます(笑)。昨年もいろんな場所へと行って、また曲を作ってという生活だった感じですか。

そうですね。でも昨年はそこまで遠出はしなかった感じでした。

-前回のインタビューのとき、このあとは"田舎の賛美歌シリーズ"を作りたいという話をしていたこともあったので、まずはそれがどこまで進んだのかなという話を聞きたかったんです。

"田舎の賛美歌シリーズ"で言うと、今回のアルバムに入っている「暮らし」という曲。高知県の宿毛(すくも)という漁師町で作った曲ですね。

-「暮らし」はまさにゴスペル的な美しさが歌詞、歌、ハーモニーにありますが、この曲ではオルガンなどの楽器のほか、ホーン・セクションが入っていて。その音色が曲の彩りやヴォーカルとのハーモニーへの新たなエッセンスになっているなと感じています。

良かったです。これはアレンジャーの方といろいろやりとりをしながら作った曲でしたね。生のトロンボーンを入れてくれているんですが、今回のホーン系では唯一生で入っている曲です。

-「暮らし」のアレンジは、シンガー・ソングライターでもあるマコトコンドウさんが担当していますが、どういう経緯でお願いをしているんですか。

マコトコンドウさんはネオ・ソウルとかそういった温かみのある音が得意な方なので、こういう系の曲だったら、とレーベルの担当の方の繋がりで紹介していただいたんです。アレンジの詰めの部分では、いろんなやりとりをした記憶がありますね。

-この曲で描かれる景色に抱かれるような、サウンドや歌の奥にゆったりと揺られて波音が聞こえてくるような感触の曲だなと思います。Nishiiさん自身はどういう曲にしたい、どういう着地にしたいと考えていたんでしょう。

伸びやかな感じの曲にしたかったんです。なるべくリズムのところでゴスペルっぽい雰囲気が入れられたらベストだなと考えていました。聴いた方からどういう評価がいただけるかわからないですけど、私としては満点に近いアレンジになっているんじゃないかなと思います。

-「暮らし」以降も"賛美歌シリーズ"は続けているんですか。

"賛美歌"系でいうと「atarashiiasa」もそれに準じて作った形になりますね。このアルバムの中だと、その2曲が前作の"賛美歌"系を引き継いだ曲になるかなと思います。ただ、「atarashiiasa」は旅のモチーフなどはまったくなくて、家でぼーっとしているときに"降ってきた"じゃないですが、書き始めたらすごい勢いで書けた曲で。完成まで1時間くらいでザーッと書き上げて、そのままワンコーラスぶんをマネージャーに送って。"いいですよね、これ!"っていう感じだったんです。

-その降りてきたときっていうのは、どんなタイミングだったのでしょう。長い夜が明けるというこの曲から想像するに、何か自分の中で思いや出来事を消化し終えたような感覚だったんですかね。

うん、そうですね。この曲に関しては、知らないところで何かを乗り越えていたのかもしれないし、ひと区切りつけたかったのかもしれないです。

-それがとても美しい曲となった。

すごく好きです、この曲。

-歌の世界観を引き立てるのが、ピアノと弦楽器だけというミニマムなサウンドで。ふくよかで瑞々しい音色が印象的な曲になりましたが、サウンドについてはどういうイメージで描いていこうと。

私がこういう曲を描くとき──前作の「きらめき」とかも該当すると思うんですが、ピアノと弦だけというのが今の私の中の最小単位で、一番好きな組み合わせなんです。こういう、メロディが美しいと思って書けた曲に関しては、なるべく余分なところを削いで作っていきたいっていう思いがあって。それでこの曲も知らず知らずのうちに、何か特別な意図があったわけじゃないんですけど、ピアノと弦、チェロとビオラなんですが、そういった構成にしていました。

-振り返ってみて、そのときに自分が消化できたもの、消化した感情というのはどういうものだと思いますか。

今までは結構、日常生活に足を引っ張られて、どんどん普通の感覚に陥っていっちゃうことが多くなってきたなと思っていたんです。それでそのときに自分の中でできる取捨選択が、普通の生活のほうだったんですよね。新しい出会いにしても、その場で出会うからこそ楽しくて、そこから続けていくと私はどうしても普通になってしまうので。

-人間関係の中で、いろいろと思い悩んだりすることやある種の煩わしさのほうが増えてしまう。

なるべくその場限りでというか。全部忘れることってそんなに悪いことじゃないと思うんです。また新しく始められるわけなので。そのたびに自分をリセットして。なんとなくそういうふうな生活をちゃんと望んだのが、昨年半ばくらいだったんです。

-いわゆる、しがらみ的なものを断ち切っていったんですね。

そこからすごく幅が広がりましたね。嫌なことがあまりなくなりました。曲に関してもそうだし、生活に対してもそうで。

-ただ、人とのコミュニケーション、日常での誰かとのやりとりの中で生じる感情があるからこそ芽生える曲とかもありそうですが、その点はどうなんでしょう。

そうなんですよね。ただ、人とのやりとりの中で生まれてくる曲って、私はあまり好きじゃなくて。なんていうか、私の作る曲が、1個浮いたところにあってほしいんです。あまり人間に深入りすると曲がそればかりになっちゃうじゃないですか。私はなるべくロマンチックに、且つドライにというか。

-この音楽を聴く人にとっても、何か物事や日々からの逃げ場のようになればという思いですかね。そのように振り切れたのもこの1年くらいの感じが大きかったんですか。

それまではどう生きてやろうかとか、どう立ち向かってやろうかとか、ずっとここであなたのことを待っているからみたいな、そういう曲もあったんです。それからは何か吹っ切れたというか、自分の目指したい曲が作れるようになったんじゃないかなと思うんです。

-たしかに、今回のアルバムに収録されている「atarashiiasa」以降にリリースされたシングルは、音楽的な幅がぐっと広くなりましたよね。

いろいろですよね。雑食みたいな感じになって。

-アルバム1曲目でもある「Inner Voice」もそういう流れでできた曲ですかね。

そうです。例えば、"ちょっとゆったりにしたほうが私らしいかな"とか、"コード進行もこっちのほうがいつもの私らしいかな"とかもまったく考えずに、昨年1年間は作れたので。「Inner Voice」もその流れで。

-アルバムがいきなりEDMで幕開けるのは驚きでもありましたけど(笑)。

EDMはずっとやってみたかったんです。もともとは、サビの"唇の触れるような距離で"という歌詞が生きる曲が書きたくて、EDMなんてやったことがなかったから、いろんな曲を聴いたりもして。おかげで、日本語とEDMが合わせられるんだということがわかったし、なかなかいい発見でしたね。今回は発見ばかりですごく楽しかったです。

-EDMでありつつ、ドリーミーで切なくも美しい曲となりました。いつ頃できた曲ですか。

今年の2月半ばくらいですかね。このサビの曲を書きたいっていうのは構想としてはずーっとあって、そのメモが3~4ヶ月パソコンに貼ってあったくらいなんですけど、でも全然できなくて。形にしなきゃいけないというリミットが迫ってきたときに、急にバキバキバキって何かが構築されていって、1週間くらいで作ってレコーディングをして、という感じでしたね。