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LIVE REPORT

Japanese

ドミコ

Skream! マガジン 2022年04月号掲載

2022.03.19 @日比谷公園大音楽堂

Writer 稲垣 遥 Photo by 西槙太一

"ドミコです、よろしくー!!"いつもはクールなさかしたひかる(Vo/Gt)の叫ぶような第一声から、この日に懸けた気合が伝わった。初めての日比谷公園大音楽堂ワンマン、ドミコにとって過去最大キャパの公演だ。

この日の東京は夕刻から強めの雨が降り、野音にはレインウェアを身に着けた男女がひしめき合っていた。もはや始まる前からびしょ濡れになりながらも、今か今かとステージを見つめ、その時を待つ。開場BGMがやむと、不穏なノイズ交じりのSEが会場を掌握していくなか、長谷川啓太(Dr)、さかしたひかるのふたりが、お馴染みの赤と青の"Domico"のネオン管の設置されたアンプを左右から挟むようなかたちで、ゆっくりと歩いて持ち場に着き、冒頭の通りさかしたが力強く吼えたのだった。

オープニング・チューンに選ばれたのは「問題発生です」。長谷川によるミドル・テンポの大きなビートが野音の空間にダイナミックに響き渡り、迫力抜群だ。明滅する照明が天候と相まって稲妻かと錯覚したが、真相はもはやどちらかわからないほどの荒れ模様。1曲目からいきなりさかしたが長谷川のほうへ向かい、アウトロを長編にリアレンジする。歪ませたギターでドラムとセッションを重ね、立て続けに「ペーパーロールスター」でオーディエンスを揺らした。荒天を受けて感傷的になるでもなく、反骨心を露にするわけでもない。"まあ、もうこれくらい楽しむよ"、"ようは全然どうでもいい"。そんな歌詞をスタンスで示すようなパワフルなステージングが痛快だ。音源にはないKING CRIMSON「21st Century Schizoid Man」のギター・リフも途中盛りこみニヤリとさせた。
さらに1stミニ・アルバム収録のキャッチーな人気曲「united pancake」でオーディエンスのテンションをもう1段階上げ、ファンキーでグルーヴィなインタールードから、緩急のある展開で惹き込んでいく「まどろまない」、そして「さなぎのなか」へ。"外は雨 雨は外"のリリックと現実のシンクロ、リアルな湿気を帯びたサウンドがより耳にこびりつき、陶酔させられていく。続く「くじらの巣」なんかはこの湿度を纏ったギター&ドラム、ディレイが掛かったエフェクトのおかげで、水の中へ沈むこんでいくような没入感があり、「ロースト・ビーチ・ベイベー」にしても「ベッドルーム・シェイク・サマー」にしても、これまで感じていた日照りの中の優しい風景とはひと味違う、メランコリーな空気感を孕む夏を想起させた。彼らの姿勢は大きく変わらずとも、雨はドミコの楽曲をより特別な記憶にするには十分な効果をもたらしていたし、彼らもきっとその新鮮さを面白がっていたと思う。

リアルタイムで録ったエフェクティヴな音を、ループ・マシンを使い重ねていく、もはや職人技が観られるのがドミコのライヴの見どころのひとつではあるが、そのなかでシンプルにギター弾き語りの形から入った「怪獣たちは」、「あたしぐらいは」のブロックがひと際印象的でもあった。「あたしぐらいは」は冒頭、音源よりもテンポを落とし、彼らには珍しいくらいのメロウなアレンジ。さかしたがワンコーラスをドラムレスで、クリーンな歌声で、ピンスポットを浴び歌う。このあたりで周りがより暗くなってくると、さかしたの歌うその息が白いことにも気づいた。ステージと音に没頭するあまり寒さなんてすっかり忘れていたわけだが、手元で確認すると気温10℃。照明も際立ち、客席のみならず、ふたりの立つステージにも相当に雨が降り注いでいることが遠くからでもわかった。長谷川がシンバルを叩くごとにピシャッと跳ねる水滴たちが輝く。思わず息を呑みうっとりしてしまった。

いつの間にか突入していた後半では、彼らの楽曲の濃厚な毒々しさを表出していく。あっと驚いたのは「ばける」、「化けよ」以降でのプロジェクション・マッピングの演出が相乗して生んだ酩酊感だ。ギターの音とは思えないほどの強烈で怪奇的なリフを鳴らしながらさかしたがシャウト。このタイミングでミラーボールも回り、その奇妙さがサイケデリックで彼ららしく、美しかった。そこからサイレンのようなギターを合図に最新作から「猿犬蛙馬」。さかしたは喉が裂けそうなほど叫びながら歌い、長谷川も切れ味鋭い爆発音のようなドラミング。野性味溢れるアグレッシヴなジャム・セッションでラスト・スパートをかけていく。さらにテンポ・アップし「びりびりしびれる」で客席に多くの拳を突き上げさせ、「血を嫌い肉を好む」を畳み掛けた。土砂降りの中で各々なりふり構わず踊るオーディエンスは、まるでこの曲のMVのクリーチャーさながら。そしてその視線を一身に浴び、びしょ濡れで力いっぱいのパフォーマンスを繰り広げるドミコの雄々しさ。"センキューありがとう日比谷!"さかしたが挨拶しステージを去った。

雨音に負けじと大きく贈られる拍手がすぐにアンコールの手拍子へと変わり、まずは長谷川が現れドラム・スローンへ腰かける。"アンコールありがとうございます!......雨の中ご苦労様です!"先ほどまであんなに猛々しくドラムを叩いていた張本人とは思えないフランクさに頬が緩んでしまったが、この長谷川の声が聞けるタイミングというのも、もはやドミコのワンマン恒例の楽しみでもある。"逆に楽しい......ですか?"の問い掛けに大きな拍手が湧き、嬉しそうだ。そして少し遅れてさかしたが登場。"アンコールありがとうございます"と発すると一呼吸おいてギターを紡ぎ「深海旅行にて」を披露した。アウトロでたっぷりと繰り広げたインプロ対決。ハードでブルージーな泣きのギター、強弱をしっかりつけ、次第に手数を増やしていくドラムのバトルが最高潮に激しくなるにつれて風が吹き荒れ、まさに"逆に楽しく"なったところで、その勢いを引き連れて「こんなのおかしくない?」でカタルシスを生み、狂宴が終わりを迎えた。

ライヴが終わり、帰路につこうとすると優しくなった雨脚。その後Twitterで"晴れの中やらせてあげたかった"というツイートに対し"もう少しあったかい雨の日でやる"と引用していたのには笑ったが、たしかに終わってみれば最高の演出と言いたくなるような、記憶に刻まれる一夜となったのは間違いない。
5月からは"続・血を嫌い肉を好むTOUR"を開催するドミコは、その発表と同時に、ライヴハウスに人が戻ってくるようにと願いを込め、ライヴ映像を1本フル公開した。この次はどんな痺れる体験が待っているだろうか。期待しかない。


[Setlist]
1. 問題発生です
2. ペーパーロールスター
3. united pancake
4. 旅行ごっこ
5. まどろまない
6. さなぎのなか
7. くじらの巣
8. ロースト・ビーチ・ベイベー
9. 怪獣たちは
10. あたしぐらいは
11. ベッドルーム・シェイク・サマー 12. ばける
13. 化けよ
14. 猿犬蛙馬
15. びりびりしびれる
16. 血を嫌い肉を好む
En1. 深海旅行にて
En2. こんなのおかしくない?

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