Overseas
NOEL GALLAGHER'S HIGH FLYING BIRDS
2012.01.17 @TOKYO DOME CITY HALL
Writer 伊藤 洋輔
"OASISを終わらせた男"が日本にやってきた......なんて書き出しだと皮肉に捉われてしまうだろうか?しかし、どんなに時間が経とうが、どれだけ新たなプロジェクトを立ち上げようが、ソロとしてアルバムを何枚も何枚もリリースし続けようが、永遠にその呪縛からは逃れられないのだ。「Mucky Fingers」でGem Archer(現BEADY EYE/Gt)のハーモニカが聴こえないとは......OASISのアティチュードを表明した「Supersonic」で聴こえたあの"がなり声"はどこへいった?......なんてところで複雑な心境を抱いたかもしれない。OASISとは、それほどまでファンひとりひとりの物語性を刻み込んでしまった。しかし、いまさらそれをあれこれクドクド綴ろうとは思わないが、この日のパフォーマンスから感じたなかに、OASISが終わろうとも物語は続く、ということを感慨深く想ったことは事実である。
今回の来日公演はTOKYO DOME CITYホール(キャパ約3000人)というこれまでと比較すると小さな会場で行なわれ、間近でNoelを堪能できるとあり、多くのオーディエンスが詰めかけた。この日は来日公演2日目。開演時間をやや過ぎると、バック・スクリーンに"NOEL GALLAGHER'S HIGH FLYING BIRDS"のロゴが浮かび上がり、ラフなスタイルでNoel Gallagherが登場しフロントに立つ。やや髪の毛には白髪が目立ち始め、額や目尻のシワも深くなってきている。Noelも今年で45歳だ。アコギから柔らかなメロディを刻み1曲目「(It's Good) To Be Free」に突入すると、なんだかその歳の味わいがそのまま反映されたかのような、深みある叙情感が沁み渡った。続いた「Mucky Fingers」のエモーショナルな叫びもそう。スタートからOASIS時代の楽曲が立て続けに披露されたが、新たな旨味を醸し出して素晴らしい。Noel曰く、あくまでソロ・プロジェクトだがバンド編成に拘ったという布陣とも息ピッタリだ。3曲目にはいよいよソロ作から「Everybody's on the Run」を披露。ピアノ・アレンジを利かし音源とは別の重厚さを漂わせ、現行モードの世界観をみせる。「Dream On」~「If I Had A Gun...」~「The Good Rebel」も同様だが、アルバムの先行トラックとなった「The Death Of You And Me」は象徴的に響く。抑揚をつけたヴォーカルにカントリー・テイストなフォーキー・サウンド。ギター・ロック然とした過去と決別したかのように、アコギが様になっていた。中盤にはお決まりの弾き語りコーナーで名曲「Wonderwall」と「Supersonic」をしっとりと聴かせる。原曲から節を微妙にアレンジし、演歌でいう"こぶし"を利かせるように歌うのも年の功ならではか。やはり名曲の連打だけにオーディエンスの反応はとても良く、繊細なメロディに酔い痴れていた。前日からそうだったようだがこの日もNoelはご機嫌で、前列にいた熱狂的なファンの女性から手紙を受け取る一幕もあり、終始ニコやかにオーディエンスとやり取りする姿も多く見られた。その後もソロ作に「Talk Tonight」や「Half The World Away」とOASIS時代を交え、まったく熱の冷めないパフォーマンスで本編は終了した。そしてアンコールはまさにスペシャル・メドレー状態!まずはここ日本だけの特別な1曲、「Whatever」が。過去のインタビューでNoel自身この楽曲が日本で人気が高いのを不思議に思っていると語っていたが、忘れずこうして披露してくれるあたりはさすが兄貴! 続いて「Little By Little」は後期OASISでも演奏されていなかったために、久々の復活で会場割れんばかりの拍手が!当時のアレンジをさほど変えず、エモーショナルな歌声を轟かしたのは感動的だった。さらに時代劇「水戸黄門」のテーマにイントロがそっくりと呼ばれる「The Importance Of Being Idle」。叙情感たっぷりに歌い上げる姿までもまるで"黄門さま"な威光を放っていた(あれは照明かな?)。そしてひれ伏した(ような)オーディエンスに最後の1曲......そう、テッパンな終演を迎える。"5月の武道館でまた会おう"と呟き聴こえてきたピアノのイントロはもちろん、「Don't Look Back In Anger」!その瞬間から会場総立ち、みな両手を掲げ叫んでいる。"So sally can wait, she knows it's too late as we're walking on by......"――何度体感しただろうか、何度叫んだだろうか、多くのオーディエンスがそうであろう、サビでの大合唱と共にあの日の物語がフラッシュバックしたのではないか。永遠に色褪せない名曲に場内がひとつとなる瞬間、野太い声で叫び続ける男性、恥ずかしげもなく涙する女性、そこには喜びに満ち満ちたファンの姿があった。
Noelは理解している。どんなに時間が経とうが、どれだけ新たなプロジェクトを立ち上げようが、ソロとしてアルバムを何枚も何枚もリリースし続けようが、永遠にOASISの呪縛から逃れられないことを。だからこそアンコールでは惜し気もなく過去を披露し、いつもと変わらない最後を演出する。それは"物語の続き"を予感させるものだ。恐らく、現在は封印しているがBEADY EYEもOASISの楽曲を歌う日が来るだろう。そして、Gallagher兄弟の和解を経て再びOASISとなる日も来るだろう......きっと。セット・リストを眺めて想うが、Noelは「Stop The Clocks」を歌っていないのだ。
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