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Orangestar

2023年09月号掲載

Orangestar

Writer : 高橋美穂

バンド・サウンドもEDMも軽やかに行き来しながら表現する――等身大の葛藤と共鳴のメッセージ


ボカロPであるOrangestarが、8月30日に3rdアルバム『And So Henceforth,』をリリースした。アルバムがリリースされるのは、2017年1月の2ndアルバム『SEASIDE SOLILOQUIES』以来、実に約6年半ぶり。その間も、"カロリーメイト web movie"となった「Surges (feat. 夏背 & ルワン)」(2,450万再生/以下再生回数すべて8月末時点)など、次々にミリオン再生楽曲を生み出し続けており、YouTubeチャンネル登録者数は約89万人に上る。

Orangestar - Surges (feat. 夏背 & ルワン) / カロリーメイト web movie


そんなOrangestarが動画投稿サイトに初投稿したのは2013年のこと。当時アメリカ在住であり、弱冠16歳だったが、瞬く間に「アスノヨゾラ哨戒班」(5,080万再生)、「イヤホンと蝉時雨」(541万再生)、「空奏列車」(894万再生)などを発表し、それらを含めた全15曲を収録した1stアルバム『未完成エイトビーツ』を2015年4月にリリースする。

2017年1月には、2ndアルバム『SEASIDE SOLILOQUIES』をリリース。収録曲「Alice in 冷凍庫」は2,273万再生、「DAYBREAK FRONTLINE」は4,849万再生を記録している。こうしてボカロPとして確固たる地位を築きながらも、2017年8月31日に「快晴」(1,668万再生)を投稿したのち、Orangestarは2017年から2019年までの約2年間、南カリフォルニアに渡り音楽活動を一時休止する。

2019年に帰国してからは、2020年4月に「Sunflower」(540万再生)、5月に「Henceforth」(2,041万再生)を投稿し活動を再開。2022年8月5日には、5年ぶりであり、自身2回目となるワンマン・ライヴ"Orangestar ONE MAN LIVE UNDEFINED SUMMER-NOISE"を東京ガーデンシアターで開催した。当初は東京 チームスマイル・豊洲PITでの開催が予定されていたが、チケットの申し込みが予想を大幅に上回ったことから、最大収容人数が約8,000人の東京ガーデンシアターに会場を移したことも、大きな話題を呼んだ。

Orangestar - Henceforth (feat. IA) Official Video


そして、このたびリリースされる『And So Henceforth,』は、前述した「快晴」、「Henceforth」、および「Surges (feat. IA & 初音ミク)」、そして"プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク"提供曲「霽れを待つ」といった、すでに発表されている楽曲のほか、ワンマン・ライヴ"UNDEFINED SUMMER-NOISE"で初披露した「Aloud (ASH ver.)」や、新しくアレンジされた「ノクティルーカ (ASH ver.)」、そして多数の新曲を含む全12曲を収録している。ここからは、収録順に1曲ずつ解説していこう。

オープナーの「Henceforth」は、前述したように2020年に活動再開の狼煙を上げたナンバーで、Orangestarの節目を刻んだ楽曲であり、今作の1曲目に相応しい。"あぁ 君はもういないから/私は一人歩いている"というやるせない歌い出しが、ハンドクラップしたくなるフレーズや高揚感のあるメロディによって、サビになると"あぁ! 夏を今もう一回/君がいなくても笑って迎えるから"という、ハイトーンの強い決意に変わる。同じ"あぁ"でも、響き方がまったく違うのだ。さらにサビは"だから今絶対に君も歩みを止めないで"という呼び掛けへと繋がっていく。もしかしたら、活動再開のタイミングで自分自身に発破を掛ける意味合いもあったのかもしれないが、それとともに、Orangestarの大きな影響力を自身が自覚し、"今の自分だからこそ、リスナーに向かって発することができるメッセージ"としてこの楽曲を作り上げたんじゃないのだろうか、という想像も湧いてくる。

「Surges」は、ハイトーンのサビと畳み掛ける歌という、ボカロの強みを存分に発揮した楽曲。その曲調は"僕たちの"最高"を目指して征け"という一節に終結する"最高"という感覚を、見事に表現している。さらに、これもハンドクラップしたくなるビートが織り込まれており、歌詞にもちりばめられている"僕たち"の歌という実感を高めてくれる。

Orangestar - Surges (feat. IA & 初音ミク) Official Video


「滑走」は、ピアノのきらめきが美しいインストゥルメンタル。基本的にはリフレインなのだが、終盤に向かってふわりと飛び立つような感覚を与えてくれる。 「霽れを待つ」は、軽やかでキャッチーな曲調とは裏腹に"君がいなくなったら あぁ/私だけ生きて行くの?"という切実な問い掛けが胸を打つ。タイトルの"霽れ"(読み:はれ)は、よく使われる"晴れ"とほぼ同じ意味だが、"雨が降り終わる"という前提がある。細やかなこだわりからは、Orangestarが大切にしているものが見えてくるようだ。

Orangestar - 霽れを待つ (feat. 初音ミク) Official Video


「白南風」は、ピアノ・ポップの入り口の広さとエレクトリックな高揚感を絶妙にミックス。高すぎるサビと"僕らは空に溶ける"という一節がマッチし、どこまでも上っていけるような気分になるナンバーだ。
「Pier」はリード曲。ノスタルジックなメロディとスタイリッシュなトラックが耳を埋め尽くしていく。ダンサブルでありながら、確かに歌モノ。踊りながら"私の世界"を噛みしめることができる。

「Skywards」も「滑走」と同じく、ピアノとビートで形作られたインストゥルメンタル。今作の物語を、インストがより豊かに膨らませていることは間違いない。
「Artificial Light」は、軽やかなビートとエレクトリックな質感が心地いい。ライヴで聴いたらきっとハンドクラップしたくなるEDMながら、"「生まれる前から、」"という深い歌詞が乗る。この一節の"、"が意味するものについて、思考を巡らさずにはいられない。

「MOON-VINE (ASH ver.)」は、印象的なリフに身を任せているうちに、切なさが募ってくるナンバー。歌い出しが"降り出した雨の音"、締めくくりが"止み出した雨の音"と変化がありながら、どちらも"泣いている"に結実している。同じ"泣いている"ながら、1曲の中で変化する涙の意味合いにも注目したい。
「Aloud (ASH ver.)」もリード曲。ギターが引っ張っていき、ベースの見せ場もある、バンド・サウンドのロック・チューンだ。今作で、ほかの楽曲でも活躍している遼遼(Gt)、pino(Ba)のアンサンブルが冴え渡る。そのサウンドに相まって"僕を空っぽにした"という歌詞が、焦燥感や虚無感を際立たせる。ライヴのセットリストに加わっていたら、きっとオーディエンスの心身を解放させてくれることだろう。

「ノクティルーカ (ASH ver.)」も、遼遼やpinoに加えて、もやし(Gt)、ナサガシ(Key)、初穂(Dr)から成るバンドで演奏されたナンバー。"不甲斐ないまま夜の雑踏へ身を詰め込んだ終電/このまま海へ向かえ下れ東海道線/理由なんて要らぬだろう"という、具体的な名称も織り込んだエモーショナルな歌詞が、臨場感たっぷりで共鳴を呼ぶ。

ラストは「快晴」。これも演奏に、遼遼、pino、もやし、そしてYouli(Dr)が加わっている。終盤にロック・チューンを畳み掛けてくるところに、Orangestarのバンドに対する憧れが窺える。そして同時に、ライヴを思い浮かべながら今作の流れを組み立てたように想像してしまう。実際に、昨年行われたワンマン・ライヴ"UNDEFINED SUMMER-NOISE"では、本編ラストを飾っていたこの楽曲。"いつか君と/また笑えますように"というのは、まさしくリスナーに対するメッセージではないか。
1stアルバム『未完成エイトビーツ』から担当するM.Bが手掛けたジャケット・イラストも、とても鮮やかでリアル。リスナーが自分自身を投影しやすい、等身大の世界観をアーティスティックに昇華した今作は、Orangestarの表現をますます世の中に広めていくに違いない。

Orangestar - 快晴 (feat. IA) Official Video



▼リリース情報
Orangestar
3rd ALBUM
『And So Henceforth,』

PCCA-06218/¥3,080(税込)
amazon TOWER RECORDS HMV
[PONY CANYON]
NOW ON SALE

1. Henceforth
2. Surges
3. 滑走
4. 霽れを待つ
5. 白南風
6. Pier
7. Skywards
8. Artificial Light
9. MOON-VINE (ASH ver.)
10. Aloud (ASH ver.)
11. ノクティルーカ (ASH ver.)
12. 快晴

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