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LIVE REPORT

Japanese

ACIDMAN

2025.10.26 @日本武道館

Writer 丸井 汐里 Photogtapher:Victor Nomoto - Metacraft、Taka"nekoze photo”、ニシムラカツキ

ACIDMANが2021年から、メジャー・デビュー記念日前後に開催してきたワンマン・ライヴ"This is ACIDMAN"。5年目の今年は全10公演のツアーとして全国を巡り、旅の終着地となるファイナルを日本武道館で迎えた。7年ぶり7度目となる武道館公演を待ちわびた観客のクラップのなか、浦山一悟のドラム・ソロから「world symphony」のイントロになだれ込むと、早くも大きな歓声が上がる。紙吹雪がビームに照らされてキラキラと輝き、華やかにスタートしたライヴは、大木伸夫(Vo/Gt)の"最高の一日にしよう!"の叫びを合図に「夜のために」、「FREE STAR」とノンストップで続いていく。このライヴは事前にセットリストが公開されているのだが、内容を知っていてもイントロが流れるたびに気持ちが高ぶり、声が漏れた。浦山のドラム・ソロで繋がれ、浦山と佐藤雅俊(Ba)が奏でる軽快且つ安定感のあるリズムの上に、叙情的で繊細さも兼ね備えた大木のギターの音色が重なっていく。「FREE STAR」でミラーボールがきらめくと、無数の星たちが浮かび上がり、会場に宇宙が広がった。

"This is ACIDMAN"は、シングル曲やMVがある曲を中心に毎年ほぼ同じ内容で行われてきたが、ツアー形式で開催した今回は各公演少しずつセットリストが異なる。"7年ぶりの日本武道館、嬉しいし、壮観ですね"とステージから満員の客席を見渡した大木が、"セットリストもいっぱい、いっぱい考えました"と語った後披露したのは「式日」。大木の優しい歌声に合わせて観客の大合唱も響き渡る。ステージ後ろの大画面に映し出された観客たちは皆、満ち足りたいい表情をしていて、その様子に涙腺が緩んだ。大木と浦山の歌声のハーモニーが切なくも美しい「スロウレイン」、ジャジーなアレンジも挟み妖艶な雰囲気を醸し出す「白と黒」と、キャリアを重ねたACIDMANが表現の幅の広さでも魅せた。そして2003年のシングル曲「リピート」に回帰し、大木は"流れ去る日々よ、何を手に入れた?"と問う。大木が一貫して向き合い続けている死生観。その答えを求めるかのように、アウトロで大木と佐藤がギターとベースをかき鳴らし、浦山のドラムにも力強さが増していった。

続く「sonet」の間奏で、ステージ後方に8人のストリングス隊が登場。"あなたの涙には必ず意味がある。生きているだけで私たちはこの宇宙を動かしている"という大木の想いが、バンドとストリングスのアンサンブルによって大きなスケールで表現された。ここから、ストリングスを交えたバラード曲が続く。アコースティック・ギターとのコラボで命の炎がよりきらめきを纏った「季節の灯」、優しい響きで会場を包み込んだ「愛を両手に」。「世界が終わる夜」では、バンドのみの間奏で帯びた熱をストリングスが受け取り、大木の伸びやかな歌声と共にエモーショナルな世界観を作り上げていた。

"ここからもっと深くいってもいいですか?"と大木が一度観客を座らせたのだが、その理由は次の曲にあった。今回全会場のセットリストに組み込んだ数少ない楽曲だというインストゥルメンタルの「風追い人(前編)」。故坂本龍一がピアノで参加している。大木は"亡くなってからもなお、偉大さを感じる。宝物を頂いた"と坂本を偲んだ。3人が坂本の奏でた生前のピアノの音色を噛み締めながら、この日一番の感情を込めて演奏しているように見え、観客もピアノの最後の1音まで耳を澄ませ、坂本に思いを馳せていた。そして「廻る、巡る、その核へ」で、生命の死と再生が描かれたMVを背に、狂気すら感じる轟音を奏でながら未来を願った。この流れこそ"This is ACIDMAN"だ。緻密な計算のもと既存の曲たちを効果的に並べていき、毎年ほぼ同じ楽曲をやるというコンセプトでも、毎回新たな感動を生む。彼等が唯一無二の存在であり続ける理由の1つなのではないだろうか。

各公演1曲は、シングル/アルバムを問わず、ライヴで聴きたい楽曲としてファンが投票した1位の曲を披露するのだが、ファイナルの武道館で選ばれたのは、2021年リリースの12枚目のアルバム『INNOCENCE』でラストを飾った「ファンファーレ」だった。大木は"意外だった"と述べていたが、近年のアルバム曲が人気を集めているのは、ACIDMANが絶えず魅力を放っている証拠だ。大団円感も漂うなか、3人はギアチェンジをして終盤戦へ。イントロから観客が拳を突き上げた「輝けるもの」では佐藤が前に出て、動きも激しくなっていく。浦山が踏み鳴らすバス・ドラムのリズムに合わせて、自然とクラップが湧き起こった。佐藤のベースが唸った「造花が笑う」ではコール&レスポンスでさらなる一体感が生まれ、「ある証明」では大木の"思いっきり叫ぶぞー!"の声を合図に観客の心からの"イェー!"がこだまする。そして、"最後まで生きよう。1人でも多く人を許して、1人でも多くの人を愛していってください"と本編ラストの「ALMA」でACIDMANは観客と約束。再びミラーボールがきらめき、星形の紙がひらひらと舞い落ちる幻想的な雰囲気の中、3人は1度ステージを後にした。

アンコールで再び登場すると、ニュー・アルバム『光学』から先行配信されていた「feel every love」を初披露。ストリングスに総勢20人のゴスペル隊も加わった多幸感溢れる一曲で、大木が"1つになろう"と歌うと会場全体に笑顔が伝播し、愛で充満したような温かな空気に包まれた。ラストはお馴染みの「Your Song」。コール&レスポンス"You're okay=あなたは大丈夫"の言葉で互いに背中を押し合い、明日を生きる力を貰って、ライヴは幕を閉じた。エンドロールで、ニュー・アルバム『光学』を引っ提げたツアー[ACIDMAN LIVE TOUR "光学"]の開催を発表。今度のファイナルは、千葉 幕張メッセだ。大木は今回のライヴ終盤、観客、スタッフへの感謝と共に"ここで満足しているわけじゃない。もっともっと上に行き、もっともっといろんな人にこの想いを伝えたい"とも語っていた。新たな旅路の先でどんな景色を見せてくれるのか、期待が高まる一夜となった。

[Setlist]
1. world symphony
2. 夜のために
3. FREE STAR
4. 式日
5. スロウレイン
6. 白と黒
7. リピート
8. sonet
9. 季節の灯
10. 愛を両手に
11. 世界が終わる夜
12. 風追い人(前編)
13. 廻る、巡る、その核へ
14. ファンファーレ
15. 輝けるもの
16. 造花が笑う
17. ある証明
18. ALMA
En1. feel every love
En2. Your Song

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