Japanese
FLiP
Skream! マガジン 2014年12月号掲載
2014.11.15 @代官山UNIT
Writer 沖 さやこ
夏にレーベル移籍を発表し、「MADONNA」を配信リリース。そして同曲含む3曲入りシングル『GIRL』を世に放ったFLiPが、東名阪ツアーを開催。名古屋にはtricot、大阪にはテスラは泣かない。、を招いて開催され、最終日となる代官山UNITではワンマン・ライヴ。第2章へと突入したFLiPが、新旧織り交ぜたセットリストで魅せたこの日のライヴは、改めて腑に落ちる内容だった。現在の彼女たちが過去の曲を演奏しても乖離した印象はないし、新曲と過去曲の親和性もいい。やはりFLiPはキャラクターを変えたわけではなくて、すっぴんを見せられるようになっただけなのだ。
場内が暗転すると、電話の呼び出し音が鳴り響き、外国の男女の会話が流れる。「GIRL」の歌詞と同じシチュエーションだ。すると浮遊感のあるインストから鼓動の音へと繋がり、その速度は徐々に速まってゆく。Yuumiの高らかな"ワン、ツー!"のカウントとドラムから、1曲目は彼女たちの新たな一歩でもある「MADONNA」。筆者が彼女たちのライヴを観るのは昨年の夏のLIQUIDROOM ebisuでのワンマン・ライヴ以来だったので、まずセットが変わっていることに驚く。下手からギターのYuko、シンセも携えるSachiko、一歩下がったところにベースのSayaka、上手にYuumi。4人のコーラスと重なるフロアのシンガロング、Sachikoは途中ハンドマイクで歌うなど、4人の顔が並んで見えるというセットは、クリアになった本人たちのマインドともリンクしていてとても風通しがいい。続いては2012年シングルとしてリリースされた「ワンダーランド」。筆者のいたフロア後方からも力強いシンガロングが沸く。もともとポジティヴなエネルギーのある曲だが、この日は開放感が格別で、現在の彼女たちの体幹でもってアップデートされていることを痛感する。
シンセを鳴らしながら"踊る準備はできてますか?"とSachikoがフロアに呼びかけるとニュー・シングルから「BURROW」。ひりついたYukoのギターに、Sachikoの奔放なシンセ、小柄な体で太いビートを作るYuumiとそれを支えるSayakaの低音。4人が4人の呼吸を楽しみながら音を鳴らす。1年前は高い位置から観客を引っ張り上げるように音を鳴らしていた印象だった彼女たちだが、この日は観客と同じ目線に立ち、観客とのアンサンブルも楽しんでいるようだ。しなやかで逞しい。トランス状態を生んだ「YUKEMURI DJ」はSachikoのヴォーカルも表情豊かに突き抜け、不思議な世界へと足を踏み込んだような胸騒ぎを生む。女性として年齢や経験を重ねた体から生まれる、虚勢ではない、肝が据わったからこその強さと色気だ。
MAROON5の「Payphone」のカバーは歌い出しからSachikoの声には尊敬の念とこの曲への愛が溢れていた。英詞だが彼女は間違いなく歌詞の内容もしっかり理解してひと言ひと言を刻んでいる。小手先のカバーなどではないプロフェッショナルな仕上がりに、大きな拍手が沸いた。開演前のBGMもアメリカのビルボード・チャートを賑わすロックやポップスが多く流れており、彼女たちの音楽愛が明確に出た一幕だった。巧みにシンガロングとクラップで「Raspberry Rhapsody」へ繋ぎ、そのあとは5曲をメドレーで披露。新しい楽しみを見出すために、わかちあうために様々な工夫を盛り込んでいく彼女たちを見ていて、口角は上がりっぱなしだ。そう、自然と笑顔になってしまうほどにあたたかい空間なのだ。FLiPの音楽をこよなく愛する心と観客への感謝とエンターテイナーとしての自覚、観客のFLiPの音楽への愛情、すべてが赤裸々だった。
"過去も未来も今も、全部を集約した楽しいツアーにしたかった"と語るSachiko。彼女が真っ赤なエレアコを抱え、Yukoのブルージーなギターが感傷的だった「darkish teddy bear」、Yukoがアコースティック・ギターを用い、Sachikoが切なく歌い上げた「Butterfly」と、特に弦楽器隊のYukoとSayakaの表現力の進化は目覚ましく、Sachikoの歌と楽曲の持つ可能性を自身の旋律で拡張してゆく。
バラード・セクションを終えると、お蔵入りになった別ヴァージョンのイントロを初披露した「二十億光年の漂流」、歌謡メロが際立つ「Oh Darling!」、シンセを入れた「カザーナ」、曲間で4人でリズム・セッションを行い、パワフルなコール&レスポンスも圧巻の「平成ジュラシック」とアッパーな楽曲で畳み掛け、本編ラストは"これが今、FLiPが1番見せたい顔です"とSachikoが告げて「GIRL」。新旧織り交ぜたセットリストの最後にこの曲を聴き気付いたことがある。それは「GIRL」が現段階で最もSachikoの声をヴォーカリストとして、女性として映えさせるメロディということだ。滑らかで美しく響く。音楽を、歌を何よりも愛する彼女は、この先きっともっと素晴らしいメロディを作り出すだろう。"過去"と"今"を極上に届けてきたFLiPから"未来"が花開いた瞬間だった。純粋に音楽そのものを楽しむ心の余裕ができたからこそ迎えられた第2章は、まだまだ始まったばかり。彼女たちの物語は可能性に満ち溢れている。
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