Japanese
新山詩織
2022年04月号掲載
Interviewer:石角 友香
10代でデビューし、その世代ならではの心情をウェルメイドなJ-POPに昇華してきた新山詩織。2018年から活動休止期間に入っていたが、2021年に再始動。ライヴも行い、このたび約5年半ぶりとなるミニ・アルバム『I'm Here』をリリース。初のセルフ・プロデュース作品である本作は彼女がアーティストとして何を歌い、どんな音像を求めていたのかがしっかり落とし込まれた印象だ。参加ミュージシャンもジャズ畑のピアニスト 和久井沙良、管 梓(For Tracy Hyde/エイプリルブルー)、友田ジュン(DEZOLVE)、坂本 遥(MEMEMION/エドガー・サリヴァン)ら新鮮な面々。ここに至るまでの心境や制作に関してじっくり話を訊いた。
着飾っていない感じで、シンプルなありのままを――1回出してみたいっていうとこからできたアルバムです
-新しい夢に向かうために2018年に活動休止されたわけですが、その時点で新山さんの中にヴィジョンはあったんですか?
大きいイメージになると思うんですけど、その当時、活動していたときにしたかったけどなかなかできなかったことを、ひとつひとつやってみたいなっていう思いがきっかけだったんです。
-『I'm Here』を聴かせていただいて、自分でいろいろできるようになりたいという希望があったのかな? と思ったんですが。
たしかに。ちゃんと自分から何かを伝えてこっちから作っていくのは初めてだったので、そこにたどり着くまで、お休み期間も自分自身を成長させるじゃないけど、もっといろんな経験を積んでいけたらいいなっていうのが最初の始まりでした。
-音楽に間接的に影響していることでも構わないんですが、活動休止中に得た学びや、吸収されたことはありますか?
自分の意見、考えを自分なりの言葉で伝えるのが鍛えられたというか。学校に行ってたんですけど、学校の中でもグループで作業することとか、みんなで意見を出し合って答えを導き出すとか、クラスメイトの前に立ってひとりで何かトークをする機会が結構あったので、そういう部分で、一番自分の苦手だったことを自分らしくできるようにしていけた感じでした。
-それは大学? 専門学校ですか?
専門学校です。子供の福祉についての専門学校に行ってたんですけど、子供との関わりとか、言葉の掛け方、心理的な部分や障害を持った子のことについてとか、ジャンル問わずいろいろと福祉面の勉強をして。もともと高校卒業して、大学行く/行かないっていうときに、心理学を学べる学校に行きたかったんですね。そこに繋がるような学校に行けて、資格も取れて、自分自身もちょっと成長できて、いい経験になったなと思います。
-新山さんの中に学びたい欲求があったんですね。
全然違う場所に身を置いてみたいっていうのもあって。そこできっと得られることもたくさんあるだろうし、音楽活動してたときには出会えなかっただろうなって人とも会うことがたくさんできたし、そこで話をしたり、まだコロナ前だったので一緒にお酒を飲んだりとか。そのなかでまたいろんな人間関係もできて、そこから自分の新しい感情も生まれて、携帯のメモに歌詞を書いてみて、ちょっとしたひとつひとつのことが全部今に繋がってるなぁと思います。
-大きな度量を持って戻ってこられた感じがします。以前の作品は自分の居場所がなかったり、言いたいことが正しく伝わってなかったりするような気持ちも表現されていた印象もありますが、逆に相談に乗ってあげられる人のようなニュアンスを持って戻ってこられたなと。それぐらい印象は違いました。
嬉しいです。
-そのうえで、やはり音楽をやりたいなと思われたきっかけはありましたか?
休止中新しく出会った人たちが、自分から問い掛ける前に"私、音楽好きなんだ"って言う人がほとんどで、話していくうちに私も音楽のほうに引っ張られるというか(笑)、そういう気持ちになって。そういうとき、結局音楽からは離れられないし離れたくないし、大好きなんだなって再確認しました。お休み中は学校に行きながら、曲もちょこちょこ作ってたので、そういう会話をしていくなかで、やっぱり誰かに聴いてもらえたらいいなと思うことも増えて。ちょうどそんなときに、今の事務所のスタッフさんと久しぶりに会って話をする機会があったので。じゃあまた再びよろしくお願いしますという話になりましたね。
-音楽って自分の知らないところまで広がっていくから、知らないところで誰かが助かってたりしますしね。
私もお休み中に好きな人の曲を聴いて明るさを貰えたり、頑張れたり、背中を押してもらえたりして、活動をしてたとき、自分も同じ立場にいたんだと。ほんとにすごいところにいさせてもらってたんだなってのも再確認できたというか。だからこそ再始動して、もっともっと、今までの経験とかも大事にしつつ、これから新しい気持ちで新しいものをいっぱい出していけるように、頑張らなきゃなってすごく思ってます。
-それぐらいまったく違うことをやってみて良かったんじゃないでしょうか。
今1ミリも後悔してないし、このお休みの期間がなければ、どうなってたんだろう? っていうのもあるけど、お休みしたからこそ、得られなかったものをほんとにたくさん得られたので。それがまた自分の糧となって、また一歩踏み出していけるんだなと未だにずっと感じてます。
-復活作がセルフ・プロデュースである理由がわかってきましたが、セルフ・プロデュースしようと思うと、音楽的にいろんなことをわかっていないとなかなかできないことも多いと思うんですが。端的になぜセルフ・プロデュースしようと思ったんですか?
以前活動してたとき、自分の曲と作家さんの曲といろんな形を織り交ぜてシングル、アルバムを出していたんですけど、やっぱりイチから、自分の思いから作ってみたいっていうのはずっとあったので。もちろんセルフ・プロデュースではあるけど、決してひとりだけではできないもので、サポートしてくれたミュージシャンやマネージャーさんに受けたアドバイスも聞きながら、イチから形にしていった感じだったんです。
-新山さんの中で曲ができたときに、どんな音像というか、どんな楽器がどれぐらい入ってたらいいイメージがあったんだろうなと思ったんです。曲によっては最小限の編成だったりするので。そこが大きな変化ですね。
極力シンプルにしたいっていうのは最初に言ってて、だからこそ自然と音数も少なくはなりましたね。
-それはリスナーとしての志向もありますか?
やっぱり音は少ないほど一番声を聴いてもらえて、ちゃんとダイレクトに伝わってくるのもあるし。再始動して1枚目というのもあったので、とにかく着飾っていない感じで、シンプルなありのままを1回出してみたいってとこからできました。
-具体的にうかがっていきたいのですが、1曲目の「Smile for you」がいきなりアカペラ始まりで、ピアノ伴奏のみというのも象徴的です。
和久井沙良(Pf)さんと初めましてだったんですけど、初めて和久井さんのピアノを聴いたときに、メロディが全部素敵で女性だけどちょっと男らしさというか、静かな迫力みたいなものがあって。この「Smile for you」はほんとにアカペラからできた曲で、しっとりした感じの曲だったんですけど、だからこそ和久井さんの力強さを思い切り入れてほしいですというのを伝えて、そこからこんな形になりました。
-和久井さんはジャズ畑の方で、他にロック・アーティストのサポートもされていますが、もともとご存知だったんですか?
マネージャーさんからお名前を聞いて、一度ライヴを観に行かせていただいて、バンドで弾かれていたんですけど、いろんなメンバーの方がいる中で一番印象が強かったというか。身体全体を動かしながら弾かれるので、身体とピアノが一体化してる感じがものすごくかっこいいなと思って。
-素朴になりそうなところに大人の味わいも入って、かっこいい曲になってますね。
たった1音でも水滴が落ちたかのような音だったりして、この曲のいい部分をもっと引き出してもらえたという感じです。
-長くいる大事な友達についての歌だと思うんですが、まるで音楽とか運命についての歌のようにも聴こえます。
そうですね。もともと親友に対して書いていた詞だったんですけど、改めて見ると自分が音楽に対して思っていることにもすごく重なるなと思いました。
-そして、「New」と「ミルクティー」に参加しているミュージシャンが同じ面々だと思うんですが、坂本 遥(Gt/MEMEMION/エドガー・サリヴァン)さんと友田ジュン(Key/DEZOLVE)さんはどんな繋がりで?
もともと友田さんと坂本さんがバンドを一緒に組まれてて、エドガー・サリヴァンのメンバーの方たち――ヴォーカルの佐々木 萌ちゃんと友達で、坂本さんをずっと知ってたんですけど、今回一緒にやらせてもらえることになって。今までレコーディングのときはバンドの方とやることがあんまりなかったので、今回はバンドのいちメンバーだからこその個性的な部分とか、その人にしかない色をすごく出していただけたと思います。同世代なのもあって、話もしながら演奏を合わせてやるみたいな、ほんとにそんな感覚で音録りもできたので楽しかったです。
-バンド感がありますね。
坂本さんは以前、THEラブ人間とかでもされてますし、イベントで1回だけ観に行ったことがあったんですけど、すごくかっこいいギターを弾かれる方で、今回も「ミルクティー」はしっとりした曲だけど、ソロの部分は思い切りお願いしますって言って弾いてもらって。で、友田さんは和久井さんと反対に男性だけどちょっと女性らしさというか、柔らかいメロディを弾いてくださる方なんです。今回「New」と「ミルクティー」の2曲は、12月のライヴ("新山詩織 live 2021~In The Beginning~")からレコーディングも同じメンバーでやらせてもらったのもあるので、ライヴの雰囲気、形をそのままレコーディングで改めて演奏して形にしたという感じになりました。
-ドラムじゃなくてパーカッションなのもいいですね。
最初は、普通のバンド編成でレコーディングをするのもいいねってお話もあったんですけど、あえてシンプルに音数も少なくという部分でパーカッション良さそうだねってところから、友田さんの繋がりで、山下(あすか)さんに今回お願いすることになりました。
-この編成はばっちりだなと思います。全体的に分厚い低音が入っていないし、それが新山さんの声に合うと感じました。「ミルクティー」は世の中的にもコロナ禍でより心情がわかる感じなんですが、人と出会うのは当たり前ではないんだなという気持ちになって。この曲はどんなときにできたんですか?
この曲は再始動して、制作を始めようってなったときに同時進行でできたんですけど。もともと冬の時期、12月のライヴの前だったのもあって冬に向けて温かくなれるような、プラス新山詩織らしいラヴ・ソングを書いてみるのはどうかっていうディレクターからの提案でできた曲で。そのときにホッとできるもの、温かいものってなんだろう? あ、最近ずっと飲んでるわ。ミルクティーか。みたいな(笑)。最初そんな感じでタイトルも出てきて。ラヴ・ソングではあるけど、私らしいってなんだろう? って考えたんです。そのときに、一番身近な人、大切な人、家族、友達、人それぞれだと思うんですけど、そこに向けてできるだけずっと一緒にいれたらいいな、いてほしいな、私も何かあったとき絶対そばにいるよっていう気持ちを書けたら、それがラヴ・ソングになるんじゃないかと考えて書きました。
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