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Maica_n

 

Maica_n

Writer 石角 友香

"#この子、なにもの?"――このキャッチコピーを目にしたことがある人も多いだろう。このキャッチから果たして人はどんな印象を持つのだろう。リスナーの数だけその印象があると言ってもいいぐらい、様々な表情やキャラクターを持っているのがMaica_nというアーティストだと思う。筆者が彼女に出会ったのは、初めはヴィジュアルだった。2020年のSpotify"Early Noise"に選出された彼女はそのプレイリストのカバーを務めており、そのジェンダーレスな佇まいへの興味で、レコメンドされていた「Flow」を聴くと、少しハスキー且つせつな苦しいようでいて濁りのない声と、軽快なポップスの中にR&B的な歌唱スキルも含んだメロディの展開に大いに掴まれたものだ。遡ってインディーズ時代のミニ・アルバム『秘密』を聴くと、シンプルなアレンジがヴィヴィッドな気持ちの揺れを際立たせる楽曲に惹かれた。実は想像以上に女の子と女性と言われる年齢の狭間で、誰もが体験しうるセンシュアルな表現もリアルなのに瑞々しく、音楽的にも歌詞のテーマ的にも360°興味のアンテナを立て、しかもそれを消化できるアーティストなのだなと直感した。

その予感は昨年リリースしたメジャー1st EP『Unchained』でさらに顕著になり、個性の強い女性シンガー・ソングライターを数多くプロデュースしてきた根岸孝旨をはじめ、ゲスト・ミュージシャンとして斉藤和義が参加。彼女にとっては親世代と言っていいほど大先輩との制作は最近のニューカマーとしては珍しく感じられるが、音楽的なバックボーンが父親の弾いていたTHE BEATLES「Blackbird」のギターのコピーであるとか、他にもTHE BANDやDonny Hathaway、Sheryl Crow、Rickie Lee Jonesといった60~70年代から今も聴かれ続けている洋楽だということを知ると、そのタッグの意味も理解できる。

ただ、海外のオーセンティックなミュージシャンの影響を受けていても、歌いたいことのテーマはあくまでも2000年生まれ。現在二十歳の女性らしい、生き方への迷いや恋愛の悩み、その渦中のスリリングな瞬間やドラマチックな表現もある。歌詞を共作もしくは依頼しているFaithという人物はアメリカ在住の共同製作者であり、互いに理解し合いながら、Maica_nからは出てこないワード・センスやストーリーを作っている印象もある。今回、さらに彼女の表現の幅を知ることになる1stアルバム『replica』で、キャラクターの正体不明さ以上に、ひとりの人間、アーティストとしてアウトプットの多彩さを実感することになった。理解し合えない悲しさに思い切り耽溺することもあれば、謎の多い恋の始まりを楽しむ感覚もあるし、偽物を見抜いて強くなっていく心もある。情熱的な側面だけではなく、日常的な家族の情景と心情もあるし、ひとり時間を部屋という自分の城で堪能する現在のZ世代らしさも窺える。音楽的にも乾いたアメリカン・ロック、ラテン・テイスト、ミニマムでオルタナティヴなトラック、アコースティック・ギターのストロークが気持ちいい曲など、実に多彩だ。アレンジがテーマを呼ぶこともその逆もあるのだろう。そういえば彼女のアーティスト・ネームの読み方は"マイカ"で"_n"は読まない。ニュートラルの"n"という意味を内包している。どんな自分の感情や感覚も、音楽的なジャンルも常にニュートラルでいたい。そこから自然に生まれる楽曲、それがその時のMaica_nだということだろう。"#この子、なにもの?"という疑問をあえて宙ぶらりんにして、素直に作品に触れることが謎を解く最大のキーだ。


Maica_n『replica』全曲レビュー

「Introduction~何者1」、「Outroduction~何者1」

多彩な楽曲が詰まったアルバムにはイントロダクションとアウトロダクションが設けられ、共通するビート、サウンド、リリックでループを成している。最初の扉が開き、閉じる前の鍵的なショート・チューン。

「Trio」

壊れてしまったメトロノームが速度が変わった各々の生き方のモチーフになっている、アイディア豊かな歌詞。それでも前に進もうとする気持ちを乾いたドライヴ感のあるアメリカン・ロックに乗せた幕開けの曲。

「How long」

少し不安定なコードやサビのメロディが、せめぎ合うセンシュアルな場面にフィット。ラップ調のBメロの韻の踏み方やワード・チョイスも効いている、生音ヒップホップ・ナンバー。

「la Sekirara」

Maica_nのせつな苦しい声質が活かされたマイナー~メジャー・キーを行き交うナンバー。月下美人、水晶などイメージを膨らませる日本語ならではの単語選び、ピアノとガット・ギターのアレンジも新鮮。

「Unknown」

震えるような繊細な歌い出しに引き込まれる王道のピアノ・バラード。徐々にストリングスやリズム楽器が追加されていくアレンジが美しくも悲しい。情景や温度が伝わるような歌詞にも注目。

「Missing angel (acoustic ver.)」

先行配信曲のアコースティック・バージョン。70年代のフォーク・ロック的なサウンドでありつつ、英語詞と日本語詞をスムーズにつなげるサビはスキルフルで中毒性高し。

「replica」

少しタメを効かせたスモーキーな歌唱から、徐々に熱を帯びていくエモーショナルな歌声がラテン味のあるジャジーな曲調に映える。裏切り?誤算?しかし怒りをさらけ出した後の決意は痛快。

「メモ書き」

すれ違いの母と子の生活。頑張ってくれているお母さんへの気持ちは成長と子供らしい寂しさが背中合わせで、この感覚は年を経ても染みるもの。映画"弁当の日"エンディング・テーマ。

「何も知らないままで」

素朴な音像が空回りしがちな男の子の片思いを描いているようで微笑ましい。特に"やめてよやめてよ/そういうのもうやめてよ"というフレーズとメロディは発明。しかしこの主人公は人間なのか、な?

「スキャンダラスに粉々に」

低音の声の魅力が炸裂するAメロから、ジェットコースターのように高低を行き交うサビのカタルシスまで堪能できるナンバー。歌謡ハード・ロック・テイストもあって幅広い世代の耳を惹きそう。

「Step on beat」

パーカッションとうねるベース・ラインがグルーヴィな1曲。街をジャックして、一晩ぐらいハメを外してダンスし続けよう――海外のコメディ・タッチのドラマにありそうなシチュエーション。

「Inside (of) me」

現行の海外ポップスのニュアンス満載。デュアル・スクリーンとエスプレッソでフル回転する昼の顔、お気に入りのジンジャー・ティーを飲みながら浸る夜のひとり時間の描写がとてもリアル。

「Today」

基本のキーがかなり高めでまっすぐなガーリーさが伝わるフレッシュな1曲。なんと曲を支えるアコギのカッティングのひとりは岩沢厚治(ゆず)。眠る前のお守りにも、朝を気持ち良く始めるのにもいい。

「Mind game」

ビッグ・バンド風のイントロやチェスに例えた日常の勝負にドラマ"クイーンズ・ギャンビット"を想起。自分の人生の主役は自分。テーマも曲調もエンタメ要素満載の愉快なナンバー。


▼リリース情報
Maica_n
1stアルバム
『replica』
2021.02.17 ON SALE
[Colourful Records]

maica_n_replica_shokai.jpg
【初回限定盤】(CD+DVD)
VIZL-1848/¥3,600(税別)
amazon TOWER RECORDS HMV

maica_n_replica_tsujo.jpg
【通常盤】(CD)
VICL-65470/¥3,000(税別)
amazon TOWER RECORDS HMV

[CD]
1. Introduction~何者1
2. Trio
3. How long
4. la Sekirara
5. Unknown
6. Missing angel (acoustic ver.) ※モンストアニメ 「ハレルヤ - 運命の選択 -」主題歌
7. replica ※富山テレビ「bms(BBT MUSIC SELECTION)」2月エンディングテーマ
ミュージック・ビデオ配信音源配信
8. メモ書き ※映画「弁当の日 『めんどくさい』は幸せへの近道」エンディングテーマ 音源配信
9. 何も知らないままで
10. スキャンダラスに粉々に
11. Step on beat
12. Inside (of) me
13. Today
14. Mind game ※フジテレビ系TVアニメ「デジモンアドベンチャー:」エンディングテーマ/KYT鹿児島読売テレビ「amp」1月度エンディングテーマ
ミュージック・ビデオ配信音源配信
15. Outroduction~何者1
16. Missing angel (rock ver.) ※モンストアニメ 「ハレルヤ - 運命の選択 -」主題歌/初回限定盤ボーナス・トラック

[DVD] ※初回限定盤のみ
・Mind game (Music Video)
・replica (Music Video)

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