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LIVE REPORT

Japanese

Chara

Skream! マガジン 2015年05月号掲載

2015.04.16 @中野サンプラザホール

Writer 石角 友香

ニュー・アルバム『Secret Garden』が、どこかみんなが大好きな1997年リリースの名盤『Junior Sweet』のころをアップデートしたような、愛に溢れたアルバムであることや、ホール公演ならではの演出や選曲に期待して会場に足を踏み入れた。しかも開演に余裕を持って。そうすると世代を問わず相変わらずおしゃれな女性や、子供連れのお客さんの多さに気づいたり、男女ともに若いファンが新たにライヴに足を運んでいることに気づく。この循環はデビュー24年を迎えたアーティストとしては破格だと思う。


ステージに目をやると天井からランプシェード状のものやプランツが吊り下げられ、床にはオフィシャル・サイトでも紹介されていた大阪のヴィンテージ・ショップで購入したスツールが置かれている。ここは"Secret Garden"でもあり、Charaと仲間たちの部屋でもあるのだ。客席の照明が落ちる前にステージが照らされ、小鳥のさえずりのSE、木漏れ日風のダウンライトの中、登場したCharaと"Aurora Band"(Curly Giraffe/Ba、名越由貴夫/Gt、白根賢一/Dr、ゴンドウトモヒコ/Prg&FHr、Kan Sano/Key、加藤哉子/Cho、竹本健一/Cho)は、ステージ上でコンテンポラリー・ダンサーのように一瞬ポーズをとり、各自の定位置についた。さりげないけどアーティスティックな演出にいい緊張感が保たれる中、新作からごく音数の少ない「せつなくてごめんね」。ささやくようなCharaの歌とエレピの丸い音に神聖ささえ感じるのは音源とまた違う印象だ。続けてコーラスがゴスペル的なニュアンスの「恋は目を閉じて」と、彼女の呼吸を肌で感じるようなスロー・チューンで内側から熱くなるような幕開きに早くも感極まる。


47年間、女の子として生きてきた愛のお話をするね、いい?"と始まったのはアルバムのタイトル・チューン。ムーディなソウルに聴こえつつ、うっすら効果的に施されたエレクトロニクスが彼女らしいオルタナティヴな世界観を静かに伝える。微妙などこにもない質感を伝えられるのはやはり"Aurora Band"だからこそ。ライヴや作品で活動を共にしてきたCurly Giraffe、名越由貴夫、白根賢一のルーツ・ミュージックからオルタナティヴまで消化した表現力、くるりのツア--・メンバーとしても知られ、フリューゲルホルンという管楽器ひとつで空間をグッと拡張するゴンドウの実力が、Charaをさらに自由にしている。また、「不器用」ではCurly Giraffe、名越、Charaが座ってアコギを奏でる場面も。
このツアーは2部構成で第1部はニューアルバムから9曲を選んでのセットリストなのだが、曲紹介をするCharaがいつになく雄弁で、でも決して曲の意味を説明したりしない、歌詞同様に聴く人それぞれの思いにリンクするMCは、時にユーモアを、また時に彼女の哲学を伝える。最初は"ちょっと束縛が多くて動きにくい"と言っていた、アルバム・ジャケットの彫像に似た白いドレスだったが、「ラッキーガール」でハンド・クラップが起こると動きにくさもなんのその、自然とアクションも大きくなる。そして1部のラストは生音とエレクトロニクスが少ない音で効果的に歌を伝える「スーパーセンチメンタル」。エンディングに向かう音の洪水はライヴならではの迫力で、名越がギターを弓弾きする音など、ポップなSIGUR RÓSという言葉が浮かぶ。豊かなアンサンブルに全身を持っていかれた。


一部の余韻を残す無人のステージにはオルゴール調の音楽が流れ......あ、「蝶々結び」だ、と気づき、彼女は今回のツアーを今とこれまでを自然に繋げる構成で展開しようとしているのかな?と予測した。再び登場した彼女は今度は存分に踊り、アクションできるカラフルなニットワンピース。センターに立ち、バスドラムのビートに合わせて足を踏み鳴らす。そう「やさしい気持ち」だ。みんな一斉に立ち上がり、腕を高く上げている。そしてさらに気持ちを高揚させる「ミルク」が会場をエモーショナルに包み込む。

 
第2部はみんなが大好きな愛しくて力強くて、切ないのひと言では表現しきれない強力なナンバーが惜しみなく届けられる。「Secret Garden」の楽曲だけで構成した第1部と同様、第2部も彼女の原点であるソウル、R&Bベースの楽曲が続くのだが、「罪深く愛してよ」の、モータウン調のファンクネスは最近のR&Bシーンとも共振するフレッシュさがあり、もしそこにUSのトレンド好きなリスナーがいても楽しめたんじゃないか?と思える共時性があったことも記しておきたい。そして"いつでも曲作りは大好きだけど、自分で歌おうとは思ってなかった。失恋をきっかけに髪を切るぐらいで気持ちが済まなくなって、ソニーの人の前で歌ったの"と、デビュー・アルバムからライヴでの披露はレアな「Break These Chain」、名作『Junior Sweet』の中でもこちらもライヴでの披露は久々だという「愛の絆」をシンセの彩りが新鮮なアレンジで届けてくれた。

 
 
 
本編ラストはカジュアルさとアーティスティックなムードが融合した「月と甘い涙」という、音楽の神秘を体現した楽曲で、第1部同様、オーディエンスの内なる野生や愛や祈りの気持ちを呼び起こすような選曲が美しかった。そして1部の登場時同様、"Secret Garden"で出会った瞬間をストップモーションで切り取ったようにポーズをとった8人は暗くなったステージを去った。
Charaは存在感と曲の良さはもちろん、今の自分の心身に向き合ってこれまでにないほど気持ちよさそうに歌を自在に発している。もちろん、彼女の表現したい微妙なニュアンスを1番いい距離感で共に編むことができるバンド・メンバーの存在もとても大きい。


開放感に満ちた笑顔でアンコールに再登場したバンドが演奏したのは、先ほどオルゴール調のインストで流れていた「蝶々結び」。やはりすべてがリンクした演出だ。どこかスペイシーな音源での質感をオーガニックなアレンジに変換し、改めて"Aurora Band"の柔軟さも存分に味わえる演奏だった。音楽的にもヴォーカリストとしても高い地平でそのオリジナリティを堪能させてくれた彼女は、今、これまでよりもしなやかで強い。

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