Overseas
Hostess Club Weekender
2012.11.03 @Zepp DiverCity
Writer 伊藤 洋輔
ここ日本の洋楽マーケットではなくてはならない存在であるHostess Entertainmentがオーガナイズするイベント、Hostess Club Weekender。フェスとは一線を画す特別な週末を演出してきたこのイベントも今回で3回目となり、人気アクトから個性派まで幅広いアーティストを擁するレーベルの強みを活かし多くのファンに定着化した印象を受ける。今回も2日間ともに豪華なラインナップとなったが、どちらかと言えばよりラウドなアーティストが集った1日目をレポしよう。
ステージ中央で肩を組み祈りを捧げてからプレイに入るLindsey Troy(Vo/Gt)とJulie Edwards(Dr)、クールで(褒め言葉としての)ビッチな新鋭女性デュオDEAP VALLYがトップバッターだ。LAを拠点に活動しており、オリジナリティはミニマムなブルース~ガレージ・サウンドを基礎としたもの。デモ音源とライヴ映像がネットで話題となりデビューした経緯のようだが、いま最も彼女らの代名詞となっているのは、あのQOTSAで知られるJosh Hommeからお墨付きが与えられた点だろう。すでにJoshのサイド・プロジェクトEAGLES OF DEATH METALのオープニング・アクトも経験済みというから、そのパフォーマンスも危険なニオイがプンプンと。Lindseyの野太いシャウトにシャープなギター・リフ&タイトなドラムのぶつかりがオーディエンスの興奮を呼び起こす様は、まるでTHE WHITE STRIPESが憑依したかのような姿だ。かつてのJack Whiteのように細やかなリフや自在なアレンジなど引き出しの多さはいかなるものか? と浮かぶが2人の荒削りながらも“私は私”とオンリー・ワンに唾を吐きつけるようなかっこよさがすべてを物語っていた。まだまだ未知数、アルバム・デビュー前ということで知名度も低いが、まずはご挨拶のインパクトを与えたのは確か。今後の活躍に期待できるパフォーマンスでした。
お次はTHE WAR ON DRUGS。ラウドと呼ぶには繊細なギター・メロディが持ち味だけに、この日1番浮いていたアクトとも。しかしその浮きっぷりがまた素晴らしく、会場ではベスト・アクトとの声も聞こえてきた。サイケな酩酊と疾走感が同居した「Your Love Is Calling My Name」でスタート。奥深い叙情感を伺わせる「Come to the City」でのフロントマンAdam GranducielはまるでBob Dylanのような抑揚で歌い上げる。その流れで繊細なアコギが交わり響く「Comin' Through」とは堪らなく気持ちがいい。「Best Night」ではまろやかなギター・メロディを中心に、上質なワインを味わうかのようなアウトロのジャム・セッションがフロアに染み込み、文字通り“最高の夜”を演出する。まろやかなギター・メロディは「Brothers」でも続いたが、本当にギター・ワークが美しく、またAdamの歌声が絶妙にとろける。想えばこのバンドを語ると、ソロとして成功を収めたKurt Vileがかつて在籍したバンド、という表現がどうしても付き纏っているが、そんな呪縛を払拭するように圧巻の世界観を構築していく。その深遠な叙情感に潜るように聴き惚れてしまった多くのオーディエンスが心地よくユラユラと揺れていたのも特筆すべきもの。とてもとても気分がいいのだ。大袈裟や誇張でもなく、THE WAR ON DRUGSのパフォーマンスに良質なUSインディー・ロックの縮図を見せられた気がした。恐らく、ラウドを求めた多くのファンにも意外な発見を齎しただろう。
さて、ここから前方で待ち構えるオーディエンスがさらに増えた。待ち構えるは一度聞いただけでは覚えられないバンド名として有名な...AND YOU WILL KNOW US BY THE TRAIL OF DEAD奇跡の再来日! なんと11年ぶりというから驚きである。今回は99年リリースされたバンドの出世作であり90’sオルタナティヴの金字塔(いや、終着点かな?)『Madonna』を再現するスペシャル・セットでのパフォーマンスだ。なにかと最近よく聞く“再現ライヴ”だが、ポスト・ハードコアから轟音ポスト・ロック、サイケにプログレとあらゆるジャンルを飲み込んだコンセプチュアル・アートのような名盤だけに、それまでとは違う期待感が開演前から漂っていた。そして結論から述べると、その期待を裏切らない、名盤としてのさらなる確証を強烈に与えるパフォーマンスとなった。「Mistakes & Regrets」~「Totally Natural」~「Blight Takes All」~「Clair de Lune」と、美しい旋律から激情的なカオスとなるバンド・アンサンブルを音源以上のエモーショナルな躍動で繰り広げる。決してノスタルジックに彩られるのではない、新たな生気に満ちた力強いものだ。また緩急織り交ぜた世界観だけに、アルバム構成の良さまでも再認識する。フロントマンConrad Keelyが叫びながら拳を突き上げる、Jason Reeceはギターからドラムと忙しなくパート・チェンジを行う――永らくバンドを支えたふたりの活躍にオーディエンスも熱狂するが、やはりハイライトは「Aged Dolls」から「A Perfect Teenhood」。壮大な叙情詩を語るように「Aged Dolls」を披露し、「A Perfect Teenhood」の圧倒的なカオスに突入した流れは問答無用にかっこよく、ファンは待ってました! とばかりにモッシュの嵐を巻き起こす。終盤には先日リリースされたばかりの新作から「Catatonic」も披露され、現行モードもしっかりアピール。久々の来日でも健在ぶりを発揮してくれたTRAIL OF DEADへの拍手はとても暖かいものだった。
続いて、場内にまだTRAIL OF DEADの熱い余韻が漂っているなか野獣登場、ハードコア・パンク・バンドFUCKED UPだ! これはどうレポしようか悩むが、とにかく最高なんだ! 以上、終わり!……で、片付けたい気持ちがある。個人的な心情で申し訳ないが、今夏FUJI ROCK FESTIVALでライヴを初体験してから純粋なファンとして彼らの虜になってしまった身なのだ。あのライヴの強引な説得力は、どれほどクドクド語ろうが伝わらないだろう。まぁ、正直言うとレポとか関係なく楽しんでしまいました。ごめん!……さて、このバンドの巨漢フロントマンDamian AbrahamことPink Eyesはほとんど短パンのみでフロアをのし歩きながら叫び続ける。フロアどころか、今回はフロアの扉を開け廊下まで行ってしまったのは驚いた。マイク・コードを顔に巻き付けたり、多くのオーディエンスと抱き合ったりハイタッチしたり、頭叩かれたり揉みくちゃになろうが叫び続ける。そんな状況に彼らをまったく知らないオーディエンスも強制的に賛同せざるを得ない。そんな動きでどうしてもPink Eyesに目が行ってしまうが、ステージ上での他のメンバーも堅実なプレイが光る。終盤ドラム・キットのトラブルがあったものの、トリプル・ギターを活かした厚みあるメロディは素晴らしいです。「The Other Shoe」や「Son the Father」など、多くのオーディエンスがモッシュ&ダイヴし全身汗まみれで最後の最後までフロア全体ありったけ楽しませてくれた。これぞハードコア・スタイルのユニティ精神! 本当に素晴らしいパフォーマンスでした。余談だが“なんかハードコアのライヴって怖いなぁ苦手だなぁ”と思ってる人でもいつかはFUCKED UPのライヴは体感したほうがいいと思う。暴れなくてもその場にいるだけでも絶対に楽しめると保証するから。そして風貌からは想像できないが、Pink Eyesはとても紳士な奴です。MCでも日本のプロレスとジャパニーズ・ハードコア・バンドに敬意を表してくれたし、ライヴ終了後もフロア内で気さくにファン・サービスしていましたよ。次回の来日を楽しみに待っていよう!
さあ、いよいよトリを飾るはオルタナティヴ・ロックの生き証人、DINOSAUR JR。J Mascis、Lou Barlow、Murph、黄金の爆音トリオはTHE CUREのカヴァーだけどすっかり持ち歌のようになってしまった「Just Like Heaven」からスタートする。お馴染み、6連マーシャルを背に白髪を振り乱しながら気だるいヴォーカルを吐くJの姿が目に映るが、この日はいつにも増してLouが絶好調だったような。ネックをキレキレに叩きつけるように弾く姿はホントかっこいい! 終始そうだったが、MCでもハイテンションにオーディエンスを煽っていた。しかしJはいつも穏やかでハイテンションの姿など今まで見たことないし、このコントラストがDINOSAURなんだよなぁ、なんて感慨も。バックには新作のジャッケットであるバナーが掛けられていたが、この日は新旧のバランスが取れたセット・リスト。新作から「Almost Fare」に「Rude」と続けば、「The Wagon」に「Start Choppin'」と往年の人気曲が出される。中盤にはJとLouがDINOSAUR以前に活動していたDEEP WOUNDから「Training Ground」を披露し、ハードコア・パンク色強い楽曲だけに急にフロアの熱が帯びた。そんな流れで代表曲「Freak Scene」に突入したのはさすがの一言。この日のハイライトと呼べるほど大きな熱狂を起こした。個人的には彼らの記念すべきデビュー・アルバムのオープニング「Forget The Swan」を披露してくれたのが嬉しい。まさか聴けるとは! という感じ。もう27年前のアルバムですから。そしてLouの雄叫びとくればこの曲、「Little Fury Things」!アンコールに入っても熱いパフォーマンスは続くが、最後にはスペシャル・サプライズ……というか乱入? FUCKED UPのPink Eyesが再びステージに登場し「Chunks」を披露!海外のライヴでは度々共演していた仲なので、この強烈な組み合わせが日本でも実現したのはとても嬉しかった。祭の〆となる花火のような盛り上がりをみせライヴは終わった。
全体的にみるとやはりラウドな余韻が残った1日目。すべてのアーティストがそれぞれの持ち味を存分に発揮し、最後の最後にはスペシャルな共演も実現した。そしてDINOSAUR JRファンだろうとTRAIL OF DEADのファンだろうと関係なくひとつのステージのパフォーマンスに声援を送る、あらゆるファンが垣根を越えて楽しむ姿が垣間見れたのも印象的だった。多くのファンがこの日はいい汗かいて、うまいお酒を堪能したでしょう。本当に素晴らしい1夜でした。
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