Japanese
浅井 健一
2009.06.28 @昭和女子大学人見記念講堂
Writer 佐々木 健治
開演30分ほど前に昭和女子大学人見記念講堂に到着すると、雨が降りしきる中、多くのファンが列をなしていた。普段はクラシック・コンサートや演劇がメインとなる全席指定のこの会場でどのようなライヴを行うのか、集まった人々の期待もかなりのものであっただろう。
さて、最初から話が少し逸れて申し訳ないが、50代くらいの男性のロック好きの方とお話をした時に「今のライヴはけしからん!」という話になった。何がどうけしからんのかを訊ねると、「昔は皆席に座ってじっとライヴを聴いて、それでもやっぱりじっとしていられなくなって、我慢の限界というところで皆が立ち上がるのがいいんだ!」と。
時代を感じますね。でも、そういうライヴの見方も面白いかもなと感心したものだが、さすがに生まれてこの方、スタンディング・ライヴに馴れきっているし「このご時世にロックでそれはなかなか難しいですよ。立って踊っていた方が楽しいじゃないですか。」と話は平行線を辿った。
椅子に座ってライヴを観たのは、去年、丸の内のコットンクラブという高級ライヴハウスにチケットが余ったからと連れて行ってもらったのが最後だ。楽しかったけど、ロックじゃないし、あれはもう「音楽鑑賞」だからな。ちょっと今回とは意味が違う。
で、その前は2006年のTHE ROLLING STONESの来日公演だ。まあ、当然立って観ていたけど。座ってなんていられないでしょう。一緒に行った奴なんて、2階席からステージ脇まで突進して行ったし。
という訳で、今回の人見記念講堂という環境で行われる浅井健一のライヴ。どういう反応をお客さんが見せるのかにも注目していた。例えば、野音とかとはまた場所が違うから、最初は座って観たりするのではないかと思っていたのだ。それはそれで新鮮な楽しみ方ができるんじゃないかと。
会場に入り、正面のステージを見ると特に装飾もなく、バンド・セットが組まれただけのシンプルなもの。
しばらくしてから客電が落とされ、SEとともに浅井健一が登場すると、それまでは席に座っていた一階席の観客のほとんどが立ち上がり、大きな歓声とともにベンジーを迎える。
・・・そうだよね。そりゃ、座ってなんていられないか。僕の愚問には一瞬で答えが出てしまった。
さて、本題に入ろう。
暗闇の中、スポットライトに照らされたベンジーが「2人の旅」を歌いだす。どこか憂いを帯びたベンジーの歌声とヴァイオリンが醸し出す緊張感が場内に伝染していく。
ライヴ序盤で特徴的だったのは、ドラムが前面に出た演奏。ギターでもベースでもなく、その場の空気を張り詰めさせるような硬質なドラムがバンドを引っ張っていく。
「ヘッドライトのわくのとれかたがいかしてる車」の持つスリリングな緊張感は、まさにその序盤を象徴していた。(個人的に大好きな曲なので、この曲をやってくれたのはとても嬉しかった。)
続いて、「チェリオメアリー」、ツインギターとヴァイオリンが絡み合う「RUSH」とヘヴィなベースがうねるグルーヴ感のある楽曲へ。そして「ライラック」をベンジーが歌いだした瞬間に、会場の空気が最初の沸点をむかえる。
「ライラック」の爆発的なアウトロが終ると、「サンディ」から「僕は愛する為に生きるんだ」と歌う繊細なバラード「新しい風」、アコギに持ち替えての穏やかな新曲「FRIENDLY」「大きな木」「哲学」とテンポ・ダウンしつつ、序盤の張り詰めた緊張感から新曲「FRIENDLY」に代表される、優しい表情へとゆっくりその世界観を変化させていく。
ベンジーとヴァイオリン岡村美央二人での「哲学」は、この日のライヴに様々な表情を加えていた岡村美央の表現力の幅広さが際立っていた。
「SPRING SNOW」では、先ほどまでの硬質なビートではなく、柔らかく刻まれる8ビートを刻むドラムも印象的。
しっかりとした流れを作りながら世界観を変化させていくこの日のライヴの核とも言えるのが、新曲を中心に据えたこの中盤だったと言えるだろう。ファンタジーの世界で愛と平和を表現するだけではなく、どちらかというとシンプルな言葉で愛と平和を歌う今のベンジーの声は、とても穏やかで優しい。
「愛のChupa Chups」からはギアを入れ替え、「危険すぎる」での熱狂までロックンロールで突っ走る。
「ロバの馬車」を挟んでの「ディズニーランドへ」、そして軽やかな「Pola Rola」が終ると、大歓声の中バックに星空が浮かび上がり、本編が終了。
ロックンロールの持つ爆発的な高揚感が物語の緊張感を保つ為に配置された構成に加え、まるで物語の中で登場人物が変わるように楽曲によって個々のプレイヤーに焦点を当てていくことで、ライヴに確固とした起伏を与えていた。そして、それに応える確かな技量と表現力を備えたバンドも素晴らしかった。
ロックンロールで物語を紡いでいった2時間ほどの時間は、全く長く感じられなかった。もちろん、観客からはベンジーとバンドを称えるアンコールの拍手が鳴り響く。しっかりとした物語性のあるライヴだっただけに、アンコールはないんじゃないかと思っていたが、最終的には2回もアンコールに応えたベンジー。
その楽しげな様子が伝わってくる姿が象徴するように、とても内容の濃いライヴだった。
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