Japanese
にせんねんもんだい
2015年10月号掲載
Member:高田 正子(Gt) 姫野 さやか(Dr)
Interviewer:天野 史彬
解答なし。未知数。すれ違い。......これらの根本にある"わからない"という感情は、本当に畏怖すべきことだろうか? 何故、人は理路整然としたわかりやすさを求めるのだろうか? 誰かに用意されたレールに従って終末への道を歩むことが正しさか? にせんねんもんだいならきっと言うだろう。"クソくらえ"と。......いや、それは違う。彼女たちは喋らないのだ。彼女たちは言葉という観念ではなく、音楽という肉体をとことん信じ切っている。そして、その音で未来を提示する。僕らが想像と創造を手放さない限り、生み出される希望はあるのだと教えてくれる。新作のタイトルは"#N/A"――つまり"該当なし"。暗闇の中から未来を掴み取る覚悟があるのなら、必聴です。
-新作『#N/A』は、今年の4月に代官山UNITで行われたAdrian Sherwoodとの共演がきっかけとなって、Adrianのプロデュースで制作されたんですよね。具体的に、作業はどんな工程を経て進んだんですか?
高田:今回は、私たちがセッションでレコーディングしたものがまずあって。それに対して、Adrianから何ヶ所か"こういう音があったらいいと思う"というアドバイスをもらって、その音を個々に録ったうえで、それらの素材をAdrianが持ち帰ってミックスしたっていう感じですね。
-みなさんにとって、Adrian Sherwoodってどんな存在でしたか? 言わば、ダブ/レゲエ界のレジェンドじゃないですか。
姫野:あの、実は、お名前しか存じ上げてなかったんです......。
高田:私も......。
-あ、そうなんですか(笑)。でも、実際にAdrianによってミックスされた音源が返ってきたとき、どう思われましたか? 相手が誰であれ、自分たちの音に手を加えられるわけじゃないですか?
姫野:意外と、セッションで録れた音をそのまま活かしている感じでしたね。もっとめちゃくちゃにミックスされるのかなって思っていたら、もともとの素材はそのままに、そこに適度なエフェクトをかけてくれていたので、私たちのセッションの良さも出つつ、Adrianのダブ・ミックスのセンスの良さも出つつ、みたいな感じで。
-にせんねんもんだいは、デビュー当初から"メンバー3人の人力"であることを核としていたと思うんです。そこに他の人の音が加わるのは、もうひとつ新しい肉体が加わる感覚ですか? それとも、もっと違う感覚でしょうか?
高田:う~ん......自分たちの曲だけど自分たちの曲じゃない感覚を覚えるような感じですね。
-"自分たちの曲じゃないような感覚"を得ることって、にせんねんもんだいとしてはウェルカムなことですか? 人によっては、自分の世界観で一貫していないと我慢ならないアーティストもいると思うんですよ。
高田:今までの私たちはそういうタイプだったんですよ。あまり誰かとコラボレーションもしてこなかったし、『N』(2013年リリース)が出たころまでは自分たちの音にこだわって追求してきたんですけど、『N』が出て、石原(洋)さんにリレコーディング(※『NISENNENMONDAI EP』)してもらったりしたとき、もっと違うインプットが欲しいなって思うようになって。自分の主観とはまったく別の感覚を受け入れるというか......自分たちを客観的に見ることのできる瞬間が欲しいなって思うようになったんです。なので、ちょっとずつオープンになってきたんだと思います。今回も、タイミングよくAdrianとのお話をいただいて。もちろん考えましたけど、"やってみよう"っていう気持ちになれた感じですね。
-にせんねんもんだいの結成は1999年ですけど、『N』や石原さんと作られた『NISENNENMONDAI EP』がリリースされたのは2013年で、長い期間、外部からの接触を受けずに3人だけでやってきたことになりますよね。実際、サウンドだけではなくバンド活動に関しても、自主レーベルを運営するなど、にせんねんもんだいは一貫してDIYなやり方を突き通していて。3人であることを守り続けた、その頑なさの要因はどこにあったんだと思います?
高田:私たちはラフにコミュニケーションを取れるタイプではないというか......ちょっと人見知りなところがあるので(笑)。3人だと素で出せる音が、他の人がいると出せなかったりする部分もあるし。あとはもう、単純に3人がいいっていう......他に何かあるかな?
姫野:わかんない(笑)。
高田:まぁ、3人でいることが1番自然体だったし、3人でやってかっこいい音を出したいっていうヴィジョンがあるだけで。それを追求しようっていうテーマがあったんだと思います。
-外部と接触を持つようになったのと同じくらいの時期から、サウンド的にはミニマルな方向性へ舵を切っていますよね。音数が少なくなって、より肉体的になり、ダンス・ミュージック的な効能も増えていった。今回の『#N/A』も、この路線の先端にあるサウンドになっていて。この変化は何をきっかけに起こったものだったんですか?
高田:そもそも、私たちはいわゆるダンス・ミュージックみたいなものを聴いたことがなかったんですよ。でも『Destination Tokyo』(2008年リリース)を作って、ライヴもひとしきり終えたころから、ちょっとずつ、そういうものも聴くようになって。そうやって外からのインプットがあったのがひとつ。あともうひとつは、個人的に『Destination Tokyo』のときにやっていたような、わかりやすいメロディはもう必要ないなって思ったんです。
-どうしてですか?
高田:自分で聴いたときに"わーー!"ってなっちゃうから(笑)。
-もうちょっと具体的にお願いします(笑)。
高田:わかりやすい提示の仕方はかっこ悪いなって思い始めたというか。いろんな心境の変化があったんだと思います。自分で出している音に対して、"もう、その感じはいらないな"って思っちゃうというか......感覚が変わったんでしょうね。いいと思うものがちょっとずつ変わっていって、必然的にミニマルな方向に行ったんだと思います。
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