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THE PIGEON DETECTIVES

2013年04月号掲載

THE PIGEON DETECTIVES

Writer 小田部 仁

THE LIBERTINESの登場を起点とした数年はTHE STROKES、THE WHITE STRIPES、 KAISER CHIEFS、ARCTIC MONKEYSという乾いた音像とスタイリッシュな雰囲気を持つバンドたちが続々と現れたエピックな期間だった。それらのバンドは直ぐ“ガレージ・パンク・ロック・リバイバル”という、パンクなんだかロックなんだかリバイバルなんだか、よく分からない名前で呼ばれることになるのだが、とにもかくにも、ただただカッコいい洒落たギター・バンドの活躍は、1960年代に始まり、90年代にOASISで決着がついてしまったロック・スターの伝説を知らない不幸な00年代のキッズたちを熱狂させた。“これが俺たちのロックンロールだ!”

“ハト探偵”という奇妙な名前(彼らのTwitterによると、古いフランスの漫画のタイトルらしい)を持つ、THE PIGEON DETECTIVESもまたそんなロックの伝説と色香を体現するスタイリッシュなガレージ・ロック・バンドだ。メンバーは、Matt Bowman(Vo)、Oliver Main(Gt)、Ryan Wilson(Gt)、Dave Best(Ba)、JImmi Naylor(Dr)の5人(全員スタイリッシュな格好でキメていて、カッコいいはカッコいいんだけど、なんで、MattはLED ZEPPELINのRobert Plantみたいなチリチリの髪型なんだろう……と、そこだけが疑問)。イギリス、ウェスト・ヨークシャーのリーズで、2004年に結成。KAISER CHIEFSや DIRTY PRETTY THINGSらのツアー・サポートに抜擢され、2007年に1stアルバム『Wait For Me』が大ヒット、全英チャート3位を記録した。ラウドでファニーなリード・チューン「I Found Out」は、その年のロック・アンセムになった。同年にはFUJI ROCK FESTIVALに来日。2008年の『Emergency』、2011年の『Up Guards & At 'Em!』は、1stほどの成功には恵まれなかったものの、ロック・バンドにあって然るべき成長の過程を辿ってきた。

そして、今作『We Met At Sea』は、その葛藤の軌跡を記録した作品になっている。“先ずは自分たちを少し疑うところから(今作の制作を)始めたんだっけな”と彼らは語る。時代の潮流がエレクトロ、ダンス・ミュージックというものに流れていくにつれ、ガレージ・ロック・リバイバルと位置づけられたバンドの殆どがその音楽性を当初とは違う方向性に徐々に舵を切り始める中、愚直と言っても良いほどにロックンロールというスタイルを貫こうともがく彼らも、4枚目にして、1度自らを振り返る必要があったのだろう。そして、彼らは自らの原点であるところの音楽性をやり抜くと言う意思を固めた。

本作のサウンドや彼らのアティチュードに目新しさはない。リード・シングル「Animal」のMVは、文字通り野獣へと変貌していく男と謎の踊る女というシュールな組み合わせ……もの凄く、既視感がある。同郷のバンドの出世頭、ARCTIC MONKEYSの初期のビデオの様だ。THE PIGEON DETECTIVES、彼らだけがあのガレージ・ロック・リバイバルという言葉がキラキラと輝いて聴こえた時代に置いてきぼりになってしまっているような、そんな気もする。でも、彼らを“そろそろ、大人になれよ”と、切り捨てることが出来ないのは、やはり、我々の心の中にそんなギター・ロックの魔法と破壊力にワクワクしてしまう少年が住んでいるからなのだ。彼らの音楽を聴くという体験はある意味、自分の既に失われてしまった少年期を取り戻す行為であり、同時に己の未熟さとどのように折り合いをつけるべきか決断を迫られる瞬間でもある。

THE STROKESは既にニュー・アルバムを出し、ARCTIC MONKEYSも新作が待たれている……ビッグ・バンドになってしまった、彼らを最早ガレージという言葉で、ひとくくりにすることは出来ないだろう。THE WHITE STRIPESは解散してしまったが、Jack Whiteは未だ精力的に活動している。KAISER CHIEFSの名は、とんと聞かない。THE LIBERTINESの魔法は、ロウソクの炎のようについたり消えたり。そんな風にシーンが変わりゆく中でも、ガレージ・ロック・バンドとして着実に歩み続ける、THE PIGEON DETECTIVESの姿は頼もしくすら見える。

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