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LIVE REPORT

Overseas

NOEL GALLAGHER'S HIGH FLYING BIRDS

Skream! マガジン 2024年01月号掲載

2023.12.01 @東京ガーデンシアター

Writer : 石角 友香 Photographer:MITCH IKEDA

約5年半ぶりの新作『Council Skies』を2023年6月にリリースしたNOEL GALLAGHER'S HIGH FLYING BIRDSが、本作を携えて約4年半ぶりのジャパン・ツアーを開催した。ここでは初日の東京ガーデンシアター公演をレポートする。

最寄の国際展示場駅からすでにファンの年齢層の厚さを実感しつつ、会場へ急ぐ。目視でも20~70代まで、いわば3世代のオーディエンスが集合した印象だ。外国人も多く、各々にとってのNoel Gallagher像、理想のセットリストがありそうな、豊かな空間である。ホールに入るとステージ上の花の装飾が目に飛び込む。自然を意識したセットというよりチアフルなイメージだ。興奮を抑えながらステージを注視するオーディエンス。完全に暗転しないまま、サックスの不協和音などが織りなすSEと輪郭が明確でない背景の映像がリンクし始める。次第に映像がバンド名であることが明らかになると、メンバー総勢10名が定位置にセットしていた。ギターのGem ArcherとドラムのChris SharrockはOASIS時代からの盟友であり、長らくNoelの音楽を支えてきたふたりだ。ベースももはや長い付き合いになってきたRuss Pritchard、そして今回はキーボードが3名いることに少し驚く。さらに女声コーラスは3名と、前作『Who Built The Moon?』時のライヴ以上にコーラス・ワークが重要なファクターになりそうな予感。

オープナーは新作のリードでもあったニュー・ウェーヴ・テイストの「Pretty Boy」から。Noelの第一声に大きな歓声が湧き上がる。ストーリー性のある背景映像が少し意外だったが、今回のライヴはメンバーのリアルタイムの映像はなく、かなり徹底して曲ごとのコンセプチュアルな映像演出が構成されていた。冗長なエンディングはなく、端的なアレンジで続いてはアルバム・タイトル・チューンの「Council Skies」へ。Noelの原風景であるマンチェスターの風景がスチームパンク風のヴィジュアルになって投影され、自ずと物語の中に入っていく感覚。大所帯だが、非常に整理されたライヴ・アレンジで、大きな会場ながらNoelのパーソナルなストーリーテリングを邪魔しない。そしてコーラス・ワークに70年代サイケっぽさを感じ、新作のニュアンスの肝がライヴでも醸成され始めた。冒頭から伸びやかなヴォーカルに瞠目したが、Noelの喉の調子の良さは続く「Open The Door, See What You Find」のロング・トーンで確信した。ギターはアコギでもフルアコでもバッキングに徹し、ソロはGemに任せている様子の彼は以前にも増してシンガーとしての存在感が強まったように思う。

続くソウル的な開放感の漂う「We're Gonna Get There In The End」ではGemがクラップを促すと同時か、それより前から自然とフロアでクラップが起こり、新作を聴き込んだオーディエンスの一体感を実感。バンドはあくまでもNoelが書いた曲を届ける演奏に徹しており、鍵盤の多さにもかかわらず無意味な音が一切聴こえない。ワールド・ツアーを経てきたことによる熟成なのか、共に年齢を重ねてきたバンドの人格なのか、おそらくその両方なのだろうけれど、90年代からトップに居続けるブリティッシュ・バンドの最新の試行でもあるのではないか? と感じた。そして新作の中で最もNoel節が横溢するメロディを持つ「Easy Now」の歌い出しには思わず鳥肌が。独特のメランコリーと優しさを含んだ声とメロディの破壊力ったらない。さらに女声コーラスのゴスペル的なパワーがカタルシスを底上げしていく。やはり途轍もないメロディ・メーカーである。

新作の肝になる5曲を一気に演奏し、やっと"こんにちは。東京に戻ってきたよ"と軽く挨拶したNoelはかなり機嫌が良さそうだ。ここからは1stアルバム、2ndアルバムなどからの選曲を現在のバンドのモードにアップデートして届けるタームで、ストレートの8ビートの「You Know We Can't Go Back」でグッとフロアの熱量を上げ、メロディとコーラス・ワークで空間を拡張する「We're On Our Way Now」、再びNoelのどこまでも遠くへ放たれる声の魅力に圧倒される「In The Heat Of The Moment」。曲を伝えることに奉仕するバンドの円熟にも惚れ惚れする。ギター・チェンジの少しの間にも、熱狂的なファンの叫びに近いNoelコールは大きくなる一方で、Noelが"Are You OK?"と聞き返す場面も。それにつられてオーディエンスからも笑いが起こる。新曲も熱心にシンガロングする人もいるし、想いの丈を叫ぶ人もいる。それぞれの想いがあり、それを想像できるファンが集まったことがこの場をより居心地の良いものにしている。OASIS後期とソロ初期をブリッジする名曲「If I Had A Gun ...」はイントロで大きな拍手が起こり、サビではシンガロングも。ピアノ・リフがフィーチャーされた「Aka... What A Life!」ともどもソロ曲では不動のクリンナップという感じだ。

Noelのアコギとキーボードのふたりだけで鳴らされたのは、背景に海と満月が映し出されるなかでの「Dead In The Water」。スタジオ・ライヴの音源もリリースされているが、今回、全体的にNoelがOASIS解散後、ソロとキャリアの中で現在の表現を模索してきたなかでの象徴的な、よりシンガー・ソングライターとしての側面を如実に表す演奏になっていたと思う。過剰なセンチメントはなく、ブルースマンでもフォーク・シンガーでもなく、ロック・バンドのキャリアを背負うSSWのソング。しかも新作を出し続けるアーティストとしてのリアルを見た思いだ。

90年代に戻ろうか、というような意味のひと言から、OASISの「Going Nowhere」を選んだのもここまでの流れからすると自然に思える。カリフォルニアの茫漠とした風景をバックに鳴らされるこの曲がロードムービーのような体感を与え、新作からエレジーとブルースが立ち上がる「The Importance Of Being Idle」に繋いだのはとてもいいアイディアに感じる。映像もラスベガスのカジノを思わせるもので、「Going Nowhere」から接続している印象だった。単にソロ新作、既発曲、OASIS時代のナンバーという構成ではなく、ひと連なりのセットリストを構築しているのは、続く選曲が「The Masterplan」だったことで、途切れる感じがない。しかし、「Going Nowhere」に比べるとリアクションは大きく、歌い続けていた外国人の青年は"OMG! オエイシス!"と感嘆の声を上げていたぐらいだ。

さらにNoel節のメロディといい意味での素朴さが際立つ「Half The World Away」の披露はかなり意外ではあった。それでも二拍のクラップをちゃんとキメられる生え抜きファンのすごさと言ったら。実に様々な想いと歴史をファンも持っている。さりげなく次で最後の曲だと告げ、不服の声が随所で上がるが、そのラスト・ソングである「Little By Little」でのNoelの力強く放たれる声、共に歩くようなバンドの魂のこもった演奏で誰もが思い出したように歌い始め、シンガロングが大きくなる様は歌詞の内容とも相まって胸に迫る。"And all the time I just ask myself why you're really here? Why am I really here"――ステージとオーディエンスの境界を越えて、この先も問い掛け続けるだろう。白い光彩をフロアに残し本編が終了。自らの依って立つ場所を明快にした新作から、このエンディングまで、過去一トータリティのあるショーだった。

OASIS~ソロを自身のソングライターとしてのナラティヴで見事に描いた本編で、アーティスト Noel Gallagherの新章が繰られた感慨のあとのアンコールは本来の意味のアンコールを改めて教えてくれた感じだ。Bob Dylanでも知られるが、アレンジはMANFRED MANNを参照したと思われる「The Mighty Quinn」のカバー、ひと言、先日残念ながら逝去したShane MacGowanの名前だけを告げ、捧げられた「Live Forever」は音数を絞り、コーラスを生かしたアレンジで静かに深く届ける。一曲一曲が二度とない感情に裏打ちされた演奏だ。最終曲はもはや誰のものでもない、OASISファンのものだけでもない、ある種パブリックな願いの集合体のような「Don't Look Back In Anger」。フットボールのチャントのようなシンガロングが鳴り響き、ついにこの曲ではNoelがギター・ソロを弾く。これは今後も変わらないだろうけれど、ファンの熱狂に応えながら現在進行形のキャリアを築くNoel Gallagherが間違いなくそこにいた。


[Setlist]
1. Pretty Boy
2. Council Skies
3. Open The Door, See What You Find
4. We're Gonna Get There In The End
5. Easy Now
6. You Know We Can't Go Back
7. We're On Our Way Now
8. In The Heat Of The Moment
9. If I Had A Gun ...
10. Aka... What A Life!
11. Dead In The Water
12. Going Nowhere
13. The Importance Of Being Idle
14. The Masterplan
15. Half The World Away
16. Little By Little
En1. The Mighty Quinn
En2. Live Forever
En3. Don't Look Back In Anger

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