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LIVE REPORT

Japanese

ASCA

Skream! マガジン 2020年01月号掲載

2019.12.04 @渋谷TSUTAYA O-EAST

Writer 杉江 由紀 Photo by 冨田望

ひたむきに咲きながら、輝くような爛漫さを誇りながら。その空間を存分に謳歌する大輪の花の姿がこの夜そこにはあった。

2017年11月にシングル『KOE』でメジャー・デビューして以降、ここまでに着実な歩みをもって前進し続けてきたASCAが、このたび渋谷TSUTAYA O-EASTで行ったのは、"ASCA LIVE TOUR 2019 -百歌繚乱-"の東京公演となる。これは1stアルバム『百歌繚乱』のリリースを受けたものであったと同時に、彼女にとっては初の東名阪ツアーでもあったことになり、そのうえ初のバンド編成によるワンマン・ライヴでもあったのだとか。つまり、今回のライヴはいくつもの意味で、ASCAにとって節目になったものであったと言っていいのではなかろうか。

"こんばんは、ASCAです! 今日は私にとって初めての東名阪ツアー「百歌繚乱」の東京公演へようこそ。初めましての人も、そうではない人も、今日は一緒に楽しんでいきましょう!"

深紅のドレスに白のショートブーツという、なんともステージ映えする出で立ちにてこの場へと現れたASCAは、まず、冒頭でTVアニメ"グランクレスト戦記"のOP曲として起用されていた、アッパー・チューン「凛」をはじめとした3曲を威風堂々と歌い切ったあと、前述のようにオーディエンスへ向けての挨拶をしてみせた。その穏やかで、ややはにかみがちな表情は、それこそ歌っているときの"凛"とした様子とは真逆で、むしろかわいらしい女性らしさを感じさせる点がなかなか印象的でもある。客席内から男性陣の発する"ASCA!"という野太い歓声が轟くとともに、それに交じって女性陣からの"ASCAちゃーん!"という嬌声が飛んでいたのも納得な話で、おそらく彼女たちからするとASCAは憧れの対象でもあったりするのだろう。

ところで、今回のライヴについては基本的にアルバム『百歌繚乱』の収録楽曲たちが軸となって、セットリストが構成されてはいたものの、この夜の本編中盤にてはADELEの「Hello」をカバーする一幕があったことも、特筆すべき点だったと言えよう。この曲はASCAが、地元愛知県で"歌手になるために上京する"と決めた頃によく聴いていた曲であり、友人たちなどを集め"私、東京で頑張ってくるから!"という気持ちを込めて開いたライヴでも歌ったものになるそうで、すなわち彼女にとっては、"まだ将来が何も決まっていない頃にたくさんのパワーを貰った曲"でもあったのだという。今やこうして東名阪ツアーまでをも開催できるだけの存在になったASCAが、初心を思い返しながら歌ったのであろうこの曲が、非常に感慨深く響いたことは言うまでもない。

また、今回のワンマンでは『百歌繚乱』にも参加していたmizuki(UNIDOTS/Vo)が、ゲストとして招き入れられる場面もあり、ここではアルバムに収録されていた「Unti-L 〈100S-R2〉 with mizuki」と同様に、ASCAとmizukiのツイン・ヴォーカルによって生み出される美しいハーモナイズを、じっくりと堪能できたことも聴き手にとって大きな収穫であった。 そればかりか、ライヴ後半に向けては、2月26日にリリースが決定したというシングル曲「CHAIN」がいち早く披露されたのも、ファンにとっては堪らないサプライズになったはずで、いったんはアルバム『百歌繚乱』でひとつの集大成を呈示してみせたにもかかわらず、間髪を入れない形でASCAが前に向かって邁進し続けていることが、このくだりからはよくわかったのではないかと思う。

そうしたなか今回のワンマンを締めくくったのは、『百歌繚乱』の中でも強い意志を感じる楽曲として存在感を放っていた「セルフロンティア」、ASCAがリスペクトする阿部真央が曲と詞を提供しているロック・チューン「NO FAKE」、そして、TVアニメ"ソードアート・オンライン アリシゼーション"のOPとして、ASCAの名を一躍世に浸透させることになった「RESISTER」の3曲で、ここではいずれも力強くて伸びやかなASCAの歌声が、観衆たちを大いに沸かせることとなったのである。

"本当に今日はありがとうございました! 実はですね、このライヴの3日前くらいに「ASCA LIVE TOUR 2020」の開催が決定しました。来年もライヴでみなさんのもとに会いにいけるというのが本当に嬉しいです。これは絶対に私ひとりの力では実現できないことで、みなさんの応援があるから、みなさんがいつも温かい言葉や励ましをくださっているからこそのことなんです"

アンコールの声を受け、再びステージ上へと現れたアンコールでASCAが口にしたのは、ファンの人々へと向けたこの言葉だ。そのうえで彼女はこう続けた。

"今日は最後に、私の1stアルバム『百歌繚乱』のラストに入れた曲を歌わせていただこうと思います。この中では......くじけそうになったときに支えてくれたみんなのことを初めて詞に書きました。普段は言葉足らずで、私が心の中で思っている感謝の気持ちを、ちゃんと伝えることができていないところもあるし、なかなか照れ臭くて言えないようなこともあるんですが、この曲では思い切って私の本音を詞にしました。今日はこの会場にいるひとりひとりに向けてこの曲を歌いたいと思います。聴いてください。「このメロディに乗せて」"

ドレスからTシャツに着替え、ラフな装いでこのときASCAが歌ったそのメロディと歌詞たちは、どこか"すっぴん"なものとして聴こえた気がする。優しく素直な彼女の表情と歌声が場内を包み込んでいく様は、実に温かく味わい深いものとして聴き手の心に染み入ってきたのだ。凛とした強さだけでなく、包容力をも持つASCAという名の大輪の花がこれからも繚乱として咲き誇っていくことは、どうやら間違いなさそうだ。

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