Japanese
琴音
Skream! マガジン 2025年02月号掲載
2025.01.19 @SUPERNOVA KAWASAKI
Writer : 石角 友香 Photographer:Yusuke Takamura
シンガー・ソングライターの琴音が、音楽活動5周年を機にリリースした新曲を含むベスト選曲のアルバム『成長記 ~Now&Best(2018-2024)~』を軸にしたワンマン・ライヴを川崎と地元新潟で開催。ここでは初日にあたる川崎での2ndショーを振り返る。
いきなりアルバム取材時(※2024年10月号掲載)の話で恐縮なのだが、彼女の歌う姿勢に直結する発言が今も印象に残っている。それは「image」の着想についてで、好きでやっていることを"これしかできない"と言うことの、ある種の逃げに違和感を持っているということだった。苦しいことがあっても自分で勇気を持って選択しているのだという姿勢は彼女の歌とアーティスト性に直結している。そのことを今回のライヴで鮮烈に再認識したのだ。
深いブルーの照明に包まれるステージをファンが見守るなか、ヒールの音を鳴らして1人で登場した琴音。アコースティック・ギターを爪弾きながらのオープナーは1st ミニ・アルバムから「願い」。丹念に言葉を紡ぐ緊張感と繊細で青くまっすぐな想いが胸を衝き、一瞬で彼女の音楽世界に落ちた。2曲目の「狭いソラ」からモチヅキヤスノリ(Key)が加わり、歌とピアノが会話するようなアレンジに自ずと集中力が高まる。続く「夜明け前」でバンマスの花井 諒(Gt/Ba)も加わりトリオ編成に。Aメロ部分の地声が近さを感じさせ、サビでモチヅキのコーラスが重なることで静かな心強さが増した。単にアコースティック・アレンジというより、隙間が多い分、楽器の音とメロディも厳選された美しさで、歌そのものが世界観を牽引するのがいい。
最初のMCでは、1stステージの緊張感を経たのでさすがに2ndステージは大丈夫かと思いきや、やはり1曲目は足が震えたと素直に話す。正直だが甘えない。そのパーソナリティもかけがえのない魅力だ。ループするピアノ・リフとアコギがグルーヴを生み出し、暗闇を進んでいくメッセージを支えるような「君は生きてますか」、初めてSEが加わりアトモスフェリックなムードが立ち上がった「多面体」のアレンジもいい。R&Bナンバーのフロウを取り入れた譜割を乗りこなしながら、ハイトーンに抜けていく歌唱の流れの良さがまさに様々な顔と心を持つ人間の多面性をヴィヴィッドに伝えていく。そして冒頭に書いた彼女の言いわけを嫌う性格も表現された「image」。同じ時間が繰り返されるようなピアノの連打と"僕ら傷つくことすらも身勝手だ"という歌詞で地面を蹴るようにサビへ抜ける、この歌詞と体感のリンク。シンプルでよく練られたアレンジがここでも際立っていた。さらにアコースティックだがEDM的な推進力のある「Brand New World」も、豪華な音源の聴感とはまた違う新鮮さに満ちていた。
中盤にはワンマン・ライヴでは必ず新たな挑戦をしていきたいという意図で、この日は10代の頃に作られた楽曲をメドレーで歌う"10代メドレー"が盛り込まれた。先輩アーティストのライヴを観ての発想だったようだが、初期の彼女に詳しくない私のようなリスナーにもある種素朴な10代の歌と言葉を知る好機になった感も。しかも「夢物語」、「白く塗りつぶせ」、「音色」等5曲を盛り込んだメドレーは静と動の起伏もあり、自ずとクラップが起きる馴染みのナンバーがステージとフロアの距離を一気に縮めたりもしていた。キャリアを一望するだけでなく、ライヴの温度の変化も楽しめる趣向になっていた。和やかなムードのメドレーから一転、ダーク・ファンタジーのようなSEが流れ、新境地を示す「Heaven」になんの前置きもなく入っていくのもいい。聴き手の心の準備がないまま歌と音が連れていく不安で浮遊感のある境地はまさに体験的。後のMCで"こういう情緒不安定なセットリストは好きなんですよ"と話し、同意を得ていたのも彼女らしかった。
セットリストで挑戦を見せるだけでなく、今回はソリッド・ギター(テレキャスター)を弾く場面も。"薄いけど重いんですよ。でもこれでバンドマンに近づけるかも?"と、一人一人の心に灯りを灯す「ライト」を披露。アメリカのシンガー・ソングライターのような自然体で大きな存在感を見せてくれた。そしてアコギとピアノのアルペジオも琴音と一緒に気持ちを積み重ねていくようなアレンジがいい「君に」を届ける。強い眼差しが特徴的な彼女もこの曲では幸せそうに歌う姿が見て取れた。
"残り1曲です"という言葉に被せるように起こる不満そうな声。"これが楽しくて言っているようなもので"とユーモアで返す琴音はリスナーより上手なのかもしれない。本編最後を前に、改めてこの5年を振り返ると短いようで長く、やはり短かったと言う。ただ、5年は節目と思っておらず、これから10年、15年と続けていってもそのとき、聴き手にとって自分の音楽がそばにあれば嬉しいという想いを伝えていた。彼女にとって何かを成すこと以上に音楽をするということ自体が生きることと直結しているのだなと感じる場面だった。そして1曲目の「願い」と同様、弾き語りで10代の頃から歌い続けてきた曲且つ、アルバムとライヴ・タイトルにもなっている「成長記」を丁寧に歌い出す。不安や怯えを敏感に感じるからこそ、人のそれにも気付ける。大袈裟ではなく静かに強く誰かにとっての灯りになれるはず。本心を飾らず伝える声とはこういうことなのか、と再び高い求心力で歌い切った彼女に感謝の気持ちがこもった拍手が送られた。
今回のワンマンは23歳になって初めての公演で、祝福の声も飛ぶなか、アンコールはまさにアンコールらしいリラックス・ムードで展開。「明日への手紙」と「大切なあなたへ」という歌い続けてきた2曲がステージとフロア双方で贈り物を交換しているような温かさで幕を閉じたのだった。
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