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INTERVIEW

Japanese

安藤裕子

2021年12月号掲載

安藤裕子

インタビュアー:石角 友香

2003年のデビュー以来、J-POPシーンの中で独特の感性を映し出すシンガー・ソングライターとして活動。2016年のアルバム『頂き物』を機に当時のレコード会社を離れ、一時休養期間を経て、ミニ・アルバム『ITALAN』、約4年半ぶりのフル・アルバム『Barometz』をリリース。より自分の音楽の原点を見つめるタームの3作目にあたる、11枚目のアルバム『Kongtong Recordings』をこのたびリリースする。本作には新しいリスナーとの出会いの機会になった、TVアニメ"「進撃の巨人」The Final Season"エンディング・テーマ「衝撃」のアルバム・バージョンなど、全12曲を収録。今を生きるあらゆる人に届いてほしい生きることの真実と音楽の豊穣が詰まっている。

-Skream!読者が安藤さんの音楽に初めて触れたのは、「衝撃」だった人が多いのかなと思うので、「衝撃」のお話からうかがえればと思います。

私自身もちょうどタイミングが良かったかなと思います。音楽は長年やってるんですけど、1回、"脱皮"の時期を終えて、また生まれ変わろうとしてるときでもあって。音楽的なこともサウンドもこの数年、ずいぶん方向転換しているなかでチャレンジしたことだったから。そういう意味で昔の曲の音像だったら――使っていただくことはあったにせよ鮮烈なものは残せなかったかなと思うので、ちょうど時期が良かったかなと。

-どういう経緯だったんですか?

光栄なことに、アニメ側からご指名をいただき、書き下ろすことになりました。もちろんあれだけの人気作なので存じ上げてはいたのですが、読んでいなくてですね。ひとまず漫画を読んでみたらすごく面白くて、2晩で読み終えてしまうくらいのめりこんでしまったんです。自分もその世界に入っているかのような感じがあって。その世界に立って、主人公になって立ったときに、背後でこの瞬間に鳴るであろう音みたいなものが自分の中であったんです。最初はピアノでルートの音、同じ4つぐらいの響きがずっと続くなかで、ある瞬間を切り取ってて。例えば爆弾が破裂する直前のような静けさと、弾けたあとと、みたいなところがあったので、それをうまいこと音でも――アレンジャーのShigekuni君も漫画を読んでたので、共通見解がすごくあったから、そういう瞬間を表現してくれたかな。

-いわゆるアニメのエンディングとしても画期的な楽曲だなと思うんですよ。もちろん"進撃の巨人"のストーリーや絵だからというところもあるでしょうけども。

そう。アニメの世界観的にちょうど良かったかもしれない。年齢層というか、結構描いてるものは実は社会的というか、大人のこの人間社会みたいなものに似てる作品だったから、それが合致しやすかったのかなと。これが冒険モノみたいな感じだったら、どうやってはめるんだ? ってことになってたと思うから(笑)。

-安藤さんは、休養期間に入る前は、パーソナルな死生観を書いて歌うのがなかなかしんどいということを、いろいろなインタビューで話していらして。でもこの曲はパーソナルな死生観じゃないから書けたんでしょうか。

そうです。個人的な内省っていうものから離れていって久しいんですけど、こちらはまさにほぼ人類って感じなんで(笑)、大きいんですよね。

-休養明けのミニ・アルバム『ITALAN』(2018年リリース)は、"至らない人"という個人にフォーカスされていて、で、前作『Barometz』(2020年リリース)もどちらかというと個人で。

そうですね。個人が見る夢、ロマンチックなものの追求というか。

-その流れで今の安藤さんの音楽作りっていうのはすごく自由というか、型があってあとから歌があるんじゃなくて、先に歌があるみたいに聴こえるんですよ。

というか、シンガー・ソングライターというものをわりと優等生的に長くやってきたんですね。創作という意味でもだんだん依頼されるものへの傾倒が強くなっちゃったところもあって、だんだん自分が灰色になっていくみたいな、やっぱ生み出すものがないなってなっちゃったんですよ。それまで私って、デビューからやめる2016年ぐらいまで、全部私より年上の方がケアしてくれてて。音楽的にもアドバイスをくれる方がみんな音楽大好きな目上の方みたいな感じで、彼らにいろいろ教えてもらうというような時間がすごく長かったかなと思うんですね。だから、ミュージシャンもいわゆるJ-POPっていうか、ポップスの世界で非常に引っ張りだこみたいな方とたくさんご一緒させていただいて。"お前はマリー・アントワネットだぞ"なんて言われながらレコーディングしてたんですけど。"なんで? こんなにしょぼいなら弦変えて。もう別の弦チーム呼べばいいじゃない"(※高い声で)みたいな感じになっちゃってたのかもしんない。そんなことしてないですけど(笑)。でも、そうして甘やかされてたぶん、たぶん時代的にも豊富にいろんなことを収録する様っていうのを、いっぱい見させていただいたし。

-スタジオも成り立っていたし。

そうそう。そこらへんはきれいに回ってたし。あと、アナログ・レコーディングみたいなものも体験させてもらうとか、そういう意味では、長くやってるおかげでいろいろなことは経験させてもらってたなと思うんだけど、今度自分をみんなから離して、"じゃあ旅に出てまいります"ってお手紙送ったんです(笑)。じゃあ自分の根っこにある、みんなから教科書のように教えてもらった音楽とは違うものってなんだろう? ってのが『ITALAN』のスタートになったんです。私が鳴らしたかったことって、別にあのミュージシャンのフレーズがかっこいいとかじゃなくて、もっと何が鳴ってんのかな? っていうことで。例えば家でグラスをチンって鳴らしたり、鍵を回してガチャガチャ鳴ったりするその生活音。そういうものを組み合わせて、実際、デビュー前はやってたんですよ。レコーダーに何回も録って、ラジカセみたいのでそれをまた録って合わせて多重録音みたいなことをして。それがすごく楽しくて、夜中の3時とかにお姉ちゃんに"うるせぇ!"って怒られながらやってたんですけど、そういうことを思い出したいなと考えてやってたのが『ITALAN』なんです。でも、それだと生活にならないというか(笑)、ある程度の収入にしかならないから。

-オルタナティヴですごくいい作品だと思いますけど。

いや、私はすごく好きなんですけど、たぶんそれまで歌モノみたいなものを聴いてくれてた人には、なかなか接しづらい音像だったりもして。それをもうちょっと中庸を取っていく部分? みんなにも聴いてほしいし、自由にもやりたい。自分のサウンドで、いわば安藤裕子っていうチームでやったもの、ある程度自分の名前でもって立つという作業を模索してたのが『ITALAN』、『Barometz』、今作『Kongtong Recordings』みたいなものだと思うんですけど、それを徐々に整えてきたという感じで。今回はその意味では非常にポップス然としたものも作れたし。サウンド的にも非常に自由にやれたし、結構お腹いっぱいに、満足にいろんなことを詰め込めたかなというふうには思ってますね。