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LIVE REPORT

Japanese

チーナ×チーナフィルハーモニックオーケストラ

Skream! マガジン 2017年04月号掲載

2017.02.25 @代官山UNIT

Writer 石角 友香

昨年12月に2ndフル・アルバム『PULL』をリリースしたチーナのツアー・ファイナルは、デビューEP『PUSH』を同日リリースしたチーナフィルハーモニックオーケストラとのスペシャルな"対バン"。UNITに足を踏み入れた瞬間から、ファンや知り合いなどすべての人が"自分ゴト"として、今か今かとライヴを待っているムードが漂っている。開場BGMにはツアーで対バンしてきたオワリカラ、東京カランコロンらの曲が流れ、それもツアーでバンドが経験してきた旅の充実度を物語っているようで、期待感がさらに高まる。

先手はチーナ。すでにフィルのセッティングもある程度された中に5人が登場するとぱっと見はこじんまりしているのだが、演奏が始まった途端、音のパースペクティヴの大きさに驚いた。しかもなんと1曲目はチーナフィルの『PUSH』に収録されている「はじまる」。フロアから"おおぉ!"と歓声が上がるのも納得だ。それにしても冒頭から目頭が熱くなる。何度も間違ったり転んだりしながら、それでも歩き続けてきた人すべてを肯定するこの歌の強さは、今のチーナのライヴのオープニングにぴったりすぎる。椎名杏子(Vo/Pf)は今、自分にもリスナーにも向けてこの歌を伸びやかに歌っている――演奏が終わると心からの拍手が湧き起こる。歌と演奏への心からの讃辞というものを久々に実感した。

歌詞がリアルタイムで聴き取れる強みは、曲調が変わっても威力は変わらず、HAPPY(Dr)が叩く変拍子が特徴の「いい人間になりたいよ」でも、まっすぐ届く。この曲ではビートと柴 由佳子(Violin)、林 絵里(Contrabass)の抜き差しもスリリングで、もはや楽器の種類がクラシカルだとかロックだとかの境界線をいい意味で失念するほどだった。さらに新作から、今、世の中がどんな状況でも、私、生きるのがわりと好きよ、そんなリアルで涙が出そうになる(個人的な感想ですが......)「世界が全部嘘だとしても」でも、楽器隊も演奏で"歌う"ような印象を持った。椎名が、彼女らしい言葉遣いの中でも誰にでもわかる平易な言葉で歌を書く覚悟を持ったことで、バンドはもちろんリスナーにも解像度高く歌が届き、気持ちが反応し合っているからこそ生まれる演奏だったのかもしれない。とにかく気持ちが巻き起こすグルーヴが半端じゃないのだ。

各地で対バンを迎えたツアーを振り返りながら、一度だけ柴が高熱を出し、インフルエンザか? という危機があったこと以外は、充実して楽しい旅だったことを椎名が話し、結論としては"健康が第一だろう"と気づいたツアーだと笑わせた。リーダー(Gt/microKORG)のフレージングがロック・バンドらしいニュアンスを出しながら、弦のふたりが軽やかさを表現し、椎名のピアニカ、そして音数が減る瞬間にダブっぽさも感じさせた「プールサイド」。椎名の弾き語りから始まる「キャラメルの包み」は、バンドで披露するのはこの日が初。リーダーの弾くベース、林のシンセがこの曲の歌詞やイメージを占める"海"感をさらに増幅。チェンバー・ポップ的な編成とは違う空間を作って、それもまた秀逸だった。

メンバー各々がツアーを振り返ってのMCでは、各地の対バンで、ただ各々が演奏しただけでなく、チーナの曲で競演の渡辺シュンスケ(Schroeder-Headz/cafelon)にピアノを弾いてもらったり、最終少女ひかさにはラップで入ってもらうなど、濃厚なツアーが想像できるエピソードが満載。単にバンドと仲良くなるというより、今チーナ自身が、音楽が楽しくてしょうがないからこそ、競演したバンドもその磁力に吸引されたんじゃないだろうか? と感じた。終盤は前作『DOCCI』収録、最近のライヴでは久々の披露となった「コロファリオ」で、ピアノもヴァイオリンもループするダイナミックな演奏を聴かせ、ラストは椎名の大きなうねりのあるピアノが五臓六腑に響き渡るイントロから始まる「おへその目指す方へ」。彼女のピアニストとしての力量、のびのびとそれを表現させるメンバーの包容力のようなもの。いいバンドの定義はないけれど、遠慮はないが、愛はある。それがひとつの定義かもなぁ、と思う素晴らしい内容だった。

転換時には、チーナフィルのレコーディング映像が流れ、特にコーラスを指揮する椎名の奮闘ぶりには見入ってしまった。

さて、後攻はもちろんチーナフィルハーモニックオーケストラだ。UNITのステージに総勢15名、チューニングからそのままメンバーはステージにスタンバイ。暗転し、ほのかに明るくなったステージで演奏が始まる。ヴァイオリン2挺とヴィオラのアンサンブルから始まる「アンドロイド」で、すでに鳥肌モノだ。チーナの曲をフィル・アレンジした「わりとみにくいアヒルの子」では、オーケストラの四つ打ちナンバーという、レアな演奏も実現。ストリングス、ホーン、アコーディオンなど、人間のちょっとした手加減、息遣いが作り出すグルーヴというものが、ひとつの曲でひとつの生命体のように動き出す迫力を、しかもライヴハウスのキャパシティで体感することがこんなに楽しいなんて。きっとフロアにいる人みんながそういう顔をしてたのだろう。どんどん演奏が豊かに、ダイナミックになっていく。

完全にオーディエンスもフィルの仲間と化したのは、マリアッチ風のハンドクラップも起こった「四面楚歌」。演奏も素晴らしいが、オーディエンスも素晴らしい。そして人力トランス的な「boy」は、リズム・パターンでいうとセカンド・ラインのノリを感じさせて、ますます会場の一体感が増していく。そして、ほしやまかなこのハープが魔法的なまでにその場の空気を変える「紙ひこうき」は、アンサンブルとしては非常にシンプルで、椎名のヴォーカルにフォーカスがあたる楽曲。賑々しい楽団としてのチーナフィルの中では深遠なムードの漂う曲をライヴでも披露してくれたことも、今の椎名のチャレンジングな姿勢を物語っていた。

そしてEggsサポートを得て、レコーディングにファンなどの一般リスナーもコーラス参加した、その名も"コーラス讃歌"に対する感謝の気持ちを椎名が伝え、"ライヴでコーラスすることで、「コーラス讃歌」は完結するということで。何のことかわからない人も、今からやるコーラスに参加してください。できるだろ!"と、簡単にお手本&練習をして、いざ「コーラス讃歌」がスタート。いやもう、このときのオーディエンスの"オーオオ、オーオオオ~"のコーラスというか、シンガロングが演奏と一体化したときの心地よさったらなかった。しかも歌詞は"私は歌う、私は歌う、歌わずにいられない"である。世の中がひっくり返ったり、いきなり自分の思うように物事が運ぶかどうかはわからない。でも"歌わずにいられない"、そんな背景を持った歌だ。オーディエンスのコーラスがステージにどんどんエネルギーを送り込み、演奏もリアルタイムで育っていく。エンディングとともに見知らぬ人とハイタッチしたいような気分だった。あとから曲を聴いても泣けるほど。

終盤はストリングス隊がさらにエネルギッシュに躍動する「蟻の行進」、ラストはなんとなく想像していたが、チーナのオープニングに配置した「はじまる」をチーナフィルでは最後に持ってきた。ゆっくり行進するようなストリングス・リフ、まさにファンファーレのようなホーン隊、呼吸するようなアコーディオンに、彩りを加えるスティールパン。どこか懐かしい日本的なメイン・テーマが、土着的なムードもあるこの曲の人を肯定する力強さは、前半のチーナのオープニングから始まり、フィルのラストも飾ることで、この日のライヴ、ひいては今回のツアーの意味を象徴していたのではないだろうか。"はじまる、はじまる、何度も、何度も"と心の中で歌っていると、チーナの前向きな覚悟がより"自分ゴト"化されていた。ライヴを観ているという物理的な状況を超えて、何か自分も歩き出した体感を持っていたから。

自然と湧き起こるアンコールに応えて、フィルのメンバー全員が再登場。そこで椎名が、ニュー・アルバムに至るまでの不安を話し、しかし勇気を出して人の助力も得て実現した「コーラス讃歌」について、"一緒に歌えて本当によかった"と、一歩踏み出した人ならではの晴れやかな笑顔を見せてくれたことも心に残る。

アンコール1曲目は、ハープとピアノが切なさを醸す演奏で、思い出を箱に閉まって鍵をかけると歌う、女性から特に共感度の高い「それでそれから」。一転、賑やかな夜に相応しい「乾杯の挨拶」で幕を閉じた。それでも止まらない拍手と歓声。まさにこのツアーのファイナルは、チーナにとっては始まりの日でもあった。

[チーナ Setlist]
1. はじまる
2. いい人間になりたいよ
3. 世界が全部嘘だとしても
4. プールサイド
5. ラスト15分
6. キャラメルの包み
7. 魚
8. コロファリオ
9. おへその目指す方へ

[チーナフィルハーモニックオーケストラ Setlist]
1. アンドロイド
2. わりとみにくいアヒルの子
3. 四面楚歌
4. boy
5. 四丁目ファンタジー劇場
6. 紙ひこうき
7. コーラス讃歌
8. 蟻の行進
9. はじまる
en1. それでそれから
en2. 乾杯の挨拶

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