Overseas
CRX
2016年11月号掲載
Member:Nick Valensi(Gt/Vo)
Interviewer:山口 智男 通訳:国田ジンジャー
バンドのメンバーでいることも、バンドの音楽を聴くのも、バンドのライヴに行くのも好きなんだ
-ソロ名義ではなく、バンド名義になったのはなぜですか? バンドというものに対する特別な憧れや、ロックンロールはバンドでやるものだろうという哲学みたいなものがあるんでしょうか?
それはたぶん曲に対してバンドのようなフィーリングがあったからだと思うんだ。曲作りに1年~1年半ぐらいかけて、歌い方も少しずつ身につけていたんだけど、やがて壁にぶち当たったんだ。何かに長く取り掛かっていたり、他人と自分の考えを分かち合ったりしないと、そういうことに陥りやすくなるんじゃないかな。今回、まさにそうなったんだ。自分がやっていることに自信が持てなかったり、これじゃダメなんじゃないかと思い込んだり、諦めようと思ったりしていたんだ。だから友人たちに連絡をして、彼らにデモを聴かせてどのように思うか、フィードバックが欲しかった。アイディアがあっても、それを自分で本当に理解するには人に話したり、聴かせたりしないといけないと思うときもあるだろ? 僕が連絡してフィードバックとアドバイスを求めた人たちが、今のバンドのメンバーなんだ。彼らと会うとすぐにコラボレーションが始まった。なかなかひとりでは作り切れない楽曲を完成させてくれた。特に歌詞をね。ところどころで抜けているフレーズがあったりして、どうしても歌詞がうまくいかない曲がいくつかあったんだ。例えば最初のヴァースがあって、コーラスもあるのにセカンド・ヴァースが思いつかなかったりして。そうやって彼らの助けがあって曲が完成したんだ。1曲だけベーシストのJon(Safley)と僕とで一緒に作った曲もあるよ。で、彼らと話をするようになってからバンドという意識になっていったんだ。みんな作品に対して貢献してくれていたし、曲作りにも参加してくれて。それに僕は前からバンドが好きなんだ。バンドのメンバーでいることも好きだし、バンドの音楽を聴くのも好きだし、バンドのライヴに行くのも好きだし。それに、そもそもソロ・アーティストになるのって居心地が悪いような気がするんだ。自分の性格には合わないよ。
-バンド・メンバー以外にもそういう友人はいると思うのですが、この4人を選んだのはどんな理由からですか? CRXのメンバーに不可欠な条件を挙げるとしたら?
彼らだけに連絡をしたわけじゃないよ(笑)! ただ、今のメンバーはみんなロサンゼルスの近くに住んでいる仲のいい友達だし、本当に、本当に、本当に卓越したミュージシャンとソングライターなんだ。それに僕は彼らがやっていることを尊敬しているし、彼らの音楽と彼らの意見も尊敬している。この4人以外にもアドバイスが欲しくて連絡した人たちはもちろんいたよ。そのひとりがJosh Homme(QUEENS OF THE STONE AGE他)。彼はメンバーにはならなかったけど、プロデューサーになってくれた。もうひとりは、20年以上付き合いのある親友で、THE STROKESのドラマーをやっているFabrizio Morettiにもすごくアドバイスをもらった。彼はずっと応援してくれてたから、何でも話せるんだ。例えば"今日どんな映画を観たらいい?"ってメールを送ったりもする(笑)。彼はこのアルバムのすべての過程、それこそ曲作りからレコーディングまで、本当に支えになってくれたよ。僕は本当にいい友達に恵まれている。アドバイスしてもらう友達の輪があるんだ。誰でもそういう仲間がいると思うけどね。僕は自分より優れていて、何かを学べる人と一緒にいるのが好きなんだ。僕より賢かったり、ギターが上手かったり、才能があったり、もっといい人間だったり、僕より親切だったり。それが友達の輪だよ。間違った人たちや良くない人たちと一緒にいるとネガティヴな気持ちになるから、これはみんなも気をつけないといけないと思うよ。ちょっと脱線して退屈な話になっているけど、本当にそう思うんだ(笑)。
-メンバー4人がどんなキャラクターなのか簡単に教えてもらってもいいですか?
ドラマーのRalph(Alexander)は7年前に出会ったんだ。僕がロサンゼルスに引っ越したころに彼も同じく引っ越して来て、当時は音楽学校に通っていた。初めてRalphの演奏を見たとき、もし何かのプロジェクトをやるようなことがあったら、絶対に彼を誘うと心に決めたよ。彼はDave Grohl(FOO FIGHTERS)のようなプレイをするパワフルなドラマーだよ。ロサンゼルスのバンド、THE DOSEでもドラムを叩いているんだ。もうひとりのギター、Darian(Zahedi)とは15年以上の付き合いで、同じころにニューヨークに住んでいた。Albert Hammond Jr.(THE STROKESのギター)を通して彼と知り合ったんだけど、たしか彼らは同じ大学に通っていたんだと思う。そうやって知り合ったのはTHE STROKESがデビューするずっと前の、1997年とか98年ごろの話だよ。長い間会ってなかったけど、ベース・プレイヤーのJonを通して再会したんだ。ちなみにJonはプロデューサーをやっている友達を通して5年くらい前に会ったんだよ。彼はこのバンドで一番いいミュージシャンかもしれない。ドラム、ギター、ベース、キーボード、ヴォーカル......何でもできるんだ。プロデュースやエンジニアリング、編曲だってできる。彼と会ったときも新しいプロジェクトをやろうとしてミュージシャンを集めようと考えていたときだった。そしたら彼が、"Darianってギタリストがいる"と話してくれた。"Darian? ニューヨークにいたDarian Zahedi?"って聞いて、共通の知り合いだったことがわかったんだ。すごく奇遇だったよ。それから、キーボードのRichie(Follin)は他にもバンドをやっていて、以前はTHE WILLOWZのシンガーだったし、GUARDSってバンドのシンガーもやっている。すごく仲良くしてくれて、一緒に野球を見に行ったりもするんだよ。僕らはふたりとも(ロサンゼルス)ドジャースのファンだよ。彼はキーボードが上手いだけでなく、ヴォーカルもすごく上手い。バック・ヴォーカルのほとんどをやってくれて、僕を引き立ててくれるんだ。そういうの大事だよね(笑)!
-"CRX"というバンド名はどこから?
まずはHondaのかっこいい車だよね(笑)。アルバムのレコーディングをしているときは、日本のRolandのドラム・マシーンを使っていて、それが"CR-78"って名前だった。それを使っていたからなのか、ある曲をやっているときにJoshが"目を閉じるといつも――それは遠い未来の話なんだけど、日本のパンク・ロッカーがモヒカン頭で、CR-Xに乗って東京の街を飛ばしていて。人間がみんな消えてしまって、街には誰もいなくなっているところを想像してしまうんだ"ってぽろっと言ったからなのか。そのときは"うーん、何の話をしているんだ?"って不思議に思ったんだけど、その話を聞いた僕たちはそのドラム・マシーンを"CRX"って呼ぶようになって、別の曲でも"あぁ、CRXも入れてみようか"って普通に口にしていた。いつしかドラム・サウンドを表す言葉になっていたんだ。レコーディングが終わって、バンド名を決めないといけないってときに、CRXがなんだか僕の音楽を表現してくれているように思えたんだよ。変な話だよね。地球で僕だけがこんな気持ちなんだろうけど、これしか説明できないんだ。もっといいストーリーがあればよかったけど。
-絶妙にリラックスしたヴォーカルも聴きどころだと思いますが、ヴォーカリストとしての自分をどんなふうに評価していますか?
はははは(笑)。でも10点満点だったら7、8点だな。曲作りを始めたころ、自分で歌って録音したときの声が本当に嫌いだった。たぶん誰だって自分の声を聴いたら好きじゃないと思うけど、不気味に聞こえたんだ。時間をかけてどうやって自然な感じに歌えるかを考えた。あまりシンガーとしての経験がないから、丁寧に声を作っていったんだ。でも、スタジオに入ってアルバムを作ることができた。しかも一番好きなシンガーのJosh Hommeがプロデューサーとしてそこにいて、いろんな人が僕の歌を聴いているわけだろ? いいテイクもあれば、ダメダメなテイクもあって、大変だったときもある。その経験を経て、アルバムができた今、自分の声が本当に好きになったんだ。もうライヴも10回以上こなしたわけだから、ステージでも居心地が良くなってきた。今はすごく楽しいんだ。自分をどう評価しているかって質問だったけど、自分はいい感じだと思ってるよ。他の人に比べたらどうかわからないけど。でも頑張らないといけない環境に自分を置いたことは誇りに思えるよ。
-Josh Hommeがプロデューサーを務めたことで、サウンドはどんなふうに変化しましたか?
あまりにもいっぱいあって、数時間くらいはこのことについて話せるね。彼と一緒に仕事をするのは楽しいし、彼の仕事ぶりを見れて感動した。でも、最初は彼の意見が聞きたくてデモを聴かせただけで、プロデュースの依頼をしようと思って聴かせたわけじゃないんだ。"こんなの作ってるんだけど、どう思う?"って聞いただけだったのに、彼は本当に興奮してくれた。長い間取り組んでいたから、あの反応で初めて少し自信が持てたんだよ。彼は楽曲も僕の歌も期待してくれたし、デモを聴いていろいろなアイディアをリストアップしてくれて、どの曲にもアドバイスをしてくれた。デモから使えるもの、使えないものを選んでくれたから、レコーディングに入ったときはまずデモを流して、そこから始めたんだ。どの楽器の音もちゃんと聴いて、どこを活かしてどこをやり直し、何を加えて何を取って、みたいな話し合いは常にしていたよ。ときどきデモを聴いて、全部やり直そうとか、そうやってJoshがどれをキープするか判断してくれたんだ。僕はもう1年半もデモに取り掛かっていたから、どれが良くてどれが良くないかわからなくなっていて、完全に洞察力を失ってしまってたから、Joshの存在があってこその作品だよ。Joshほどうまくプロデュースできた人はいないと思っている。彼はどの曲も違う感じに扱ってくれて。もっと手を加えないといけない曲についてはアレンジもやってくれたんだ。ミキサー卓の前にいながら、同時進行でパソコンでのアレンジもやってくれたんだ。それにアンプの前にマイクを立てるところまでやってくれた。これ以上手を加えなくていいって曲はスタジオから出て、僕とエンジニアだけに作業をさせてくれたし。逆に何から何まで自分で取り組んで、16時間めいっぱい作業していた日もあったんだ。
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