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INTERVIEW

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Member:木囃子(Gt/Vo)

Interviewer:五十嵐 文章

-3曲目「遅咲きの花」の"憧れたのは遅咲きの花 血反吐はいて歌うその姿に/間違いを重ねた命も いつの日にか愛せるように"というフレーズが好きです。青臭く臨場感のある描写の歌詞になっていますが、木囃子さんご自身の体験がもとになっているのでしょうか。それとも、何か架空の物語をイメージされているのでしょうか。

実体験ではありますね。自分が憧れた人は、勝手な意見かもしれませんが、遅咲きの方でした。今まで"年齢"という概念のもと、目標への分岐点を幾度となく重ねてきました。そのたびに命を終わらせることなく、血反吐を吐いてでも、惨めな日々を過ごしてでも、生き続けたからこそ歌い続けている、そんな姿にしっかりと選択の影響を受けてきました。それでも淡白なことを言うと、おそらく世に存在する、天才や圧倒的カリスマにはかなわないのだと思うんです。それは未だに疑えないんです。そんな側面も持っている自分だからこそ、未だに自信のない自分をなんとか信じて、傷だらけで歌い続ける憧れの人の姿に感銘を受けてこの曲を書きました。自分に向けての言葉、という意味合いも強いです。まだ先は見えないし、同年代でデビューして、自身の信じる仕事を務めて、家族ができて、いろいろな形で着実に認められていく人を見ていて、投げやりになってしまうことも多いので、生きて歌い続けるためにこの言葉を歌っていくつもりです。

-4曲目の「トリアージ」ですが、タイトルがとても印象的でした。もとは医療現場での専門用語のようですが、どのような意味合いを込めて付けられたものなのですか?

大きな災害や、医療ドラマなどでご存知の方も多いと思います。特に今の時期はテレビでもよく耳にしますね。なので意味はあえて説明する必要もないと思うのですが、この言葉を意識したときに、インターネットで常時交わされる、デジタル化された言葉について考えました。誰かが呟いた言葉の真意って本当に受け取るのが難しくて、今となってはポップに"死にたいくらい~"とか使うじゃないですか。そんな言葉が呼吸をするように次々呟かれて、タイムライン上に溢れたときに、本当に縋るように絞り出した最期の言葉も、あっという間に同列に流れて消えてしまうのだろうなと思って、怖くなりました。言葉の価値に対するトリアージという意味です。自分にできる程度の救いなど必要としない人は多いとは思うのですが、その中に言葉を受け取ってくれて、求めてくれる方々がちゃんといるのだということも、音楽活動を続けていくなかで知りました。大したキャパシティもないので、みんなを守るロック・ヒーローにはなれないかもしれないけれど、せめて必要としてくれる人を掬い取れるようになるために、この命と言葉を使いたいなと思っています。その大切な人たちを探すためのトリアージ。それがこの曲です。

-5曲目「ビニール傘越しに観た世界で」では、自分が住む街への愛着と嫌悪が描かれた歌詞に胸が苦しくなりました。制作の経緯などうかがいたいです。

私は東京で生まれて東京で育ったのですが、故郷愛というものに乏しいです。東京生まれの方には当たり前の感覚なのかもしれませんが、同郷の絆だとか、故郷に感じる独特の安心感とかがないです。一時期音楽活動休止をしてアメリカに渡り、そこで生活をしていたことがあるのですが、やはり現地の日本人コミュニティというものは存在していて、日本人である以上自然に関わる機会はあって、その中で会話をするときに、出身の話って絶対出てくるんですよね。それで同郷だったらすごく仲良くなってたりとか。自分はそういうものもなくて、故郷で自慢できるものとかもわからなくて。たぶん愛せるほどの新鮮味がなくて、でも嫌いになるほど知らないんだなと。そのコンプレックスに似た感覚に気づいたときに書きました。雨をテーマにしたのも、唯一濡れた東京の街並みは嫌いじゃなかったからだと思います。どの街で生まれたとしても、そういう近い感覚ってあるんじゃないかなって思うので、それぞれの人生に変換して聴いていただけたら嬉しいです。どうであろうと、愛せても愛せなくても、生まれた街はひとつ。その人が生きてきた証が刻まれているのだとは思います。

-ラスト・トラックの「ターミナル」は、痛切な歌詞もさることながら浮遊感のあるサウンドがとても美しいです。サウンドにおいて、特にこだわった部分や思い入れの強い部分などありましたら教えてください。

自分は定期的に自分の最期に聴いていたいなと思う曲を書く癖があって、前アルバム『farewell note.』(2017年リリース)では「最期の唄」という曲だったのですが、この「ターミナル」という曲もそういう曲になりました。終着駅として、自身が辿り着いた先で、自分が思うことはなんなのだろう。もしそれが、言い聞かせるような"正しかった"ではなくて、泥にまみれた"間違いじゃなかった"だったら、生きた意味があったのではないか? そんな思いを込めて描いた曲です。今回のアルバムについては、サポート・メンバーが新体制になり、レコーディングから積極的に参加してもらったということもあり、バンド・サウンド意識が強いアルバムになったなという印象なのですが、感想をいただいた通り、バンドにこだわったサウンドというより人生で鳴っていた音をすべて詰め込んだという感覚が強いです。ドラムも素材で別で録って重ねたり、自由度が高い楽曲です。1サビ後のオーケストラ・セクションのアレンジには、私の幼馴染みの親友であり、今レーベルとして一緒に活動している、"さなぎ"というユニットのアレンジャー、大将に参加してもらいました。印象深いそのセクションと、ラスサビからの疾走感のあるセクションが自分にとっては思い入れが強い部分ですね。総合して、新体制チームとして綿密に組み上げた、そして今後もずっとこうやって行けたらいいなという一歩になった曲でもあります。

-アルバムを通して聴くと、木囃子さんご自身の死生観のようなものが見えてくるような気がしました。普段から楽曲にそのような事柄を意識的に反映するようにしているのでしょうか。また、これまでの人生の中で作詞に影響していると感じている体験などもありましたら教えていただきたいです。

あまりとらわれずに、マルチな視点で世界を描きたいとは思っていますが、やはりおっしゃる通り、中心にあってブレずに表現していたいのは、命について、始まりと終わり、そしてふたつの点を繋ぐ人生という線についてです。まだ、偉そうにすべてを表現できるほど生きられていませんので、現在地におけるその都度の自分の答えというものを歌詞に反映しています。故に、毎回少しずつ確かめながら歩みを進められていると思いますし、この先自分の終わりまで、そこだけは貫いて生きたいと思っています。今通り過ぎたこの1秒も影響を受けた体験ですので、すべてに影響を受けているという答えになってしまいますが、強いてあげるとすれば、10代の頃より、バックパッカーのような旅を続けてきたこと、旅先で触れた人たちの生き方は強く残っています。

-今回のアルバムについて、このような人に聴いてほしい、届いてほしい、などの想いはありますか?

ミュージシャンとしてはそれではいけないのかもしれませんが、個人としては、自信を持って誰かの中に存在したいと願うことができない人間です。なので、必要としてくれる方にちゃんと届くのであれば、それ以上の幸せはないと思っています。ただ、今ひとりではなく、信頼できるチームができたので、その部分に関しては、少しだけ自慢ができるなと思っています。バンドとしては、胸を張れる作品になったのではないかなと思っているので、期待していただけたら幸いです。制作が進むうえで、幾度となく楽曲を自分でも聴いてきましたが、早く聴いてほしいな、と心から思える作品を作ることができました。

-今後このようなアーティストになりたい、このような活動をしていきたいなど、将来像や目標などを聞かせていただきたいです。

メジャーに行きたいだとか、武道館で演奏したいとか、ないと言えば嘘になるのだと思いますが、正しい表現を使わせていただくとするならば、楽曲が持つ救う力を、最大限に引き出せる形で表現できるぐらいには、たくさんの方に聴いていただけるようになりたいなと思っています。期待をしてくれているチーム・メンバーもできましたし、少しずつ待っていてくれているファンの方も増えてきていると思っているので、恩返しができるように頑張ります。ある程度の規模がないとできない演出だとかもたくさんあるので、自身の未熟さが求めている表現の足枷にならないように少しでも大きく、前に進みたいです。

-その目標へと向かっていくために、活動の中で意識していることなどがありましたら教えてください。bookmanの活動に関してでも、シンガー・ソングライターとしての活動に関してでも構いません。

今できることを真摯に。精神状態が強く影響してしまうので、また、強い人間ではないので、自身と、自分の周りにいてくれる人たち、自分を好きでいてくれる人たちを最大限愛せるようにしていこうと思っています。ご質問の意図と少し違うかもしれませんが、心で歌う以上、プライオリティはそういう部分な気がします。具体的なお答えじゃなくてすみません。今この状態なので、なかなか難しいですが、現在地のご報告の場として、ライヴはやりたいですね。そう思えるようになったこともひとつの成長だと思います。お会いできることを楽しみにしています。

-最後に、今後の活動においてリスナーに注目してほしいこと、伝えておきたいことなどありましたらお願いします。

嘘をつかないように、それだけは忘れずに生きていこうと思います。それぞれの人生がそれぞれの場所で交差していくなかで、少しでも自分の言葉、音楽が、あなたの中に存在できたら嬉しいです。何事も続けていくことは大変消耗することではありますが、それでも歌い続ける意味が間違いなくあるのだと信じています。